第20話「レイモン様との再会②」
話す際の切り出し方に少々迷ったが……
レイモン様を信じて、俺は正直に告げる事にした。
「実は……こうしてお会いする場所は、レイモン様と事前にご相談して、奥様のふるさとをイメージしようかとも思いましたが」
「ふむ……」
「でも、やめました……何故なら、レイモン様が一番大切にされている思い出に、第三者の俺が勝手に踏み込んではいけない、そう思いましたから」
俺が言うと、レイモン様は「きゅっ」と唇を噛み締めた。
改めて優しい視線を投げかけて来た。
口元は僅かに微笑んでいる。
「……ありがとう。ケン、君は人の気持ちが分かる男だ……しかし今回は、大変な迷惑をかけてしまったな」
こうして、序盤の会話のキャッチボールが終わり……
レイモン様はようやく本題へと入って来た。
「いえ、迷惑なんて。それに家族の危機ですから、のんびり傍観などしておれません。俺がすぐ出張るのは当然です」
「家族の危機か……そうだな、良く分かるよ……」
「昼間、ざっくりと前振りはしましたが……改めて聞いて頂けますか?」
俺は頭を下げ、レイモン様へ『今回の件』を再び話し始めた。
「……成る程。ケン、良くやってくれた」
俺が現在知る事実、全てを話し終わると……
レイモン様は、例の魔法薬回収も含め、「処理は適切だった」と労わってくれた。
普通なら、バスチアンの確保をしなかった事、魔法薬の処理の顛末等を深く追求されるところだろうが……
レイモン様は何も言わなかった。
俺への大きな信頼はあるだろう。
でも宰相として、政治家としての冷静な判断の方が大きいに違いない。
何故なら、もし俺が「何かたくらむ」としたら、こんな魔法薬など必要ない。
レベル99の力をふるい、王や宰相である自分を単なる傀儡にすれば、事足りるから。
というか、話はヴァレンタイン王国に止まらないだろう。
野望に燃えていたら、俺は全世界の征服に乗り出すに決まってる。
つまり昔の魔王クーガーの立ち位置だ。
異世界へ来て、愚図愚図せずに電光石火でやっているだろうし、更に言えば、最初からボヌール村みたいな辺境の村へ行く事さえ選ばない。
まあ、これまでの俺の性格、行動を知るレイモン様だからこその判断。
閑話休題。
経緯の報告は完了したが、それで済む話ではない。
ここからが本番だ。
「悪徳商人バスチアン・ドーファンから聞き出した事実は、相当ショッキングなものです。但し、話がバスチアンだけなら問題はここまで大きくはありません」
「そうだな、問題は侯爵のダニエル・アルドワン……この男を今後どうするのかが最重要だ」
「はい……ですので、申し訳ありませんが、お手を
俺がそう言うと、レイモン様の目が遠くなる。
「煩わせるか……いや、ケン。……君は私にとても気を遣ってくれた」
「…………」
はい、レイモン様、本音を仰ってください。
俺は暫し黙って聞き役に徹しますから。
「君の持つ絶大な力だったら、アルドワンを突発的な事故死か、自然な病死に見せかけるのは容易い。わざわざ私に報せなくとも済んだ筈さ」
「…………」
「だが、ケン。君は私に義理立てしてくれた。私に告げるか否か……相当悩んだだろう?」
「ええ……それにレイモン様が何もご存知ない、というのは考えにくかったので……」
「ああ……君の推察通りだ。アルドワン侯爵が何か良からぬ事をしているらしい……という情報は私も得ている」
「…………」
「だが、何故私がアルドワンを見逃し、放置しているのか……」
「…………」
「ケン、君は直接、私に確かめたかったのだろう?」
「……そうです」
俺が一瞬、間を置いて肯定すると、レイモン様は苦笑する。
「ふむ……私がアルドワンを見逃がしている理由は、ケン、多分君の想像通りだ」
「…………」
「確たる証拠がないのは勿論だが……今は亡き父に命じられた御守り役として、兄の現王リシャールとの親しい間柄を思えば、あっさり粛正など出来ない」
「…………」
「いや、兄だけではない。この私もあの方には幼い頃から世話になった。最早、親に等しい関係と言って過言ではないだろう」
「…………」
「それとあの方が今この王国においての立ち位置。軍務を一切握るあの方が反乱を起こせば、この国は崩壊の危機に陥る。反旗を翻されたら、王国騎士の半分以上が敵に回る事を覚悟しなければならない。……まるで天界を二分した太古の戦いのように」
「…………」
「そうなれば、周囲の国は豊かなヴァレンタイン王国を放ってはおくまい。次々に攻め込んでは領土を切り取りし、勝手に自国へと組み込むだろう。戦火はますます燃え広がり、他国同士も激しい戦争を始めるに違いない……」
戦争……
やっぱりか。
魔王クーガーほどではないにいしても、ボヌール村とエモシオンが戦火に巻き込まれるなんてごめんだ。
下手をすれば、俺やオベール様にも出征命令が下される。
「はい、レイモン様の御推察に間違いはないと思います。それと……想像したくはないですが」
「むう……」
「全世界が大混乱に陥る事を、アルドワン侯爵が逆に望んでいるとしたら」
「…………」
「この世界を敢えて戦乱の世にし、どさくさに紛れて、自分が全世界の覇権を握ろうと考えているのだとしたら……今回露見した魔法薬は便利な道具となります」
「…………」
そう、平和な世にはあんな薬を使うのは目立ち、不審がられる。
だが戦時中ならば、さりげなく使い、何が起こっても偶然を装える。
しかし、アルドワン侯爵を『駆り立てるもの』とは何だろう。
ぜひ奴の動機を知りたい。
バスチアンから聞き出したように。
だが、まずはレイモン様に聞いてみよう。
「そもそもアルドワン侯爵の動機について、レイモン様にお心当たりはありますか?」
「ある……というか、兄と私が最大の原因だろう」
「…………」
兄と私が原因?
それだけでは想像の域を出ない。
心を読むわけにはいかないから、
ここはレイモン様ご自身から、もっと詳しく聞かなくては……
俺はそう思い、じっとレイモン様を見つめたのである。
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