第20話 「対峙、再び②」
メフィストフェレスが仕える大いなる
この主が魔界に住まう怖ろしい『魔王』だと分かった俺は、更に質問を続ける。
『成る程……メフィストフェレス、お前ほどの上級悪魔が素直に且つ簡単に従うとはな』
『は~い、バリバリ従順に従っておりますよぉ! ヤッホー!!』
相変わらずコイツには疲れる……無視。
俺はマイペースで話す。
『……大いなる
魔王の目的……
これは重要だ。
今後、有効な対策を立てる為にもぜひ聞き出したい。
でもこいつ、簡単には答えないだろうなと、様子を見ていたら……
意外にもまた、あっさりと答えやがった。
『はい! 主が魔界へ出現してから、そこそこの時間が過ぎました。ただ困った事に少々飽きっぽい性格のお方でしてね』
『飽きっぽい?』
『その通りです。先日、貴方とお会いした時にも申し上げましたが、魔界での暮らしに飽きてしまい、それで地上に出ようとしているわけでして』
『何だ、それ?』
俺は首を傾げたが、内心は納得して頷いていた。
成る程。
大いなる主=魔王様とやらはこの地上へ出たいわけだ。
でも魔王が地上へ出てひっそり静かに、つまり平和的に暮らすわけがない。
人間と一緒に大人しく暮らすのは、どこかのラノベ限定のお話。
メフィストフェレスがアールヴの支配者になると堂々公言しているから、魔王は全ての種族を力をもって従え、世界を征服するって事か。
やっぱりコレ、相当ヤバイ話だ。
しかし……俺には分かる。
分かるんだ!
メフィストフェレス、こいつは何かを隠している。
とても重大な秘密を。
何故ならば、エリクサーの買い付け、アールヴ族の支配などを
大いなる主・魔王が地上に覇権を打ち立てる事など容易いだろう。
かつてクーガーが11万の軍勢で攻めて来た時の事を思い起こせば、魔王軍が圧倒的な力を持つのは想像出来る。
それをしないで、わざわざ回りくどい方法を取るのは何か理由がある筈なのだ。
ここまで考えて俺は「ピン!」と来た。
魔王や悪魔に真っ向から敵対するのは、創世神様以下世界を治める神様達である。
確かに悪魔の力は強大だ、
しかし奴等が好きなように力をふるえない、何らかの強力な『縛り』が……
創世神様あたりから、かかっているに違いない。
また、はっきりしている事がひとつある。
それは奴らの侵略を、既にこの俺が知ったという事。
すぐに攻めてさえ来なければ……
奴らに対抗する為、対策を立てる準備期間がもう少し稼げる。
ここで俺は改めて自分のスタンスを告げておく。
『ならば、ひとつ言っておこう』
『はい、何でしょう?』
『お前が言うように、確かに俺はふるさと勇者。簡単に言えばごく限られた地域の守護者だ』
『はいはい、充分に分かっておりますから』
『お前に何が分かっているというんだ?』
『はい! ふるさと勇者とは、新たに得た第二の故郷と愛する家族、仲間を守る勇ましき者。そして前世で失った心の故郷さえも守る者だということを、しっかり認識し、理解しておりますよ』
『やたら、はいが多いが……お前が言う事はおおむね正解だ。だから俺は明確な理由なしにはこちらから仕掛けて戦わない』
『ほう! 勇者様は専守防衛って事ですね。ご立派だ』
『いちいち嫌味ったらしいな、お前は。この世界の施政者から相手が魔族で悪だから討伐しろと言われても単純には従わない。何故なら……お前達魔族にだって生きる権利はあるだろうからな』
『ふふふ、お優しく崇高な考えをお持ちなのですね。これは素晴らしい!』
『褒めても無駄だ。逆にしかるべき理由があれば俺は戦う。世界の大義の為には戦わないが、凶暴な捕食者や
『はい! ケンさん、貴方ならそう仰ると思いました。そんな貴方を大いなる主は大いに気に入ったようなのですよ』
『な、何? 大いなる主が俺を気に入っただと?』
さすがに吃驚した。
魔王が俺を気に入っている?
