第11話「ヤバイ裏側が見えて来た!①」

 我がユウキ家の夕食が終わった。

 アンジェリカことアマンダさんの来訪はいきなり。

 手前味噌ではあるが、即対応はさすがだ。

 メニューは……歓迎の意味も込め、当然ハーブ料理である。


 ベアトリスが生涯をかけ、研鑽していた味もしっかり反映してあった。

 あの『最後の晩餐』で食べた夕食が……

 

 話を聞いた上で夕食を摂ったアンジェリカは、とても感激したらしく……

 目を閉じて、じっくりハーブ料理を味わう様子は、ベアトリスとの別離の悲しみを噛み締めているようであった。


 アンジェリカに……ユウキ家のメンバーはとてもフレンドリー。

 王都に旅行してアマンダさんに馴染みの嫁ズは勿論、お子様軍団も久々の新しいお客さんにおおはしゃぎ。

 ハーブを中心にして、話は大いに盛り上がり、本当に楽しいひとときとなる。


 夕食後のお茶の時間もアンジェリカは引っ張りだこ。

 俺は勿論、家族全員が、たくさん話をした。


 そんなこんなで、時間はもう午後8時を過ぎた……

 相変わらずはしゃぐ、お子様軍団はそろそろおねむの時間。

 瞼が重そうで、船をこぐ始末。

 嫁ズ達に導かれ、子供部屋へ退散して行った……


 残ったアンジェリカは、俺ともっと話したそうにしていたが……

 俺は、まだやらなくてはいけない事がある。


 なのでとりあえず、アンジェリカを嫁ズに任せる。

 ちなみに徹夜はリゼットのほんの『冗談』なので、全く心配はしていない。

 これから約1週間、アンジェリカとはたっぷり話せるし、騒動が収束すれば王都でまた会えるから。


 というわけで……お子様軍団が引き上げを終了、アンジェリカも嫁ズ達と女子会部屋へ移動、俺も自室へと戻った。


 そんな中、ケルベロスからも「参戦したい」という依頼があった。


 長年の良きライバルとして、ジャンへの対抗心は勿論なのだが……

 ケルベロスはベアトリスの一件で、アマンダさんが果たした大きな役割を知っている。

 ベアトリスはアマンダさんとの出会いを機に、前向きに生きて行くと気持ちを切り替える事が出来たのだ。

 そのアマンダさんが窮地に陥ったと聞き、侠気にあふれた漢ケルベロスは助力したいと自ら告げて来たのである。


 閑話休題。


 さてさて、そろそろ戦闘再開。

 今夜、俺はまた王都へ乗り込む。

 

 だけど王都へ出発する前に、ジャンから改めて詳細を聞く。

 白鳥亭で概要を聞いた続きを。

 

 誰でもそう言うし、常識なのだが、情報収集はとても大事である。

 ジャンのお陰で、事情はある程度知っていても王都に関して、俺はやはり不慣れな田舎者。

 自動車をスムーズに運転する前に、目的地までの道を把握しておくのと一緒だ。

 ちなみに前世で、運転免許を取得した時、大変だった……

 なんて話は置いておく。 


『ジャン、王都で聞いたバスチアンの話だが、続きを教えてくれるか』


 俺が念話で話しかけると、目の前の黒白のぶち猫は胸を張って、「にゃあ」と鳴く。


『ええ、良いっすよ。ええっと、バスチアンは表向き真面目な商人を装い、裏では非合法な商売で稼ぎまくる悪党。そして背後には王都の貴族アルドワン侯爵が居る……そこまでは、お話しましたよね?』


『ああ、それでOKだ』


『じゃあ、続きを言いますぜ! ……オベール家宰相のケン様はご存知の話もあるとは思いますが……一応、聞いて下さい』


『ありがとう、宜しく頼む』


『では! アルドワン侯爵家はヴァレンタイン王国の中でも指折りで古参の貴族です。現当主のダニエル・アルドワンは現国王リシャール様の子供の頃からの御守り役兼後見人も務めています』


『国王の御守り役兼後見人……そうか……成る程な』


 薄々感づいてはいたが……

 宰相レイモン様が、アルドワンを粛正しない理由が見えて来た。

 誠実で、正義感溢れるレイモン様が何故? と不思議に思っていた。

 多分、現国王リシャールとアルドワンの親密な『関係』からだろう。


『ウチの部下の調査で分かりましたが、アルドワンは……相当な野心を持っています。金と力を徹底的に追い求めている……今持つ権力以上を、欲しているんじゃないかと俺っちは思いました』


『そうか………今持つ権力以上か』


 今持つ権力以上……国王の側近中の側近で充分なのに、それ以上?

 凄~く、嫌な予感がする。

 大変な争いが起こりそうな気配が漂っている……


『はい! 果てしなき野望って事ですね』


『はぁ……悪徳商人バスチアンを使い、汚れた金をもっと稼がせ、自分は何もせず楽をして、吸い上げるだけ吸い上げる……外道だな?』


『そうっす! 悪党や外道が考えるこの世の全てとは、金と権力。それを地で行ってる貴族です、アルドワンって』


『ならば! 力の方は表だけじゃなく、裏の力も使いやすくするって事だな』


『ええ、ケン様、相変わらず鋭いっす。アルドワン家は代々、ヴァレンタイン王国の軍務の中心を担っていますからねぇ。ヴァレンタイン王国軍の中心といえば騎士じゃないっすか?』


『という事は、アルドワンは騎士隊の総隊長って事か……いわば王国軍の長なんだな?』


『はい! でもさすがに騎士をおおっぴらに、理不尽な暴力ごとや汚れ仕事に使うわけにはいきません』


『確かに! 騎士はまず名誉を重んじる。プライドだって高い。非合法な裏仕事などさせられるわけがない』


『です! 権力により衛兵にお目こぼしされるバスチアンの配下共は、アルドワンにとって使い勝手の良い、格好の駒って事ですよ』


『……そうか、莫大な金を得た上、表と裏の力を掌握するって、本当にヤバそうだな』


『ええ、アルドワンは本当にヤバイ奴でっす』


『う~ん……もしアルドワンがラスボスなら、倒し方はいくつか考えなくてはいけない。何故なら、レイモン様との兼ね合いがあるからな』


『ですねっ! 俺っちは全面協力しますよ! 何でも言って下さいっ!』


『ジャン、助かる!』


『お任せをっ! 悪党共を倒して、アマンダ様がお幸せになれば、ご旅行中のベアトリス様も凄く喜びますからね……ケン様、頑張りましょう!』


『え? ベアーテがご旅行中?』


『はい! 長い旅になるかもしれませんが……あの方はいつか必ずボヌール村へ戻られますよ』


『…………』


『きっと晴れやかな、夏に咲くひまわりみたいな笑顔をされ、元気にお帰りになられます。ただいまぁ、今帰ったわって、仰り、手をぶんぶん振りながらねぇ』


 おいおい!

 やめろよ、ジャン……

 お前、俺をあんまり……泣かすなよ。

 でも……ありがとう!


『あ、ああ! そうだな! ジャン、お前の言う通りだ。よし! ベアーテの為にも頑張るぞ!』 


 そんなこんなで……

 俺とジャンは他にもいくつかやりとりをした。

 ジャンは現状では、もう出す情報はないと言ってくれた。


 なので、俺は次の情報ソースを使おうと、魔法を発動したのである。

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