第17話「拉致未遂事件の真相②」
俺が一片の憐れみを持たず、全く隙もなく、あがいた時間稼ぎも無駄と悟り……
バスチアンは、遂に重い口を開き、話し始める。
「あ、新しいシノギとは……過去に例のない魔法薬だ……」
「過去に例のない魔法薬?」
「ああ、俺ももう良い年だ。体力も落ちて来た……いちいち脅したり、拷問して、相手にいう事をきかせるのも難儀するし、面倒にもなった」
「…………」
脅したり、拷問して、いう事をきかせるのに難儀するし、面倒?
成る程、その為の魔法薬か……
そりゃ、確かに超ヤバイ話だ。
俺が見据えると、バスチアンは怯えた目をしながら、話を続ける。
「数年前……自分の行う施術で黄金が簡単に作れると豪語し、某上級貴族を騙して莫大な金を使わせ、ばれて殺されそうになった錬金術師が居る」
「…………」
「そいつは、この王都では結構名の知れた、凄腕の錬金術師だった。しかし遂に黄金は作る事が出来なかった」
「…………」
「追われ、逃亡したそいつを、俺は密かに
「…………」
「交換条件として、そいつに魔法薬を作るよう命じた。究極のな」
そうか、……話が完全に見えて来た。
俺がじっと見据える中、バスチアンは話を続ける。
「数年後……とうとう俺が望んだ魔法薬は完成した。奴から渡された試作品を俺は女数人に試してみた」
「…………」
試作品の薬を?
いきなり人間に試す?
何だ、それ?
ヤバイ副作用があるかもしれないのに?
おいおい!
危険極まりない、人体実験じゃないか?
「効果は、ばっちりだった。女は俺の意のままになり、完全な最高の道具となった」
バスチアンの言葉を受け、俺は問い質す。
「成る程……そのとんでもない薬をアマンダさんにも試そうとしたんだな?」
「そ、そうだ! あの女の美貌は凄い! 最高の商品になる。俺は以前から狙っていた。よし! こ、これで全て話したぞ、俺を解放してくれ!」
いや、奴は全てをゲロしてはいない。
何故なら、バスチアンの態度には不審な部分が多いから。
最初に白状をあれだけ拒んだ事。
アマンダさんを狙った動機も、凄い美人だからという曖昧さだ。
そして肝心の、親玉アルドワンとの関係も話してはいない。
「いや、バスチアン……お前はまだいろいろと隠している」
「い、いや! 話す事はもう無い!」
「ほざくな! 真赤な嘘など、俺の耳へは届かん」
「真っ赤な嘘? い、いや違う、本当だ!」
「そうか、分かった……」
「え?」
「お前の死まで、残り時間はあと3分だ……アマンダさんを狙った本当の理由、お前が作らせたとんでもない魔法薬とアルドワンの絡み、全て話さないと……死ぬぞ」
「な、何を!? お、俺はぁ! ぜ、ぜ、全部話したぞ!」
必死に弁明するバスチアン……
全て白状したと噛みながら言い張るが、俺はせせら笑う。
「おいおい、全部話したって寝言を言うな……肝心のアルドワンの話を、お前はひと言も喋っていない」
「ア、ア、アルドワン? し、し、知らん、そんな名は!」
やはり親玉の事を惚けていやがる。
バレバレって奴で、盛大に噛んでいるけどな……
だがまあ、そんな反応、想定済みだ。
「ああ、そうかい。喋らなければ、お前はすぐ死ぬって事を忘れたか?」
「あ、う……すぐ死ぬ、ううう」
「ちなみに俺はこの後、アルドワンの屋敷へ乗り込み、お前と同じ方法で尋問する」
「は? 俺と同じ方法? こ、この地獄の責め苦をか!」
「ああ、そうだ。奴はお前ほど根性がないだろう? だから、すぐホイホイ白状すると思うぞ」
「え?」
「真実はすぐ分かる。お前から聞かなくてもな」
「あ、うう……」
「その上、バスチアンは既に死んだ、安心しろとアルドワンへ言えば、これ幸い、お前と家令、そして子飼いの貴族とその御用商人、4人の連絡役に全部罪をおっかぶせるだろう」
「4人の連絡役って!? な、何故! そ、それを!」
「おう! どうして知ってるのかって? お前の事は全て知ってると言っただろう。お前の背後に居るアルドワン侯爵が王国の古参貴族だって事もな」
「う、ううう……」
「いや、まだほんの少しだけ知らない事がある。だから……そのほんの少しをさっさと吐きやがれ」
「…………」
「お前はな、自分の身を守る為、他の3人を金で買収したり、4人全員が署名した連判状を作成し、所持している」
「…………」
「だが主犯格のお前が死んでしまえば、危険を察したアルドワンにより、罪は全てお前と他の3人に被される。残りの3人もいずれ死ぬだろう。俺が手を下さなくても、アルドワンに消されるからな」
「…………」
「ここでお前を殺さず、俺がアルドワンに告げても構わない」
「え?」
「秘密を全部、お前から教えて貰ったとな。奴はお前に対し激怒し、3人と共に抹殺するだろう」
「う、うう……」
「そうだなぁ……お前がどうアルドワンに消されるか? 骨まで切り刻まれて魔物の餌か、同じようにバラバラにされ、人知れずどこかに埋められるか、水死に見せかけられ、川にぽっかり浮かぶか、どれかだろう」
「ああ、うう……そんなの嫌だ!」
「ならば、全部吐け。お前は単なる駒だ。正直に言えば今回の件は、アルドワンに全て責任を取らせる。命だけは助けてやろう」
「閣下に全責任を? ほ、本当か! じゃあ、全部白状する!」
「やっと最終決心したか……バスチアン、お前は本当に往生際の悪い奴だ。……よし、じゃあ改めて5分やる。5分以内にアルドワンの事を含め全て話せ」
「あ、ああ……分かった! さ、さっきの魔法薬は本当の話だ。実はもっと試した。たくさんの人間で実験したんだ!」
「たくさんの人間でか?」
「ああ、女以外に男でも何人も実験した。その中のひとりが俺の部下のギャエルだ。魔法薬のせいで、今や奴は完全に俺の操り人形なんだよ」
部下のギャエルにいう事をきく魔法薬を飲ませただと?
完全に俺の操り人形?
おいおい、俺は奴を禁呪で支配している筈だ。
ヤバイ魔法薬と禁呪のバッティングを聞き、俺は思わず舌打ちをしたのである。
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