第7話「アマンダさん変身」

 俺が立てた作戦において、指示を入れた段取りは全て上手く行った。

 

 突然のお願いにも関わらず……

 大至急で王都に来てくれたジャン。

 そしてボヌール村で待機する嫁ズ&従士ズ。

 皆が完璧に準備し、スムーズに対応してくれたお陰だ。

 いつもながら、感謝してもしきれない。

 

 嫁ズの中で、アマンダさんに会った事がないクーガー、ソフィ、サキの3人は……

 特に凄く張り切り、率先して受け入れ準備を整えてくれたようだ。

 

 ああ、ウチの家族は最高。

 困った人を、けして見捨てたりしない。

 全員が、アマンダさんと会うのを楽しみにしてくれていた。


 但し、なんやかんやで時間は結構かかった。

 朝早くから動いたのに……

 もうお昼過ぎだ。

 今、太陽は真上からやや西へと傾いている。


 そして俺は従士のひとり、妖馬ベイヤールが曳く荷馬車を御し……

 エモシオンへ至る街道を、ボヌール村へと向かっていた。

 

 当然、アマンダさんも一緒。

 彼女は旅の途中、疲労して難儀し、俺に拾われたという設定。

 御者台の俺の隣に座り、優しく微笑んでいる。


 このパターンは、ソフィ、クッカ、クーガー、グレースと全く一緒。

 そして滞在期間だけは違うがこれも同じ。

 暫し、彼女はアマンダさんではなくなるのだ。

 

 加えて、万全を期し、人間に変身して貰う事にもした。

 但し、アールヴは誇り高い種族だ。

 自分達が唯一無比の種族だと自負している事は有名である。

 なので人間になる事を嫌がり、少し逡巡するかと思いきや、アマンダさんは迷わなかった。

 

 俺は早速、希望を聞き、仮初の名前を決め、魔法で容姿を変えた。

 

 まず名前は……アンジェリカが良いと言われた。

 普段はアンと呼んで欲しいとも。

 

 ふうん、アンジェリカ……か……

 仮初の名前を名乗るにあたり、アマンダという名を、少しだけ変えたのだろうと俺は思った。


 続いて、アマンダさんからは変身後の容姿の希望も出た。

 アールヴとひと目で分かる、とがった耳だけは変え、身長や体躯はそのままで。

 長いさらさらな栗色の髪は、輝く金髪にして欲しいと……


 髪色が金髪になれば、却って目立つ容姿になるかもと思ったが……

 趣旨は人間族の別人になる事。

 なので、俺は希望通りにしてあげた。

 

 瞳の色は金髪に合わせ、深い灰色のまま……

 憂いを帯びた眼差しは全く変わらず……

 じっと見つめられると、つい舞い上がってしまいそうだ……


 瞳の色を変えなかったので、今回は声を少し変えた。

 鈴を転がすような美声から、やや低めのハスキーな声にしたのだ。


 俺の魔法により、クラリスのアトリエで姿が変わった時……

 姿見を見たアマンダさんは、何故か子供のようにはしゃいでいた。


 こうして……

 アマンダさんは、人間族の美女となった。


 俺は改めて、隣に座ったアマンダさんを見た。

 

 全然印象が違うのは、髪型を変えたせいもある。

 いつものポニテ風には髪をしばらず、さらっと流しているから。

 草原に吹く風により、なびく黄金色の髪は……

 太陽の光を受け煌めき、とても美しい……


 ソフィことステファニーもそうだし、グレースことヴァネッサもそうだが……

 髪色と瞳の色を変えるだけで、人ってイメージが全く変わる。

 今回、瞳は変えなかったが、種族と髪色、声も変えたし、アマンダさんを良く知る人でも、絶対に分からない。

 

 けして油断は出来ないが、場所&時間的な問題もあり……

 例の相手もまさか、アマンダさんが容姿を変えた上、王都より遥か南方のボヌール村へ居るとは思わないだろう。

 

 宿泊客をチェックしていたら見破られる、という事も考えたが……

 はっきり言って白鳥亭の常連さんは凄い数の人達だ。

 たま~に、泊る俺達は、常連客とは程遠い……

 却って、一見さんに近いといえよう。

 

 それにジャンの底知れぬ情報網が、すぐ奴らをまる裸にする。

 奴らが焦って、アマンダさんの行方を調べている間に、片が付く。

 

 今回は、相手の出方次第ではあるが……

 俺は絶対に容赦せずと決めている。


 そもそも、どんなにヤバイ裏の人間でも所詮は人間……

 魔王と戦い、悪魔を倒した俺に敵う筈がない。


 いや、たとえ相手が魔王や悪魔、魔族だったとしても俺は戦う。

 愛する家族の為なら……


 そう!

 アマンダさんはもう家族同然なのだから……

 絶対に守る。

 幸せにする。

 それがふるさと勇者の矜持だ。


 つらつら考える俺に……

 石ころだらけの街道を走る馬車の振動が「がたごと」伝わって来る。

 はっきり言って、この異世界を走る荷馬車の乗り心地は良くない。


 アマンダさんも同じ振動を感じている筈だ。

 だが……

 彼女の微笑みは変わらない。


「ケン様」


「はい!」


「これから1週間……私はケン様達と、ボヌール村で暮らすのですね……貴方と初めてお会いした、旅人のアンジェリカとして……」


「ええ、悪党共の処理が早く終われば、すぐ王都へ帰れますよ」


「悪党共の処理が終われば、すぐ……王都へ帰れる……」


「ええ、そうです。だから安心して、村で待っていてください」


 俺がきっぱり言うと……

 ここで、アマンダさんはじっと見つめて来た。


「ケン様は……私を……家族だから……助けると仰った……」


 アマンダさんは何故か、すぐ王都へ帰りたいとは言わなかった。

 言葉は途切れ途切れに……

 そして、熱い眼差しを向けて来た。


 彼女の言う通り、家族だから……

 そう!

 アマンダさんは家族なんだ。


 確信を持って言えるので、俺も、「打てば響け!」とばかりに返す。 


「はい! 確かにそう言いました」


 だが、アマンダさんはまたも尋ねて来る。

 まるで念を押すように。


「私もケン様の家族なのですね……奥様達やお子さま達、そしてベアトリス様のように……」


「はい! 家族です! アマンダさんは間違いなく俺達の家族です!」


「嬉しい! ありがとうございます」


 俺の返事が満足の行くものだったのか……

 礼を言い、深くお辞儀をするアマンダさんに、俺も大きく頷いていたのである。

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