『ふふふ、貴方が倒した悪魔エリゴスの時もそうでしたが……貴方は魔界の長たる者に好かれる
むう!
エリゴスの時みたい?
魔界の長たる者に好かれる?
もしも、もしもだよ。
魔王がお気に入りの俺だけを残し、他の人間全てを滅するというのなら……
それって!
魔王になったクーガーが地上へ現れた時と全く同じじゃないのか?
冗談じゃない!
ふざけるんじゃない!
魔王や眷属達にそんな事はさせない!
とことん戦う!
たとえ、俺が死するとも……
家族や仲間だけは絶対に助ける。
それにこの場では、徹底的にメフィストフェレスを追求しなければいかん。
『もっと詳しく教えろ。お前の主が俺を気に入ったって……それはどういう意味なんだ?』
『ふふ、言葉その通りの意味ですよ。理由は……分かりませんね』
『何? 分からないだと?』
『はい、きまぐれな主のお気持ちは本当に分かりません。でも……』
『でも?』
『不愉快です』
『不愉快?』
『はい! とても不愉快です。私という優秀な部下が居るのに、浮気するとは全く不愉快、面白くないですね。そう思いませんか、ケンさん』
俺の問いに対しては、はっきりと答えず……
メフィストフェレスは
こいつ、急に何を怒っているんだ?
『よくよく考えれば、ケンさんには貸しがた~くさんある。今回のエリクサーの取り引きを潰したのは勿論、おバカなソウェルに余計な知恵をつけた。
『当たり前だ。このままお前らの悪だくみを放置などしておけるか』
『ははは、
『そのセリフ、ブーメランにして返してやる』
『よろしい! では、ですね。今から貴方の腕を拝見すると同時に、少々うさ晴らしをさせて貰います』
奴の言葉が終わらないうちに、俺の居る場所の上空に強い魔力を伴った巨大な火球が現れる。
これは爆炎魔法の変形だ。
おいおいメフィストフェレス!
お前、イルマリ様の事を「おバカだ」などと言えないぞ。
まあ、こんな火球など、俺が砕くのは容易い。
だが……
森の中で火球を砕いたりしたら、燃え盛る破片が飛び散ってすぐ山火事になるだろうが!
そうはいっても、悪魔には人間の持つ価値観や常識など通じないんだっけか……
しかし!
こんな時に備えて、
『
爆炎を発する火球が現れるやいなや、俺は素早く言霊を詠唱した。
言霊の文字通り、魔力をこちらへ吸収する極めて特殊な魔法だ。
武器を使った物理攻撃に効果は殆どないが、魔力で作られた物質には凄く効果がある。
言霊の詠唱から、間を置かず魔法が発動。
俺へ向かって、落下せんとする火球はあっさり消え去った。
しかし!
メフィストフェレスに落胆した様子はない。
不思議だ。
それどころか、感動に打ち震えている。
『おおおおおおっ! す、す、す、素晴らしいっ! 私が呼び出した
何だ、その物言い?
合格おめでとう?
どこぞの試験官か、お前は?
と思ったら、こいつ、戦う筈なのにとんでもない事を言って来る。
『ふふふ、感動致しました。さすがに大いなる主が気になさるだけの事はある。私も貴方を気に入りました』
『はん、そんな誉め言葉はいらね~』
『まあまあそう仰らずに、ケン・ユウキ、貴方さえ宜しければ我々の仲間になりませんか? 報酬はバ~ンと弾むし、魔族のキレイどころを100人付けましょう』
何と!
メフィストフェレスは俺へ魔王軍の配下になれと言って来た。
金と女性(魔族)をちらつかせて。
文字通り、悪魔の
でも、そんな誘惑の答えなど決まっている。
『ならね~よっ!』
当然の事ながら、瞬時に俺は、念話で大きくはっきりと叫んでいたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます