第12話「ヤバイ裏側が見えて来た!②」

 俺とジャンは他にもいくつかやりとりをした。

 ジャンは現状では、もう出す情報はないと言ってくれた。


 なので、後は……

 禁呪を使って「魂を支配した」バスチアン・ドーファンの忠実な配下ギャエル・ブルレックから情報収集を行う。


 俺は魔法を発動し、遠距離バージョンの念話で呼びかける。


 「支配した」と言っても、王都に居る奴の態度はこれまでと全く変わらない。

 なので、バスチアンにばれる事はない。

 

  俺の命令を受けた時に抵抗するすべを持たず、言われた通りに従い、完全にスパイと化す。

  太古から禁呪とされている通り、怖ろしい魔法なのだが、非常時である。


『ギャエル、お前、今どこだ?』


『はい……バスチアン様の屋敷です、ケン様』


『お前達がアマンダさんを取り逃がして、バスチアンの奴、激怒しただろう?』


『はい……罰として、私はむち打ち100回、部下3人は見せしめに殺されました』


 はぁ!?

 むちうち100回? 

 ぶ、ぶ、部下3人を!? 見せしめに殺したぁ?

 

 何なんだ!

 酷すぎるだろ!

 これが裏社会のリアルって奴か!


 ……やはり、バスチアンは非情で冷酷、鬼畜以下の男なんだ。

 こんな毒虫に見込まれたアマンダさんは本当に災難だし、親玉のアルドワンもろとも絶対に潰さねばならない。


 まず俺は大前提の事実を確認をする。

 一生懸命やってくれたジャンを疑うわけではないが、確認は必要だ。

 なので俺は尋ねる。


『ギャエル……バスチアンは、アルドワン侯爵と関係があるだろう?』


『はい……関係どころか……おふたりは表裏一体、双方なくてはならない関係です』


『やはりか……ふたりが普段、どういうやりとりをしているか、教えてくれ』


『はい……ダニエル閣下は、絶対バスチアン様と直接はお会いしません。やりとりは常に口頭で、3人の人間を介し、伝言しています』


『常に口頭? 3人の人間を介して伝言? 用心深いな……じゃあ、3人の人間とは誰だ?』


『はい……ひとりはアルドワン家の家令、もうひとりはアルドワン家子飼いの貴族、そして最後のひとりは子飼いの貴族のご用達商人です』


『アルドワンとバスチアン……ふたりが直接会わない……成る程、口頭にしているのも含め、バスチアンと繋がっている証拠を絶対残さない為だな?』


『はい……ケン様の仰る通りです』


『そして、いざとなれば蜥蜴の尻尾切りだ』


『はい……ケン様の仰る通りだと思います』


『だが……バスチアンも馬鹿じゃない。これまで散々修羅場をかいくぐって生き抜いているから……荒っぽいと同様に、相当用心深い筈だ……』


『はい……バスチアン様は、ケン様の仰る通り、凄く用心深いです』


『さっき俺が言った蜥蜴の尻尾切り……つまり、アルドワンにあっさり始末されないよう、しっかり備えもしているのだろう?』


『はい……バスチアン様は、侯爵家の家令、子飼いの貴族、御用達商人、3人の個人的な弱みを握った上、万が一の危険をたっぷりと煽りました』


『万が一の危険……そうだな』


『はい……いざとなれば俺達4人はアルドワン閣下に、虫けらのように殺されるぞと説得したのです』


『虫けらのように殺される……そうだよな』


『はい……その上、バスチアン様は3人へ結構な金を渡して買収をしてありますし、ご自分を含めた4者の連判状を所持しています』


『連判状? 内容は何だ?』


『はい……アルドワン様の命を受け、悪事を働いたと主な内容も含め、記してあります。他にも渡した現金の詳細な記録帳も残しています』


 ふうん……

 仲介者の弱みを握って、買収した上で仲間にして連判状に署名させた。

 更に現金の受け渡しの記録帳を持っているのか……

 普通の相手なら立派な証拠になるけどね。


 だが、ダニエル・アルドワンはヴァレンタイン王国の上級貴族。

 それも国王の御守り役兼後見人という超VIP。


 もしも知らぬ存ぜぬで返されたら……

 バスチアンを含めた4人は証拠隠滅の為に容赦なく抹殺され、証拠は完全に消え失せる。

 宰相の権限をもって、レイモン様が厳しく追及しても、完全に逃げられてしまうだろう。


 ここで、俺が何故こんなに悩むのか、不思議な人も居るかもしれない。

 管理神様に授けられた、圧倒的な力、レベル99を俺が振るえば……

 魔王であったクーガーとほぼ互角に渡り合い、悪魔エリゴスをあっさり倒し、エンシェントドラゴンを軽くノックアウトした俺であれば……

 いくら王国のVIPで、屈強な騎士がたくさん護衛についていたとしても、アルドワンをこの世から消すのは造作ない。


 だけど……

 単に俺がアルドワンを消して、粛正するだけでは駄目なんだ。

 アルドワンを抹殺した上、禁断の魔法でレイモン様の記憶を消すのは確かに簡単だが、それは打つ手がない場合の最終手段。

 

 俺が拘る理由……それは親友になったレイモン様に報いたいのだ。

 きっちり筋を通したい。

 あれだけ国を愛し、国の為に尽くすといった彼の気持ちを、踏みにじりたくない。


 それにレイモン様がどうしてアルドワンを放置し、手を下さないのか……

 俺の推測が当たっているのか、理由も聞きたいし……


 うん!

 とりあえず、バスチアンを尋問しよう。

 奴が配下に明かさず、隠している秘密がきっとある!

 もっと奴らの内情が分かれば、方法の幅が広がり、選択肢が増えるだろう。


 よし、早速、転移魔法を発動!

 

 第一段階の情報収集を終えた俺は、ジャンとケルベロスの従士ふたりと、王都へ跳んだのであった。

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