第24話「ベアトリスの告白②」
潤んだ美しい碧眼で俺を見つめ、ベアトリスは言う。
『この世界でも感じたけど……ガルドルド帝国は……はっきり言ってもっともっと男尊女卑だった……』
『…………』
『でもケンは……女性の私を対等に見てくれたわ、いいえ尊重してくれたもの』
『…………』
『貴方とは私、自分を偽らず、本音で話せた。そんな男性は……今迄、居なかった』
『…………』
『お父様やお兄様でさえ……私は心の全てをさらけ出した事はなかったの』
『…………』
『ケン! 貴方はこれまで私が出会った中で、最高の男性……』
『…………』
『……私の全てを知り、理解してくれた男性……いつも大事にしてくれる男性……だから……好きになった……』
『…………』
『改めて告白します……ケン! 私は貴方が好き……大好き!』
『…………』
『私は恋を……知らない……子供の頃読んだ絵本、大きくなってから読んだ小説の中でしか……ね』
『…………』
『17歳まで恋を知らない私が……初めて男性を好きになった。ケン、貴方は素敵な初恋の相手なの』
『…………』
『ねぇ、ケン! お願いよ! 私の初恋を受け入れて! 最後の夢を叶えてっ! 理想の相手である貴方に! 私の……旦那様になって欲しいのよ!』
今迄黙って聞いていた俺は……
ベアトリスからの逆プロポーズに対し、もう無言ではおれず、遂に言葉を返した。
『おいおい! 旦那様って? 俺が?』
『ええ、ぜひ!』
『最高とか、理想の男性って褒めてくれて……その上、好きになってくれるなんて、凄く嬉しいけど……ベアトリスの相手が、こんな俺なんかで良いのか?』
『駄目! こんな俺なんて言っては! そんなに自分を卑下してはいけないわ。……貴方はとても立派よ、もっと自信を持って!』
『あ、ああ……でも俺……そこまでの自信なんかないなぁ』
『もう! そんな事、貴方が言ったら……私だって言っちゃおうかな?』
と、ベアトリスは悪戯っぽく笑った。
『こんな私なんかより、ずっと素敵な女の子が9人も……一途に貴方の事を想っているわ。とても素晴らしい事なのよ』
ベアトリスが、自分よりずっと素敵な女の子達と言うのは……
ウチの嫁ズ9人の事。
確かに皆、俺への愛が深い。
深すぎると言い切っても過言じゃない。
当然俺も同様に、彼女達への愛は凄く深い……
『ま、まあ……ベアトリスの言う通り、素敵な9人の女子に想われるなんて、とても幸せな事だと思っているよ』
『でしょう? だからケン、自信を持って! 貴方はね、ガルドルドの偉大な英雄達にも負けない! いいえ! やはり私が知る限り最高の男性なのよ』
『あ、ありがとう! だけど! ベアトリスだって、けしてこんな私じゃないぞ! ウチの嫁に負けないくらい、凄く可愛いし素敵だ』
『うふふ、こちらこそ褒めてくれてありがとう。じゃあ話は早いわ』
『話が早い?』
『ええ、イメージしてみて! この数日間、ずっと一緒に居たのは……創世神様がセッティングして下さった、特別なお見合いだと思えば分かり易いじゃない?』
『え? 創世神様がセッティングして下さった、特別なお見合い?』
そう、言われれば……
ベアトリスを長い眠りから起こしたのは、あの管理神様。
ならありえると、俺は思ってしまった。
否!
この薄幸な亡国の王女が幸せに、天へ旅立てる為に……
管理神様が、俺に託してくれた。
今はっきりと……確信した。
つらつら考える俺が完全に納得したと見たのか……
ベアトリスは、ぐいぐいと押して来る。
『そうよ、ケンも私の魂を見たでしょ? 私の性格や考え方もおおよそ、分かっている。……私と貴方は相性ぴったりなのよ』
『…………』
『ケン同様、憑依したからクッカとリゼットの事情も気持ちも分かった。他の奥様達に憑依はしていないけど、女子会も含め、何度も語り合ったもの』
『…………』
『私はユウキ家で妻として、皆としっかりやっていける! ケンだって、そう思うでしょ?』
『…………』
貴方に相応しいお嫁さんになれるわ、絶対!
と、強く同意を求めるベアトリス。
その熱さ、激しさに俺は圧倒されてしまう。
明るく優しく、普段は冷静な気高き王女が……
ひとりの恋する女性として、ストレートな気持ちを思いっきりぶつけて来るから。
『ケン、聞いてっ!』
『お、おお……』
『どこも、そうでしょうけど……王族の女性は普通、親の決めた相手に嫁ぐの』
『…………』
『もし病気にならなければ、死ななかったら……私も政略結婚の道具として、どこかの王家へ輿入れする筈だった……恋なんか絶対に出来なかった……』
『…………』
『でも! 私はケン、貴方と運命の出会いをした……』
『…………』
『人生の最後の最後に……こうして初恋も経験した。その上、自分の意思で、伴侶となる夫を決める事が出来る……かもしれない』
『…………』
『今、……最高に幸せなの……分かるかしら?』
『…………』
『不思議よね? 私は思うわ、何度言っても不思議だもの……』
『…………』
『5千年の遥かなる時を経て……私と貴方は出会ったのだから……』
『…………』
確かにそうだ……
ひと口に5千年といっても、全然想像もつかない。
気が遠くなるくらい、遥か
それもとびきり可愛い女の子と、俺は今、恋を語っている。
そんな不思議な思いを籠め、俺とベアトリスは再び見つめ合ったのである。
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