第16話「拉致未遂事件の真相①」

 暴力と非合法を旨とする、超悪徳商人バスチアン・ドーファンは今回のアマンダさん拉致未遂事件の真相を語り始めた。

 

 まあ、こういう場合、いきなり結論からは語らない。

 白状する際って、大体遠回しに、

 実はね……みたいな言い方が多いからである。

 そして徐々に話は核心へ迫る! という感じ。

 案の定、奴の口からはいきなり専門用語が出て来た。


「……お、俺は新しいシノギを見つけたんだ」


「新しいシノギ? 金稼ぎか?」


 シノギとは、もう一般用語と化していると思うが、念の為説明しよう。

 元々、いろいろな意味を持つ言葉だが……

 ここでは特別な組織が行う収入方法を指す。

 簡単に言えば、資金調達の為の手段である。


 俺が念の為、聞き直すと、バスチアンは小さく頷いた。


「ああ……そうだ。すげぇ、シノギがよ、あったんだよ」


「ほう、それは何だ? ……具体的に話せ」


「…………」


 俺は、シノギの内容とやらを詳しく聞こうとした。

 だが、何故かバスチアンは口をつぐんでしまった。

 

 ここは更に深く追求し、奴から詳細を聞き出さねばならない。

 とりあえず口を開いて話を続けるよう、促す。


「おい、どうした?」


「や、やはり! い、言えねぇ!」


 俺がせっついても、バスチアンはためらい、口外する事を拒否した。

 少し怯えているのか、口にするのもヤバイ事なのか……

 当然俺は、追及をやめる気などない。


「言えないとか、ふざけるなよ」


「い、いや! ふ、ふざけてなんかいない! 本当に言えないんだ! や、やばいんだ。り、理由がある」


 やっぱり、やばい?

 言えない理由?

 どうせ、背後に居る親玉のアルドワンが絡んでいるのだろう。

 下手に口外したら消されるとか?

 だからこそ、真相を聞き出さなくてはならない。


 しかし、力押しは時と場合による。

 今、俺の言う力押しとは、ギャエルに使った支配の禁呪。

 てっとり早いが、こいつに使うのは生ぬるい。


 さっきも言ったが、俺は自らの手でこいつを殺さないと決めている。

 

 だが……

 これまで散々バスチアンがやって来た、大勢の犠牲者達が受けた屈辱、そして凄まじい死への恐怖だけでも……

 外道、お前にもたっぷり味あわせてやる!


 俺は「にやっ」と笑い、言葉を投げる。


「分かった、お前の理由など聞かぬ。言うも言わないもお前の自由だ」


「おお、聞き入れてくれるのか? た、助かる!」


「助かる? いや、お前は助からない。先ほどの責め苦を再開する」


 きっぱり言い切った俺の顔を見て、

 バスチアンは信じられない! という顔をする。


「え?」


 さっきまで俺がバスチアンに行っていた責め苦。

 オーガを粉みじんに即死させ、エンシェントドラゴンも容易く気絶させる俺の超絶な天界拳、そして死を至近距離で感じる激痛。

 

 だがバスチアンが受けた激痛は一旦、これまた俺の治癒魔法でリセットされる。

 そして間髪入れず、俺の拳が再び襲う!

 しかしリセットされ、またも……という形で永遠に繰り返される。


 そんな……無間地獄の記憶が甦ったのだろう。

 バスチアンはとてつもない恐怖から、大きく目を見開いた。


 ガチガチに身体を強張らせるバスチアンへ、俺は淡々と告げる。


「死ぬ覚悟は、既に出来ているようだからな」


「そ、そんな! ぼ、暴力は、や、やめてくれ!」


 暴力はやめろ?


 バスチアンの泣き言を聞き、俺は思わず笑ってしまう。

 ブーメランもしくは言行不一致とは、奴の事を言うからだ。


「ははははは、何、寝言を言ってる。俺は全て知っているぞ」


「な、何?」


「お前はな、命乞いする者達を容赦ない暴力で無理やりいう事を聞かせ、人間の尊厳を奪い支配して来た。同じ目にあって貰う」


「う、ううう……い、嫌だ! 嫌だぁ!」


「嫌だ? こういう事を因果応報というじゃないか? 彼等彼女達の辛さと痛みを自分でも体験出来るいい機会さ。それと時間稼ぎをするつもりなら無駄だ」


「え?」


 図星を指され、驚くバスチアンだが……

 俺はほんの少しだけ感心した。

 ここまで窮地に陥っても、こいつは逆転への可能性を捨ててはいない。

 何があっても諦めない……それだけは見習う事にしよう。

 だが、いつまでも遊んでなんかいられない。


「ようし、特別サービスだ。あと2回の責め苦で死ぬよう、特別に力加減を調整してやる」


「な!?」


「もう一度だけ言う。正直に話さなければ、あと2回、俺の責めで、バスチアン、お前は死ぬ……ざっと10分ってとこだ」


「ひ、ひえ!」


「さっきので分かるだろう。楽な死に方ではない、身悶えし、もがき苦しんで死ぬ」


 最後通告という気持ちを籠め、告げたのを……

 バスチアンは察したのだろう。

 遂に白旗をあげた。


「……わ、わ、分かったぁ! は、話す! 話すから命だけはぁ!!!」


 泣き叫ぶバスチアンへ、俺はびしっと言い放つ。


「最初からそう言え! 手間をかけさせるな! それと5分以内に全て話せ。5分以上経ったら、問答無用で責めを再開する」


「ご、5分!? あ、ああ……ううう」


 俺の容赦ない脅しに対し、焦って息を荒げるバスチアンだが……

 もう嘘偽りなく白状する覚悟を決めたらしく、大きく何度も頷いたのである。

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