第31話「老騎士の本音③」
アルドワンが何故、バスチアンを庇護し、非合法な犯罪を野放しにしたのか?
答えは簡単だ。
目的の為に手段を択ばないのは勿論だが……
アルドワンの考え方、倫理観、価値観は、レイモン様や俺とは違う。
どこかがひとつだけではない。
全てが根本から異なっているのだ。
そして俺は一瞬で悟った。
徹底的に議論しても、正論でこの老騎士の考え方を変えるのは困難なのだと。
ほら、良く居るタイプだ。
長い人生経験を強固な盾にし、持論のみを展開する。
自身を客観視出来ず、相手の意見を一切排除し、耳を全く傾けない。
こんな相手とは、こちらがいくら低姿勢で誠意をもって話しても、基本不毛な会話が続く。
説得出来る可能性は著しく低いし、上手く行ったとしても膨大な時間がかかる。
だがもう時間もない。
多分、レイモン様も同じように考えているだろう。
であれば、考え方を変えて貰うのは論外で、情に訴えるのにも限界がある。
アルドワンとは、きっちりした『契約』もしくは「約束を取り交わす」形で、取引しないといけない。
生粋の騎士アルドワンは力を信奉する男。
つまり勇者たる俺の圧倒的な力をもってプレッシャーをかけ、一方的に契約を締結させるのだ。
それでも拒否したら……
最終手段、こちらが約束を破る形となるが、全てを丸く収める為、
俺の『支配魔法』をかけるしかない。
自分の提案が却下された事、アルドワンが俺を畏怖している事もあって……
レイモン様は俺にやりとりを任せてくれた。
「北の砦において、方針は基本的には侯爵、隊長となる貴方の裁量に任せる」
「おお、ありがたい!」
素直に告白して、俺がOKしたと解釈し、大喜びするアルドワンだが……
まだまだ話は終わらない。
「但し、これだけは言っておく」
「何だね? 勇者」
「貴方が守備隊の部下に対し、分け隔てなく接して欲しいと俺は願う」
「守備隊の部下に分け隔てなく?」
アルドワンはポカンとしている。
俺の言う事が飲み込めていないらしい。
ここはしっかり説明しなくてはならない。
「敢えてこう言うのは、今迄の貴方の王国民に対する態度で、俺には分かったからだ」
「儂の王国民に対する態度?」
「ああ、貴方が慈しむ民は限られている」
「どういう事だ?」
「レイモン様を含め、王族、貴族と騎士達……だけだ。それ以外の者に対しては、まるで家畜のように見て、冷酷非情に扱って来た」
俺の言葉は「ど」が付く直球だ。
ここで「そうだ」と言うのはまずいと思ったのだろう。
アルドワンは、一応否定する。
「そ、そんな事はない」
「いや、貴方がいくら否定しても、直接手を下していなくとも……バスチアンの非合法な商売が原因で大勢の王国民が死んだ」
「…………」
「しかし貴方は全く平気で、笑いながら弱肉強食とまで言い切った」
「…………」
「だがな侯爵……このヴァレンタイン王国を根底から支えているのは、貴方が家畜扱いした名もない王国民達だ。それを絶対に忘れるな」
「わ、分かった」
侯爵から放出された波動は不承不承という感情であふれていた。
まあ、良い。
理屈で納得させるより、約束が優先である。
「よし! 話を戻そう。現守備隊長は栄転という形で王都へ戻るが……残された砦の守備隊はほんの僅かな貴族・騎士以外は傭兵と罪人だな?」
「そ、そうだ」
「さっきも言ったが……貴方は守備隊員を身分や生まれ等にかかわらず、平等に扱う事、これは基本の約束だ」
「ううむ」
「それに全員の力を合わせないと、あの砦では生き抜けないぞ」
「…………」
「良いか? 貴方が戦いの中で華々しく死ぬのは勝手だ。しかし隊員達は殆どが生きて帰りたいと願っている。自死する貴方の巻き添えになんかにするな」
「…………」
俺の言葉を聞いたアルドワンは、納得しないという波動を送って来る。
「不満か?」
「まあな……貴族や騎士と、傭兵、犯罪者を等しく扱うなど儂には出来ぬ」
「分かった! じゃあ砦の話はなしだ。侯爵、貴方にはレイモン様が用意された修道院へ行って貰う」
「な!?」
「さっき、貴方は砦の隊員を犯罪者と蔑んだが……俺から言わせれば、貴方こそ最低の犯罪者だ」
「ぬぬぬ、勇者め。さっきから言わせておけば! 無礼者めっ!」
「それはこっちのセリフだ。貴方はまだ自分の犯した罪が分からないのか?」
「何!?」
「相変わらず、傲慢で尊大。自分が置かれた立場も全く分かっていない」
「ぬう……」
「もしレイモン様がいらっしゃらなければ……貴方など、死に勝る苦しみを与え、なぶり殺していた。生きているだけありがたいと思え」
「ぬぬぬ」
「良いか、侯爵。俺からのアドバイスだ。……これから貴方の部下になる隊員達へ、実の父親のように接してみろ。貴方が今迄見えなかったものが見え、そして犯した罪の重さを感じて来る筈だ」
「むうう……」
「全て受け入れ、実行すると約束したら、レイモン様と俺で貴方を北へ送る。こちらも約束通り、支配の魔法はかけない」
「…………」
「嫌ならば、支配の魔法をかけ、引退、即修道院行き」
「…………」
「砦に赴任しても、契約不履行状態であれば、やはり引退して修道院へ行って貰う」
「…………」
「さあ、侯爵……どうする、ふたつにひとつ、選んで貰おうか?」
「…………」
「言っておくが……答えの保留は受け入れない。この場で決めて貰う」
俺はそう言い放つと……
唇を噛み締めるアルドワンを、冷たく見つめたのである。
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