第6話「ありがとう!①」

 さてさて……

 幽霊王女ベアトリスを連れ帰った俺と従士達だったが……

 一見、何事もないようにボヌール村の正門を通過した。

 いつも元気に門番役を務める、ガストンさん達へ手を振り、笑顔で。


 精神体アストラルであるベアトリスの姿は、波長を合わせた俺や従士に姿は見えるが、ガストンさんには視認出来ない。

 さすがに眼光鋭いレベッカ父も、実体の無い美少女幽霊を見咎める事は出来なかった。


 そんなわけで問題なく村内へ入って……

 ここで、ケルベロス達従士3人とはお別れだ。

 

 ベアトリスは名残惜しそうに、去り行く従士達へ手を振っていた。

 自分の墓を一生懸命掃除してくれたから、感謝の波動が伝わって来る。


 一方、従士達はマイペース。

 さっきの墓掃除は人間になって親身にやってくれたけど、基本、自分の方針は頑なに崩さない。

 ケルベロスは「わう!」とひと声短く吠え、ジャンは「にゃあにゃあ」人懐こく鳴いた。

 ベイヤールはいつもながら、孤高の人? 否、馬という感じ。

 無言で……

 こうして3人はそれぞれ去って行った。 


 従士への見送りが終わり、ベアトリスは振り向くと、今通って来た村の門へ視線を向けた。

 その脇に建つ、登りやぐらへ更に視線を向ける。

 

 当然居るのは……

 登り櫓から睨みをきかせる、ガストンさんを始めとした、頼もしい門番達。

 彼等を見て、ベアトリスは笑顔を見せた。

 俺と彼女の会話は勿論、念話だ。


『ケン!』


『おう! 何だ、ベアトリス』


『あの人達……とても強そうな門番ね、村を守るのは俺達だぜって気合を凄く感じるわ! 私、帝都の門番達を思い出しちゃった』


 ベアトリスの目が、少しだけ遠い。

 どうやら昔を思い出したようだ。

 こういう時は、話を合わせてやらないと。


 笑顔で応えた俺は、ガストンさんを指さす。


『だな! ちなみにあの彼も俺の嫁の父親、つまり俺にとっては親父さ』

 

『へぇ! そういえば、ケンはお嫁さんが9人居て、その分、ご両親もいらっしゃるんですものね』


 ベアトリスの質問を聞き、俺は「そういえば……」と考える。

 指折り義両親を数えながら、答えを戻す。


『ああ、でも既に亡くなられたり、事情があってこの世界には居なかったり……さっき見た領主様の町エモシオン在住の人も居るから……ええっと、良く良く考えれば……今、この村に住んでいるのは、ガストンさんだけだな』


『ええっ? そうなの?』


 嫁が9人も居て、親がひとりだけボヌール村在住。

 というのは、普通に考えていかにも少ない。

 ベアトリスの驚きは尤もだ。

 でも、それが事実。


 俺は頷くと、補足説明をしてやった。


『うん、ガストンさんを入れて、現在存命である俺の義両親は10人……まあ、再婚とかもあって全員生きていれば16人なんだけど、6人はもう亡くなってる……ああ、ちなみに俺の両親も既に故人さ』


『そうなんだ……』


『だけど、10人も生きているじゃないか。凄く嬉しいよ!』


『そうよ! そうよね!』


『おう! ボヌール村にガストンさんだろ、4人は……さっきベアトリスも空から見たエモシオンに在住している。残りの5人はもっと遠くに居る。ひとりはこの国だけど、あとの4人は異世界に……結構、離れ離れで暮らしているよ』


『それ……寂しくないの?』


『ああ、寂しい!』


『え?』


 俺が素直に「寂しい!」と答えたのが、意外だったのか……

 ベアトリスは可愛く首を傾げた。


 だから俺は胸を「とん!」と叩く。

 問題なんか無いというように。


『でも、全然大丈夫』


『全然大丈夫って? そうなの?』


『うん、どんなに離れていても、気持ちはちゃんとつながってる。俺はそう信じてる。だから寂しいけど、頑張ろうって気持ちになるんだ』


『……うふふ、良いわね、そういうの……羨ましい……』


 ベアトリスの目が、またも遠い……

 この世界にたったひとりで、よけい寂しさが募っているのだろう。


 なので俺は彼女を元気付ける為、手を「ひらひら」と横に振ってやる。

 違うぞ! ってね。


『いやいや、ベアトリス。お前ともそうなるのさ』


『え? 私とも? ……そうなるの?』


『ああ、こうやって出会って、お前とも気持ちはしっかり繋がった。俺はそう思うよ』


 俺の言葉は……

 しっかりと、ベアトリスの心へ届いたようだ。

 その証拠に、彼女の美しい碧眼が潤んでいた。


『ケン……私と貴方の気持ちが繋がったの?』


『ああ、確かに繋がった! 俺はお前の事を、絶対に忘れない。それに人生は出会いと別れの連続だ』


『ええ……そうね、人生は出会いと別れの連続か……うん! 私も忘れないわ! 貴方の事を! 絶対に!』


『おお、嬉しいね、それ。でも俺なんかより、お前だってご両親を含め、これから家族や友人に会えるかもしれないじゃないか! 俺みたいに転生すればさ』


『そ、そうよね……あ、ありがとう!』


『と、言っているうちにお出迎えだぞ』


『お出迎え?』


『ほら!』


 俺がある方向を指さすと……

 かつてテレーズことティターニア様が来た時、お出迎えしたように、嫁ズと子供達が「ずらり」と並んでいたのであった。

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