第6話「スクランブル! 妖精猫緊急出動!③」

 妖精猫ケット・シーのジャンとふたりで、今後の打合せをしていると、アマンダさんが私室から出て来た。

 当然、クッカとリゼットも一緒。


 アマンダさんは着替えて……

 旅行者仕様で濃紺の、お洒落な法衣ローブを着た出で立ちとなっている。

 いつもの渋いアースカラー配色の、かっぽう着っぽい女将姿も素敵だが、こんな格好も最高だ。

 

 ジャンが美人アールヴ女将を見て、「にゃあ」と可愛げに鳴いた。

 鳴き声と共に、念話でいたわりの言葉がかけられる。


『アマンダ様、このたびは災難でしたねぇ』


『あら、ジャンちゃん!』


 見覚えのある『ぶち猫』を見て、アマンダさんの顔がほころぶ……

 ジャンにはもう、何度も手紙やお使いを頼んでいるから、アマンダさんとは顔馴染みなのだ。


 それから15分後……

 

 アマンダさんと入れ替わりに……彼女の私室へ入ったジャンが……

 出て来た。


「ああ……」


 思わず、アマンダさんが声に出して驚いた。

 目を真ん丸にして驚いている……


 うん!

 俺が改めて見ても、ジャンの変身魔法は一層磨きがかかっていた。

 

 アマンダさんの目の前に立つのは……

 彼女の服を借りて着た、そっくりに変身した妖精猫だったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 話し方、身振り手振り、考え方、白鳥亭の勝手等々……

 

 変身魔法により、アマンダさんそっくりに擬態した妖精猫のジャンは、綿密な刷り合わせ&打ち合わせをした上……

 アマンダさん本人と完全に入れ替わった。

 

 クッカとリゼットも、ボヌール村の様子をアマンダさんに説明するなど、いろいろフォローしてくれていた。


 その間、俺は……

 クーガーを始め、他の嫁ズに念話で今回の事情&作戦を伝えておいた。

 嫁ズは当然快諾し、速攻で受け入れの準備に入っている様子……


 今回、俺が立てた作戦はこうだ。


 まず、アマンダさんの安全を第一に考え、彼女を連れ、ボヌール村へ避難する。

 俺の転移魔法で、ここ白鳥亭から一気に跳ぶのだ。

 

 ……転移先は、目立たぬよう、普段は村民が近付かないクラリスのアトリエ兼工房だ。

 既にクラリスには、アトリエで待機して貰っている。


 到着後……

 アマンダさんは休憩を兼ね、嫁ズのケアを受けながら、アトリエで待機。


 村へ戻った俺も、更に自宅へ転移。

 着替えて、定期パトロールを装い、村を出る。

 そして適当な場所で転移魔法を使い、アマンダさんをアトリエへ迎えに行き、合流。


 そしてふたりで転移魔法で村外へ。

 

 最後には……

 いつものように。

 つまり旅をしていたアマンダさんを偶然保護し、村へ連れて来たという芝居をする……

 足がつかないよう、アマンダさんの名前は偽り、魔法で容姿も少し変える。

 

 以降は……大空屋の宿屋か、俺の家にお泊りして貰い、1週間過ごす。


 一方、白鳥亭に残されたジャンは……

 従業員達にケアした上、『白鳥亭休業』の触れを出す。

 そして鍵は勿論、魔法でも厳重に戸締りをし……

 夕方王都を出る手筈となった。

 

 当然、アマンダさんに擬態したジャンを、俺が迎えに行く……

 出発前に白鳥亭へ直接転移し、ジャンから報告を受け、再び作戦をすり合わせするのだ。

 

 その際、俺は魔法で姿を隠し、アマンダさんに化けたジャンは単身、旅を装って王都を出発する。

 そしてふたりで転移魔法を使い、ボヌール村へ戻るのだ。

 

 ちなみに、何故、単身なのかといえば……

 容姿を変えた俺とふたりで王都を出れば、一見カップルとなり、絶対アマンダさんは目立つ。

 後で、「あれは彼氏?」とか、「まさか結婚するの?」とか、

 『要らぬ突っ込み』がたっぷりあるからだ。


 まあそれは置いといて……


 もし奴らが、何か行動を起こしたら、却ってチャンス。

 捕まえて、しっかり情報収集&ヤキを入れてやる。


 そんなこんなで……

 今回の問題が完全に解決したら、また転移魔法でアマンダさんは王都の近くに移動。

 俺が姿を消し、傍で護衛しつつ……

 旅から戻ったという趣きで帰宅。

 という段取りだ。


『では、アマンダ様。後ほど、村でお会いしましょうや』


 アマンダさんに擬態したジャンは直立不動で立ち、びしっと敬礼をした。

 かつて俺とソフィを見送った時のように……


 傍から見ると、そっくりな一卵性双子のアールヴが向き合い、片方が敬礼しているという図式だ。


 アマンダさんは優しい。

 ソフィになる前のステファニーが、心配したのと同じ眼差しをジャンへ向けている。


 自分に降りかかった災難の為に……

 身代わりとなったジャンに、万が一害が及んだら……

 という心配の気持ちが籠もっていた。


『ジャンちゃん、……危ない目にあわせてごめんなさい』


『大丈夫っす、アマンダ様……あんな奴ら、魔物に比べたら雑魚っす。それに貴女が幸せになる為なら、俺っちは頑張りますから』


『あ、ありがとうございます! くれぐれも気を付けてくださいね』


『はっは~、楽勝っす! アマンダ様の優しい眼差しと労りの言葉が、100万倍もの力を与えてくれますよ』


 ジャン、やっぱりお前、本当にカッコいいぜ!

 まさに姫を守る騎士ナイト!って感じだよ。


『じゃあ、宜しくな、ジャン! 後で迎えに行く』


『ええ、ケン様、お願いしまっす! 部下に命じてありますから、情報収集の方もばっちり進んでまさぁ!』


 ならばよし、OK!

 転移魔法発動!


 こうして……


 敬礼するジャンに手を振りながら、俺達はアマンダさんを連れ、ボヌール村へ跳んだのである。

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