第18話「拉致未遂事件の真相③」

 俺が『支配の禁呪』を使ったバスチアンの部下ギャエル。

 でも奴は、支配される魔法薬も飲まされていた。

 これって、魔法と魔法薬のバッティング?

 一体どうなるの?


 ……俺はそんな考えをおくびにも出さず、「しれっ」と聞いてみる。 


「ふむ、お前の部下に、ギャエルという男が居るのか? どれくらい前に、そいつへ飲ませた?」


「ど、どれくらいって……ええっと……た、確か、い、1か月くらい前だ。そ、それがどうした?」


 え?

 1か月前?

 ならば俺が禁呪を使う前じゃないか。

 俺が確保して魔法をかけた時、ギャエルは既に魔法薬を飲まされ、バスチアンに支配されていた。

 じゃあ俺の禁呪は全く効いておらず、まさか、うそっこの擬態!?

 魔法にかかったふりをした?

 

 でも!

 あの時あいつが、くれた情報は正確だった。

 それって……

 俺の禁呪が、そのヤバイ魔法薬なんかより、遥かに『超凶悪』だって事なのか……

 

 ……一応覚えておこう。

 その魔法薬より全然強く、 俺の禁呪が支配の効果を凌駕するって。

 

 まあ、良い!

 ここまで来たら、バスチアンに全部「ゲロ」させるだけだ。


「よし……分かった。バスチアン、続きを話せ」


「あ、ああ、俺は魔法薬の件を報告したら、アルドワン閣下に直接呼ばれ、実物を持っていった」


「アルドワンに直接会ったのか? ほう、珍しいな」


「ああ、特別に会ってやると言われたんだ」


 特別に会うか……さすが究極の魔法薬。

 アルドワンも自分の目で直接見たくなったのだろう。


「よし! 続きを話してくれ」


「案の定というか、魔法薬の実物をお見せしたら、閣下はとてもお喜びになった。そして人間で充分効果を試してから、魔法薬をもっと作れと命じられたんだ」


「成る程……」


「結局、俺の上納金分は全て、魔法薬を作る金に投じろと閣下からは命じられた。更に金ではなく、『魔法薬』で納めろと言われたのさ」


「…………」


「気になって……一体、そんなにたくさん何に使うので? と聞いたら……余計な事は、知らない方が身の為だぞと脅されたぜ」


「成る程、余計な事ね……」


「ああ、閣下の口調に凄くヤバイ雰囲気を感じたから、それ以上聞けなかった」


「そうか……アルドワンめ、何か、とんでもない事を企んでいるな」


「ああ、あの方のおやりになる事には、あんたも触らない方が良い、絶対に良い」


「余計なお世話だ。それより、お前……いざという時の事を考えただろう?」


「い、いざという時?」


「普段、ただでさえ、用心深いお前じゃないか。そんなヤバイ薬を手に入れたら、いや、作っている時にもう解毒薬の手配も考えていた筈だ」


「あ、あんた! さすがだ! す、鋭いな! 凄い!」


 バスチアンが感嘆して俺を大いに褒める。

 でも……はっきりいって全然嬉しくない。


「褒めても何も出ないぜ。それより例の錬金術師に命じて、お前は解毒薬も作らせていた筈だ」


「ああ、あんたがお察しの通りだ。だが奴には、その錬金術師には解毒薬が作れなかった」


「作れなかったか? で、どうした? お前の事だ、まさかそのまま諦めはしないだろう?」


 俺が尋ねると、何故かバスチアンが恐る恐る聞いて来る。


「な、なあ……あ、あんたほどの残酷で容赦ない悪党なら……実は知っているんだろう? 俺と同じく金の匂いを嗅ぎ付けたんだろう?」


 おいおい!

 残酷で容赦ない悪党って、お前になんか言われたくないよ。

 

 と、俺は思ったが……

 とりあえず奴の話を聞く事にする。


「知っている? 金の匂い?」


「ほら! あのアールヴ女の事だよ」


 あのアールヴ女って……多分アマンダさんの事だろう。

 ならばここは、完全に調子を合わせた方が良さそうだ。


「ああ、何となくな。話してみろ」


「あんたの言う通り、俺はずっと魔法薬の効果を解除する解毒薬を探していた。人と金をいっぱい使って、閣下には内緒で、密かに調べ回っていたんだ」


「だろうな」


「そして遂に、すんげぇ情報をゲットした」


「凄い情報?」


「ああ! あのアールヴ女さ! あの白鳥亭の女将アマンダの実家は代々、ウルズの泉の管理者なんだよ」


 何だ?

 ウルズの泉?

 前世の北欧神話で、名前だけは聞いた事がある。

 だけど……この異世界では一体どんな場所だ?

 確か……ノルンのひとり、運命の女神ウルズが管理する泉としか……

 俺は知らない……


 これは、バスチアンから聞き出すしかない。


「ウルズの泉か……やはりな。もっと詳しく話せ」


「分かった! 説明する! ウルズの泉とはな、アールヴの国イエーラの国宝に指定されるくらい凄い。何せ、エリクサーが無限に湧き出る宝の泉だからな。当然エリクサーは、イエーラから一切持ち出し禁止らしいけどよ……」


「エリクサー……か」


「ああ! お前も知っているだろうが、エリクサーは究極の万能薬だ。体力、魔力を満タンにし、どんな怪我も疾病も即座に治す、おぞましい呪いさえ打ち消す事が出来る!」


 そう、エリクサーとは……バスチアンの言う通り、とんでもないお宝だ。

 錬金術により作られると言われた、究極の万能薬である。

 一説によると……

 エリクサーは究極のレアアイテム『賢者の石』により作られるという。

 

 そんな超レアなお宝が自然に、そして無限に湧く泉?

 うっわ、ウルズの泉って凄すぎる!!!

 

 でも、そうか!

 今の話で、アマンダさん拉致未遂事件の真相がほぼ見えた。

 

 俺は大きく頷き、答えを導いてやる。


「成る程な……それでアマンダさんをさらい、お前の魔法薬で自我を失わせ、思いのままにする。そして情婦となった彼女を使い、ウルズの泉から湧き出るエリクサーを上手く手に入れようとしたんだな?」


「そうだ! エリクサーさえあれば、俺は安心だ。万が一閣下から魔法薬を飲まされても全然大丈夫。一方的に支配されている振りをして、正気で振る舞える」


「ああ、だろうな」


「おお、その上、エリクサーが大量に手に入れば! ウルズの泉が完全に俺のものとなれば! どんどん売って、俺は世界一の大金持ちになれる! そうしたらもっとすげぇ力を手に入れ、いつか閣下を、いや! アルドワンのくそ野郎だってぶち殺してやるのさ!」


 饒舌に語るバスチアンは……

 自分の立てた計画と実現した妄想に酔っているのかもしれない。

 さも得意げに胸を張っていたのである。

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