第39話「レイモン様がやって来た!②」

 遂にレイモン様がボヌール村にやって来た。

 だが表立って身分を明かす事は出来ないから、単なる一般の旅行者。

 そういう外部の人間は村のルールを守って貰わないといけない。


 今回に関して、門番を務めるレベッカ父ガストン副村長への説明は……

 平民の旅行者モーリス・ボナールことレイモン様は、俺が王都で知り合い、たまたま南へ向かう隊商と旅をしていたところ、出会って村へ連れて来たという事にした。


 事前に村の規則を伝えていた事もあって、レイモン様は礼儀正しく、言葉遣いも丁寧で腰も低かった。

 武器も即座に渡したので、厳格なガストンさんも突っ込みどころはない。

 俺とも親し気に話していたので、問題なしと判断してくれ、門を開けてくれたのである。


 門が開くと、出迎えてくれたのは嫁ズ3人。

 リゼット、クーガー、クラリス。

 本当は全員来たかったらしいが……

 大勢だと目立つし、どんなVIPが来たのかと村中大騒ぎになるので我慢して貰った。

 

 まあ実際、レイモン様は超が付くVIPなんだけど。

 

 クラリスに入って貰ったのは、嫁ズの中では唯一レイモン様と面識があるから。

 敢えてアマンダさんを入れなかったのは、レイモン様の性格上、会った瞬間いきなり謝罪とか始めそうだったから。

 そんな事されたら、やっぱり目立ってしまう。

 なので今夜の夕飯後、俺も加わり、ゆっくりじっくり話して貰う事にした。


「いらっしゃいませ」

「ようこそ!」

「遠路はるばるお疲れ様です。レイ……いえ、モーリス様」


「明日までお世話になります、宜しくお願い致します。クラリスさん、お久しぶり」


 丁寧に挨拶をしたレイモン様は嫁ズに促され、歩き出した。

 一方、荷馬車を片付け、ベイヤールを休ませる為、俺は厩舎へ向かったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ただいま……」


 俺が自宅へ戻ると……とんでもない光景が……

 レイモン様が、クーガーから「びしばし」と説教されていたのだ。

 

 頭から突き抜けるような凛とした鋭い声……

 そう、王族でも貴族でもクーガーは全く遠慮しない。

 まあ良く聞けば、説教ではなく、説得されているという感じである。


 でも、何故レイモン様が、クーガーから?


「……って。あれ? どうした?」


「やあ、ケン、お疲れ様……」


 さすがのレイモン様も、クーガーの『口撃』には辟易したらしく、疲れたような顔を俺に向けた。

 そしてクーガーはといえば、腕組みをして仁王様のように立ちつくしている。


「旦那様、この人変わってる。建て直したばかりの大空屋の素敵な部屋とか見せたのに、ウチに泊まりたいんだって」


「やっぱりか」


 成る程……

 話が見えて来た。

 俺は出迎えてくれた3人の嫁ズに、レイモン様へ、大空屋の部屋も見せるように指示してあった。


「やっぱりかって、旦那様知ってたの?」


「ああ、事前にウチに泊まりたいって希望を聞いてはいたよ。実際に大空屋を見たら気が変わるかなとも思ったけど」


 俺がそう言うと、レイモン様はきっぱりと言い放つ。


「そうだ! 宿屋より、ぜひユウキ家に泊まりたいっ!」


 ……休みが取れてボヌール村に来ると決まった時。

 レイモン様はユウキ家に泊まる事を熱望したのだ。

 ユウキ家の家族と触れ合いたいと。

 それに妖精王オベロン様や妖精女王ティターニア様も泊ったと聞いたから、自分も同じようにとの思いが尚更強いのだろう。


 クーガーは今回の趣旨として、大空屋を見せて、こちらに泊まる事を勧めたという。

 しかしレイモン様は断った。

 仕方なく、クーガーはユウキ家に泊まる際の心得を話していたのだろう。


 そういえば……

 経緯は違うが、オベロン様も泊る前にクーガーから『指導』を受けていた気がする。

 つらつら考える俺に、腕組みをしたクーガーが言う。


「大空屋に比べて、泊まる部屋は狭いし、子供はうるさいし、絶対のんびりなんか出来ないよって言ったのにさ」


「いやいや結構。全然問題なしさ」


「もう……だからこの人に、注意点というかウチの作法を教えていたの。泊まるのならお客様扱いしないって、旦那様と同じ扱いにするって」


 ここでレイモン様がまたOKを差し込んだ。


「ああ、ケンと一緒で構わない。指示さえしてくれれば、私は何でもやるよ」


「ほら、この人、ホント変わってる。大空屋ならお客様として至れり尽くせりなのに」


 と、その時。

 傍らで話を聞いていたポールが、レイモン様へ話しかける。


「大丈夫、おじさん。ドラゴンママに叱られてるの?」


「ドラゴンママ?」


 管理神様の神託で、俺の人生を見て、事情を分かっていたレイモン様であったが……クーガーのあだ名は抜け落ちていたらしい。


 レイモン様が思わず聞き直すと、ポールはにっこり笑って答えてくれた。


「うん! クーガーママはドラゴンママ。ママ達の中で一番怖いんだよ。すぐ怒って火を噴くから」


「あはは、成る程」


 言い得て妙。

 可笑しくてつい吹き出したレイモン様を見て、クーガーの怒りは倍増したようだ。


「ごらぁ! ポールっ!」


 どう猛な肉食獣の唸り声を聞き、吃驚したポールは、慌ててクラリスの陰に隠れる。


「うわぁ、ママ、助けてぇ」


 顔見知りのクラリスが、ママと呼ばれ、レイモン様の顔が明るくなる。


「クラリスさん、もしやその子は?」


「はい! 私の息子ポールです」


「おお、それはそれは……」


 答えたクラリスに微笑みながら、レイモン様、ポールに話しかける。


「ポール、君のママは素敵な絵を描くね。おじさん大好きなんだ」


「うんっ! 僕も大好き。でもね、ママは服を作るのもすっごく得意なんだよっ」


「へぇ、それは素晴らしい」


 先ほど同様、レイモン様とポールの話が盛り上がりかけた時。

 またもストップをかけたのはクーガーである。


「ごらっ! モーリス! 私の話はまだ終わってないよっ! ウチに泊るなら家事雑用をやって貰うのは勿論、子供の面倒も見て貰うからねっ」


 うわぁ!

 ごらぁ、モーリスって……

 クーガーの奴、レイモン様を思いっきり呼び捨てにしてるし……


 でもレイモン様、不快そうな波動は出していない。

 不思議だ。


「わ、分かった」


「念の為に言っておくけど、風呂上がりにパンツ一丁で歩き回るのは、絶対にNGだよっ」

 

「りょ、了解……」


 最後は……

 以前俺がやらかして、クーガーに怒られた『とばっちり』も受け……

 レイモン様は「もう降参!」というように、苦笑して頭をかいたのであった。

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