第23話「奇跡の再会、奇跡の邂逅②」

 俺と嫁ズ全員が集合した部屋には、ただひとり、クラリスの声だけが響いている。


「ちなみに……絵を描く順番に関しては、申し訳ありませんが、私に任せて頂きます」


「…………」


 クラリスは、嫁同士が後で揉めないよう、気配りもしっかりしている。

 誰もが早く、自分の絵が見たい……

 そう考えるのは、当然の事なのだから。


 場の空気を読んだのか、クラリスはウインクし、


「あまり、長い話はいけないですよね? ではお披露目します」


「…………」


 ず~っと無言で見守る、俺と嫁ズの前で……

 絵を覆っていた白布を、クラリスはパッと取り去った。


 すると、現れた絵は!

 衝撃の内容だった。


 舞台は、広大な草原……

 俺の目には、怖ろしい怪物が、まず目に入った。


 そう!

 歯をむき出し、よだれをたらし、まさに襲い掛からんとする……

 おびただしい数の、ゴブリンが描かれていたのである。


 そして、少し離れた場所に……

 栗色の髪をした、小柄な少女が居る。

 

 少女は俯き加減で、力なく地面に膝をついていた。

 多分、ゴブリン共に追われ、何とか逃げて来たのだろう。

 

 この世界に生きる者は、誰もが知っている。

 このままでは少女が、十中八九、助からないと。

 

 しかし!

 その少女の前に、彼女を守ろうとする黒髪の少年が居た。

 大きく両手を広げ、眼光鋭くゴブリン共を睨んで……

 少女には指一本触れさせまいと、立ちふさがっているのだ。


 これは!

 俺と……リゼットだ!

 クラリスの言う通り、俺とリゼットの『初めての出会い』を描いた絵なのだ。


 思わず俺は、リゼットを見た。


 そのリゼットは……

 目を大きく見開き、自分と俺が描かれた絵を、じっと見つめていた。

 両手で頬を押さえ、身体は小刻みに震えていた。

 彼女の心の中へ、あの日の記憶が、感動が甦ったのに違いなかった。


「あ、あああ……」


 ようやく出たリゼットの声は、全く言葉になっていない……

 そして、リゼットの声が合図になったのか、他の嫁ズも次々と言葉を発する。


「素敵! 強い王子様が危ない所へ間一髪、助けに来たって感じ!」

「凄い迫力!」

「旦那様、カッコイイ」

「リゼット、良かったね!」


 他の嫁ズのそんな声に励まされたのか、

 とんでもないサプライズを、受け止めたリゼットは、ようやく声を発する事が出来た。

 感謝の言葉を、精一杯振り絞って。


「あ、あ、ありがとうっ! クラリスっ!」


「いいえ、ごめんなさい、内緒にしていて。……気に入って貰えたかしら?」


「当然! 最高よ! 凄く嬉しいっ! 早速部屋に飾りたいっ!」


 リゼットは、親友クラリスへ、散々と言って良いくらい語ったという……

 『運命』だと信じる、俺との出会いが、こんなに素敵な絵となったのである。

 

 うん!

 俺だって、何度も聞いた。

 

 夢見心地で、俺との出会いを語るリゼットは本当に幸せそうだった。

 そんな彼女の喜びと幸せは、家族全員がこの絵で共有出来る。

 これほど……素晴らしい事はないだろう。


 と、ここでクラリスが言う。


「お約束します。今後は出来る限り早く、皆さんへ、それぞれの絵を……『奇跡の邂逅』をお届けしますね」 


 だが、嫁ズは全員首を振った。

 クラリスが相当な無理をして、短期間で絵を仕上げたのを知っているからだ。


「クラリス、そんなに急がなくても良いよ。私達いつでも構わない」

「そうよ、そう」

「凄い楽しみをくれて、ありがとう、じっくり待つから、クラリス姉」

「よっし、明日からは、もっと仕事を頑張れるわ」


 嫁ズから出た、労りの言葉がよほど嬉しかったのであろう。

 クラリスも笑顔で頷いた。

 

 でも、クラリスはこういう場合、目一杯頑張ってしまう女子である。

 オーバーワークにならないよう、俺がしっかりとケアしてやろう。


 しかし……白布をかぶせた絵はもう1枚ある。

 何か、とんでもない予感がする。

 俺の勘が、はっきりそう言っている。


 クラリスが、大きな絵に目を向ける。


「皆さん、今回はもう1枚、描いた絵をお見せします。これは……本当に特別な絵です」


「…………」


 本当に特別な絵……

 というクラリスの言葉に、嫁ズの眼差しは、より真剣となった。


「皆さんに見て頂いたら、ひと目で分かります。私達ユウキ家、家族全員の、原点とも言える絵なのですから」


 俺達、家族全員の原点?


 一体、どのような絵なのだろう?

 俺と嫁ズの注目は、大きな絵へ集中したのであった。

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