異国のあの子へプロポーズ編
第1話 「娘さんと結婚させてください」
某日明け方……
俺は今、広大な空を飛んでいる。
東に昇った太陽の光を一杯に浴びて……
ひとりの可愛い女子を抱えながら。
俺に抱えられた女子は人間族ではない。
巷でエルフとも言われるアールヴ族のアマンダ・ユウキ、俺の嫁のひとりである。
ただ正確にいうとまだ旧姓アマンダ・エルヴァスティのままだ。
名前でふと思い出したが……
俺が今暮らす異世界では結婚したら夫の姓でも旧姓でも自由に名乗る事が出来る。
また苗字は勿論、ユウキという名をミドルネームにしても良い。
しかしアマンダの場合は、名前も含めぜひ『ユウキ家の一員』になりたいという希望でアマンダ・ユウキになる予定なのだ。
読者の皆さんは充分ご存じだろうが、男にとって嬉しい事に、俺の住むヴァレンタイン王国では一夫多妻制が認められている。
俺はこの異世界では血縁者の身寄りがないから、家族さえ賛成すれば反対する者などおらず何人嫁を貰おうが問題はない。
だが、アマンダは特別かも。
排他的且つ誇り高い事で有名な異民族のアールヴ族であり、それも良家のお嬢さん。
人間の俺との結婚を伝えたら家族と血縁者から結構反対されたらしい。
俺に複数の嫁が居ると聞いて、尚更『反対』に拍車がかかったようだ。
そもそもアマンダは俺同様この世界の者ではない。
かつて異世界で生きていたアールヴ族であり、その世界のアールヴの
彼女は前世で亡くなってから転生に転生を重ねて、異世界の俺と運命の再会を遂げる事が出来た。
この話は家族でも同じ嫁以外さすがに明かす事は出来ないから、アマンダの身内へは伝えていない。
一応、先日王都において人間の悪党の魔手から俺に助けられた事は伝えたらしい。
※第19章 狙われた白鳥編
しかしこれが逆効果に。
アマンダの家族はますます人間が嫌いになってしまったという。
「人間はけして悪党だけではない」とアマンダが必死に伝えても信じてはくれず、最近は彼女の話にも全く応じてくれないとの事。
このまま放置して良い筈がなく、時間が経つほど状況は悪くなる事は明白。
なので筋を通す&誠意を見せる意味もあり、俺がアールヴの国イエーラまで直接会いに行く事にしたのである。
「娘さんと結婚させてください」と彼女の両親へ申し込む為に。
嫁ズに考えを話したら、幸い全員一致で賛成してくれた。
円満に話をまとめ、気持ち良く結婚出来るようにだって。
まあ、アマンダは陽気なフレッカの影響が強いのか、強気且つ至極楽観的な性格。
もしも家族が納得しなくたって俺と結婚するという。
万が一勘当されても構わないと思っているらしい。
でも俺だって嫁ズと同意見。
彼女の家族全員に結婚を祝福して欲しいから何とか説得したいと考えていた。
そんなわけで俺とアマンダはボヌール村を旅立ったわけだが、何故空を飛んでいるかといえば、アマンダが強く希望したから。
彼女が違う世界において魔法剣士フレデリカであった頃、一緒に空を飛んだ記憶が甦ったみたい。
だがアマンダの故郷イエーラは大陸の遥か北にある。
対してボヌール村は結構南方に位置していた。
このまま飛んでいてはあまりにも時間がかかり過ぎるので、途中から転移魔法を使うつもりだ。
俺とふたりきりの時、アマンダはたまにフレッカことフレデリカと化す。
仕草だけではなく、声まで変わるのには吃驚だ。
「お兄ちゃわん、懐かしいね、ふたりで空を飛ぶの」
「ああ、アマンダになったお前は魔法をそんなに使えないが、あの時はバリバリの魔法剣士でソウェル候補だったからな」
「うふふ! でも今のアマンダだって私は大満足。魔法は以前ほど使えないけど料理は抜群に上手いし、なんたって憧れていた大人の女性って感じなんだもん」
「憧れていた大人の女性か、確かにな」
「ねぇ、お兄ちゃわん」
「ん?」
「お兄ちゃわんは、フレッカとアマンダ、どちらが好み?」
おおっと!
これは難しい質問だ。
美少女のフレッカとたおやかな大人の女性アマンダ、ふたりはどちらも魅力的だ。
フレッカは誰をも元気にさせる笑顔の清々しさとありあまる若さがある。
アマンダは落着きと傷ついた心を優しく包み込む母性がある。
「う~ん……究極の選択だな。ごめん、卑怯なようだけど……ふたりとも大好きさ」
「そうだよね。お兄ちゃわんは、ふたりどころか大勢好きになってるもの」
「え?」
「じゃなきゃ、あんなにお嫁さんが居ないよ……全員ラブラブ! 愛してるものね」
「あはは」
フレッカとアマンダがふたりとも納得してくれたので、俺は笑ってごまかした。
さあ、これ以上は辛い。
話題を変えよう。
「そういえば」
「何?」
「前から聞こうと思っていたけど、アマンダは何故人間の住む町、それも王都みたいな大きな町へ出て来たんだい? アールヴの好む自然とは真逆じゃないか?」
「うん、思うところがあったの」
「思うところ?」
「アマンダになった私はハーブが大好き、前にも言ったけどハーブオタクでしょ?」
「ああ、ベアーテと話していた時そう言ってたな」
俺はふと天へ旅立ったベアトリスを思い出した。
今頃……どうしているのだろうか?
俺の気持ちを察したのか、アマンダは優しく微笑む。
「ケン……いいえ旦那様。美味しい料理を食べた時は皆、笑顔になる。アールヴも人間もね」
「確かに」
「私はハーブ料理で皆を笑顔に……幸せにしたいと考えたのよ。人間も含めてね……」
「成る程」
「うん! アールヴの作る美味しいハーブ料理を世界中に広めたかった。いろいろな人が笑顔で美味しいと言うのを見たかったし聞きたかった。だからベアーテと話している時はとても楽しかった」
「ああ……ふたりとも笑顔で楽しそうだったものな」
「だから王都に白鳥亭を開いたの」
「成る程」
「だってアールヴの私と人間のベアーテがハーブという共通の話題だけでとても楽しく話す事が出来たじゃない。考え方も価値観も違った異民族のふたりが、お互いに分かり合えるってとても幸せな事だと思う」
アマンダは遠い目をしながら続けて言う。
「……様々な種族が同じものを好きになり、楽しく語り合えたら……争いは格段に減ると思うわ」
「確かにそうかもしれない……確かに素敵だな、それ」
「ええ、とても素敵だと思う……かつてソウェルを務めた事のある私には特にそう思えるの」
きっぱりと言い切るアマンダの顔は朝陽を浴び、きらきらと輝いていたのであった。
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