第8話「奴らへ罠を仕掛けろ!①」
人間族の別人に変身したアマンダさん……
すなわち『旅人アンジェリカ』を無事、ボヌール村へ送り届け……
嫁ズへしっかり託してから……
念話で事前確認した上、俺は従士ジャンの待つ王都へ跳んだ。
当然正門なんか通らず、転移魔法でダイレクトに白鳥亭内へ。
表向きは村に居て、自宅の私室に夕飯まで籠っている事にしてある。
到着した白鳥亭で、アマンダさんに擬態したジャンは待っていてくれた。
手筈を万全に整えて。
従業員には1週間の休暇を取らせて自宅へ帰し、表には「暫く休業」の札が下がっているという。
いつもの事ながら、やるなぁ、ジャン。
それに、改めて見ても、こいつの変身魔法は凄い。
寸分違わず、どこから見てもアマンダさんである。
『ケン様、こちらはいつでも出発OK! 準備万端ですぜ』
『そうか!』
『はい! 相変わらず周囲に見張りが居ますよ、人数は10人でっす』
『お疲れさん、ありがとう! 相手の正体は分かったか?』
『はい! ああいう店をやっていて、ヤバそうな奴ですからね。ちょっと調べたらすぐ分かりましたよ』
『よし、教えてくれ。時間がないから概要だけで良い』
『了解っす。アマンダ様を狙った奴のフルネームはバスチアン・ドーファンという、人相の悪いむさいおっさんでさ』
『ふむ、バスチアン・ドーファンね』
『ええ、ドーファン商会という店をやっていまして、表向きはカタギの商人を装っていますが、とんでもない奴です』
『ふうむ……とんでもない奴なのか?』
『ええ、愚連隊上がりの凶暴な男で、容赦なく何十人も人を殺してます……完全に裏街道を歩く冷酷な野郎です』
まあ俺も、数え切れないほど悪党を地獄へ送っている。
だから、もっともっと凶悪でとんでもない奴かも と、つい苦笑した。
『凶暴なのは俺達もだけどな……そうか、愚連隊上がり、裏街道を歩く奴ね』
『はい! メインの店こそ一般商材を扱う商会ですが、奴の実体はアマンダ様を誘った売春宿を始め、裏カジノ、密輸、奴隷商人など、とんでもない非合法の事ばかり行う悪徳商人ですよ』
『確かにとんでもない奴だ……でも、そこまでおおっぴらにやって摘発されないとか、衛兵が抱き込まれているって事は……単なる愚連隊上がりじゃ無理だな』
『ですね!』
『多分、そいつから金を巻き上げて資金源にしている上級貴族か何かが居るんじゃないか?』
『さすが、ケン様、大当たりぃ。アルドワンという王都在住の侯爵が背後に居て、上納される金と引き換えに、バスチアンの悪事を全てもみ消しています』
『あちゃ~、王都の侯爵が黒幕か……それ、レイモン様が知ったら、さぞやがっかりされるだろうなぁ……』
『ああ、レイモン様って、ケン様がお会いしたっていう、この国の王の弟君ですね』
『うん……とても真面目な方なんだ……あまりショックを与えたくないなぁ……』
『真面目ねぇ……そりゃ、がっかりされて、ショックを受けるでしょう……もしくは知っているが、どうにもならないとかね』
『ああ、特別な事情がある可能性も捨てきれない。まあ……アルドワンが、オベール家の寄り親じゃないだけでも幸いだよ』
そう……
もし侯爵アルドワンがオベール家の寄り親だったら、いろいろと面倒になるところだった。
表向きも裏向きも。
オベール家宰相の俺も無関係ではいられない。
そうなると、ボヌール村にも影響があるかもしれない。
直接関係ないのに、オベール様にも累が及び、最悪の場合、領主交代とか……
そんなの真っ平御免だ。
ふざけるなって、言いたい。
とりあえず安堵した俺は、白鳥亭の魔導時計を見た。
時刻は午後4時30分を少し過ぎている。
村への帰還時間を逆算したら、もう余裕がない。
リミットが迫っている事を再認識し、俺はジャンに出発を促したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一見アマンダさんのジャンは、白鳥亭の裏口から外へ出る。
そのジャンへ、一斉に視線が突き刺さった。
当然、周囲で監視中の奴らだ。
悪党バスチアンの手下共である。
扉に施錠し、旅行者風のジャンが歩き出すと……
手下共も、少し距離をとって歩き出す。
アマンダさんクラスの超美人なら……
絶対にナンパ男達が「わらわら」と寄って来るのに、それがない。
どうやら……
手下共が睨みをきかせ、牽制し、追い払っているみたいだ。
そして俺はというと……
姿を消す隠し身、つまりステルス状態になって、ジャンの傍に居る。
手下共からは、完全に見えない状態で守っているのだ。
俺が見て、手下共の身のこなしからすると、結構武道を身に着けた者揃いだと分かる。
用心した俺は、緊急事態という事で、奴らの魂……つまり心を読んだ。
すると、奴らは遂に実力行使に出る事が判明した。
つまりアマンダさんを拉致するつもりなのである。
数人が先回りするのか、足音も立てずに走り出す。
少し離れた場所には、連れ去る為の馬車を停めているらしい。
伝わって来る波動で分かる。
用意は周到だし、奴らは手慣れていた。
もう何度もこういう事をしているに違いない。
俺は、念話で警告を送る。
『ジャン、奴ら……いつ襲って来てもおかしくない、気を付けろ』
『了解っす』
『よし……尾行されるのも想定済みだから、分かってるな。奴らに第一弾の罠を仕掛ける』
『第一弾……合点です、ケン様。……あのひとけのない路地が良いんじゃないっすか』
ジャンが「ちらっ」と先の路地を見たので、俺も頷いた。
『だな! カウントダウンするぞ』
『了解っす!』
『3、2、1、ダッシュ!』
アマンダさんに擬態したジャンと、透明な俺は一緒に狭い路地へ駆けこんだ。
バスチアンの手下共も追いかける。
奴らの先回り組は、路地の出口へ回ったようだ。
しかし!
俺達に続いて、路地へ入った手下共は、吃驚して右往左往していた。
何故なら、狭い路地には、誰も居なかったからだ。
消えた俺達は……奴らの真上に居た。
アマンダさんに擬態したジャンも俺の魔法で姿を消していたのだ。
そして、既に透明状態だった俺とふたりで浮遊の魔法を使い、10mほど高い空中から、慌てる手下共を見下ろしていたのである。
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