第19話「レイモン様との再会①」
悪徳商人バスチアンに『全て』を白状させた俺は、奴に『支配』の魔法を施し、解放した。
何か不慮の出来事や、とんでもないヘマをやらかした際、アルドワン侯爵に消されないよう……
自衛の為にバスチアンが用意した証拠品、『連判状その他』も俺が全て回収した。
ちなみに支配魔法を受けたバスチアンの心の中では、俺へ「献上した」という事になっている。
だから奴には、無理やり奪われたという意識はない。
それにしっかり『守秘義務』を言い聞かせたから……
バスチアンが万が一、親玉のアルドワンに呼び出され、いろいろと話をしても、俺の事を含め、すぐには露見しない。
先に同じ魔法をかけた奴の配下ギャエル・ブルレック同様、普段は全く様子が変わらないだろうから。
ちなみにギャエルには万が一の事を考え、バスチアンの監視を命じておいた。
バスチアンが俺を裏切るのと、アルドワンに抹殺されるのを防ぐ、いわば二重ロックみたいなものだ。
さてさて……
夜も相当ふけて来たし、バスチアンの屋敷での情報収集はこれで完了。
バスチアンを睡眠の魔法で「寝かしつけて」から、俺はジャンとケルベロスに連絡。
俺が随時念話で情報を入れていたから邸内を探索中のふたりは、秘密の倉庫に隠してあった例の魔法薬を大量に発見していた。
発見と同時に俺へも報告して来たので、これらも全て回収し、空間魔法で創った異界へと放り込んでおいた。
魔法薬をこれ以上悪用させない為に。
不幸な人を増やさないように。
屋敷内を警護する奴の部下達にも気付かれなかったから、俺と従士達の仕事は完璧と言って良いだろう。
そして……
屋敷を転移魔法で出た俺達は、聞きだした王都内の錬金術師の隠れ家へ赴いた。
寝ていた錬金術師と、バスチアンから『あてがわれた女性』のふたりにも支配の 魔法をそっとかけておいた。
どうしてって?
そりゃ、錬金術師の逃亡を阻止する為だ。
あの魔法薬を精製するレシピを持って、女性とふたり、どこかへ高飛びでもされたりしたら敵わない。
まあ詳しい経緯を聞いたから、とんでもない薬を作った張本人の錬金術師に責め苦はなしとした。
当然、女性にも。
こちらも万が一の事がないよう、ジャンの部下である王都猫軍団に交代で見張って貰う事にする。
今後、このふたりへの対応は……改めて考える事としよう。
そしてこの夜の最後の仕事。
ラスボスであるアルドワンの屋敷に下見へ行く……
屋敷と庭の勝手を見てから、アルドワン本人も見た。
深夜なので、当然奴は自室で寝ていた。
寝顔を見れば、凄い鷲鼻で眉間に深く皺が寄った、いかにも頑固そうな老人であった。
ジャンの調査によれば70代後半の年齢だという。
アルドワンが放つ『魂の波動』を覚え、この夜の王都での仕事は終了。
撤退した俺達は、ボヌール村へと戻ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その翌日の晩、俺はレイモン様を訪ねた。
かといって、先日クラリスを伴い、謁見した時と状況は全く違っている。
俺自身の身体はボヌール村の私室にあるからね。
そう、意識だけを王都へ飛ばした。
ここまで言えば分かるだろう。
様々なリスクを避ける為、思う存分話す為……
レイモン様の見る『夢の中』でお会いしたのだ。
これは以前、義父オベール様と会った時と全く同じである。
だが……俺がいきなりレイモン様の夢に現れても、
既に俺と会った記憶がある彼にとって、
『ケン・ユウキが出て来た単なる夢のひとつ』で終わってしまう。
見た誰もが信じると思うけど……
管理神様が見せる、厳かな神託の夢ほど力が俺にはないから。
だから事前に『長距離念話』を使い、執務中のレイモン様へ打診をしておいた。
その上での登場なのだ。
レイモン様は、俺からいきなりの連絡を受け、大いに驚いた。
念話という特別な魔法にまず驚き……
当然アルドワンの所業……つまり悪事にも驚いた。
但し、アルドワンの行いに関しては薄々感じていた雰囲気があった。
最近、王家の指示を無視する事も多かったという。
兄の国王は政務に無頓着。
という事は……レイモン様の決定を無視……という事だ。
厳しい事実を受け止めた後、レイモン様は、会いに来る用件が用件なのに、俺の来訪を喜んでくれた。
説明を聞いて、「またあの夢みたいな経験が出来るのか?」と、喜んでくれたのだ。
あの夢とは……
レイモン様が管理神様から見せられた俺がこの異世界へ来てからの『経歴書』だ。
という事で……
夢の中において、出迎えてくれたレイモン様は……
俺に対し、満面の笑みを浮かべていた。
ちなみに、彼の恰好は寝間着ではなく、執務中の服である。
そしてレイモン様は開口一番。
「おお、我が友よ。また会えて嬉しいぞ」
と、仰ってくれた。
おお、相変わらずフレンドリー。
事前連絡をした時もそうだったけど。
「そんな! 俺が友ですか? レイモン様にそう仰って頂くのは、畏れ多いですが、光栄です」
「いやいや……ところで、私達が居る、この世界は素晴らしいな。まさに楽園だ」
さすがにレイモン様も、いきなり本題には入らない。
まあ、俺も野暮な事は言わない……
調子を合わせる。
「ここは俺が望む、空想の世界です」
「そうか、ならばケンの趣味は、私とほぼ同じだな」
趣味がほぼ同じか……
うん!
先日の奥様との思い出話を聞けば、納得する。
俺が頭上を見上げれば、雲が全く無い、吸い込まれそうなくらい紺碧の大空が広がっている。
吹く大気は清々しく、身も心も軽くなる……
そして、俺達が居るのは見渡す限りの緑濃い大草原である。
ところどころに、大小の森が点在していた。
目の前の森を見れば……
木々には、色鮮やかな果実が実っていて、この土地がとても豊かである事を示している。
さりげなく見ると、レイモン様は「ぐるり」と景色を眺めたり、清廉な大気を胸いっぱいに吸い込んだりしていた……
数回躊躇した後……
異界を楽しむレイモン様へ、俺は意を決して話しかけたのである。
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