第15話「冥界の責め苦」
「うおおおおっ」
バスチアンは剣を振りかざし、襲いかかって来た。
レベル99の俺から見ても結構な身のこなしである。
とても60歳近い年齢とは思えない……
数十年に亘る奴の実戦経験で培われたのだろう。
相当な剣捌きで、普通なら達人と称される域だと思われた。
しかし7年前、転生した当初ならいざしらず……
魔王クーガーや上級悪魔エリゴス、エンシェントドラゴン等々と戦った俺には、バスチアンなど雑魚同然。
いくら暴力のプロとはいっても、たかが知れている。
でもまあ、油断は禁物。
獅子は兎を倒すのにも全力を尽くす……の例え通り、けして手は抜かない。
そして相手にもよるが、バスチアンのようなタイプには圧倒的な力を見せつける方が良い。
圧倒的な力を見せる……
俺はそれをやった事がある。
そう、あれは7年前。
エモシオンの町で、ミシェル、レベッカと食事をしていた際……
ミシェルの元彼を含めた、柄の悪い冒険者クランに絡まれた時にね。
※ど新人女神編第57話参照
うん!
バスチアンの使う剣自体も、結構鍛えた業物みたいだが……大丈夫!
まっ正面から受けてやる。
「死ねっ!」
気合を入れ、乾坤一擲!
俺を頭から真っぷたつにしようと、バスチアンは勢いよく剣を振り下ろした。
と、同時に俺も高めた魔力を解放する。
特殊な剣技スキルの発動だ。
「うは!」
俺に斬りつけたと同時に発せられた、バスチアン歓喜の声。
こんな奴、殺せる! 手応えあり!
という確信の波動も伝わって来る。
そう!
奴の剣を……俺は素手で受け止めていた……
普通なら、受け止めた俺の手首が剣であっさり切り離され,一瞬にして宙に舞う……筈だった。
しかし!
「え?」
数秒後には、戸惑い驚くバスチアンの声が室内に響いていた。
俺の手は剣の刀身をしっかり握ったまま、微動だにしなかったから。
そして……
俺が剣を握った手に「ぐっ!」と力を入れると……
ぱきん!
乾いた音がして、バスチアンの剣は刀身が半分に折れてしまった。
「ば、ば、ば、馬鹿なぁ!!!」
折れた剣の柄を固く握り、大声で叫ぶバスチアン。
瞬間!
奴の顔面真ん中へ、俺は拳をぶち込んでいたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
充分手加減したとはいえ……
俺の拳を受けたバスチアンの顔面は陥没し、鼻骨はあっさり折れてしまった。
剣の刀身を素手で折るというパフォーマンスがよほど効いたのだろう。
バスチアンは最初の勢いはどこへやら……
完全に戦意を喪失し、何とか逃げようと、赤ん坊のように這っていた。
しかし俺はこれくらいでは容赦しない。
顔面血だらけのバスチアンを捕まえ、片手で喉を掴み、高々と持ち上げると……
腹に10発ほど、拳を打ち込んだのである。
腹を殴られたバスチアンは口から血と胃の内容物をまき散らし……
ぐったりとしていた。
どうやら、意識が朦朧としているようだ。
俺は、意識不明一歩手前のバスチアンへ呼びかける。
「おい、外道……」
「…………」
「冥界に堕ち、肉体が復活した亡者が受ける責め苦は、何故辛いのか、知っているか?」
「…………」
「それはな……折檻役の悪魔共に責めさいなまれて、いくらボロボロに身体が傷つき、瀕死の状態になっても……」
「…………」
「亡者は一旦死んでいるから……少し時間が経てば、すぐ五体満足な健康体にリセットする……そしてまた悪魔共の責め苦が始まり……何度も何度もその繰り返し……責め苦は永遠に終わらないそうだ」
「…………」
「外道……今回はスペシャルサービスだ、お前にも冥界の亡者と同じ苦しみを味あわせてやろう」
俺はそう言うと「ピン!」と指を鳴らした。
何をするのかといえば、回復魔法の発動である。
初歩の治癒、そして回復、全快、慈悲、奇跡と続き、最後に復活まで。
この6種類が俺の使う基本的な回復魔法だ。
最高位の『復活』は死者も蘇らせる禁呪だし、そもそもバスチアンは死んではいない。
なので、次の高位レベルの『奇跡』を発動させる。
奇跡だって、痛みや打ち身どころか、大きな怪我や骨折でさえ瞬時に治癒してしまう超が付く回復魔法だ。
やはりというか、バスチアンはあっという間に快癒した。
意識もはっきり戻るが……
自分の喉を掴む俺を見て、くぐもった悲鳴をあげる。
「ぐうあああああああああ~~っ!!!」
「…………」
しかし俺は黙って、またも10発の拳を打ち込んだ。
再び……
バスチアンはボロ雑巾となる。
「……外道、また回復魔法をかけてやる。すぐ元気ビンビンだ」
即座に魔法が発動。
意識を取り戻したバスチアンは、俺がのど輪を外すと、憐れみを込めた眼差しで懇願する。
「た、頼む! も、もう! や、やめてくれ! いっそ殺してくれぇ!!!」
「嫌だね……」
きっぱり断った俺は、またも拳を10発。
またもバスチアンは瀕死となる……
まさに無間地獄……
この責め苦は……相当きつい。
だが俺は……こいつが可哀そうだとはまるで思えなかった。
今回のアマンダさん拉致未遂で発覚したが……
バスチアンの心を読んだところ……
奴は自分以外の人間に容赦ない。
男は無慈悲に嬲り殺し、女は散々身体を売らせた挙句、国外へ性奴隷として売っていた。
今のバスチアン同様……
数多の犠牲者も必死に命乞いをしたに違いない。
だが、こいつは一切無視した。
それどころか、部下を殺した時同様、笑っていたのだ。
俺には見える……
バスチアンの周囲には、そんな怨念を持って死んだ、魂の残滓……
つまり怨霊が飛び交っている。
普通に死んでも、これらの怨霊に取り憑かれ、冥界へ堕ちるのは100%間違いがなかった。
それにこのまま生かしておけば……
新たな犠牲者が増えるばかりだろう。
あまり偉そうに言いたくはないが……
アマンダさんは俺達が偶然会いに行ったから、さらわれずに済んだ……
たまたま運が……良かったのだ。
下手をすれば、悲惨な運命に突入するところだった。
恩に着せるというわけではなく、本当にラッキーだった。
そして……
この男、バスチアンは殺しても飽き足らない。
俺がもし、犠牲者の家族だったら……
八つ裂きにしても満足しない。
しかし俺はこのまま自分の手でバスチアンを殺すつもりはない。
こいつの背後に潜むアルドワン侯爵共々、ある方法で罪を償って貰うのだ。
罪人として、王国の裁判にかける?
いや、違う。
もうやり方は考えてある。
腹を30発殴った後で、俺はバスチアンへ告げる。
「外道……とりあえず、この責め苦はストップしてやる」
「ほ、本当か?」
「ああ、だから……懺悔も含め、俺の質問に対し、全て正直に答えて貰おうか?」
「う、うう……分かった!」
これ以上は冥界の責め苦に耐えられない!
既に観念していたらしく……
バスチアンは、素直に答え始めた。
結果……
俺は今回の事件における、とんでもない真相を知ったのである。
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