第15話「励みと希望②」

「私は魔王軍の、あまりの数の多さに息を呑んだ。すると謎の声が教えてくれた。楽に10万以上だとね」


「…………」

「…………」


 あの…… 

 管理神様。

 軍勢の数をさりげなく、教えるとか。

 丁寧なフォロー、ありがとうございます……


「しかしケン! 10万を超える強大な魔王軍に対し……君は勇敢にも、女神様や従士達と共に……たった5人で! 5人で立ち向かったんだ! ははははは、我が先祖、偉大なる英雄バートクリード様さえも、遥かにしのぐ勇気と力を持って」


「…………」

「…………」


 あれ?

 レイモン様の声が、やけに興奮している。

 何故ならば、


「私は見たんだ! 君の凄まじい戦いぶりを!」


「…………」

「…………」


「お、思わず! 鳥肌が立ったよ! あ、あれだけの大軍を相手にして! まさに! ゆ、勇者の戦いだっ!」


「…………」

「…………」


 「私は見た」って……成る程ね。

 まるで前田慶次ばりともいえる、俺、クッカ、従士達……寡兵での戦いぶりを見たんだ。

 あの戦いが映画か何かで、レイモン様が観客だったら、そりゃぁ、臨場感があって大興奮するだろう。


「結果……君は女魔王を、見事に打ち破った。私達の、この世界を救ったのだ!」


「…………」

「…………」


 あれ?

 あの戦いの時って……

 最後は管理神様の助けを借りて、上手く収めて貰ったのだけど……

 

 そこだけは、脚色されているのかな?

 と思ったが、俺は余計な口を挟まず聞く事にした。


「そしてケン、君は同時に……宿命ともいえる『想い人』との再会を果たし、永遠の愛を勝ち取った」


「…………」

「…………」


 宿命ともいえる『想い人』……

 転生したふたりのクミカとの再会、永遠の愛を勝ち取ったって……

 

 という事は少なくとも、レイモン様。

 貴方は俺の転生から始まり……

 クミカの魂が分離した、女神クッカと魔王クーガーの、人間への転生まではご存知って事だ。


 ああ、管理神様ったら、結構いろいろと教えちゃったんだ。

 でも、何故俺の出自と秘密を、ここまでさらしたのだろう?

 絶対に、特別な理由があるに違いない。


 つらつら考えていたら、レイモン様の興奮が大幅アップへ……


「ああ、勇者ケン! ケン・ユウキ! 君は素晴らしい!」


「…………」

「…………」


 うわ!

 俺、凄く賛美されてる。


 しかし誰かを上げたら、次は誰かを下げる、それがお約束。

 下げる矛先は俺ではなく、何とレイモン様自身へと向けられる。


「片や私はどうだ? ……愛する妻が死に、もう彼女とは二度と会えない。絶望に陥り、一切を諦めていた……」


「…………」

「…………」


「だけど君は! 遠い次元と遥かな時間の壁を超え、この世界へ来た。そして愛する人に再会した!」


「…………」

「…………」


「エリーゼを失った私は……確かに辛い、酷く悲しい……だが君はどうだ?」


「…………」

「…………」


「この世界には家族は勿論、君の存在を知る者さえ居ない……完全に天涯孤独だ……しかし、君はけしてくじけず、あきらめず、愛を貫く事が出来た。新たな家族も得た」


「…………」

「…………」


「私は感動した! そして君を尊敬する! 君は誠実で一途だし、いつも家族の為に身体を張って、一生懸命頑張る。私は……君の生き様を見て、どんなに心を打たれたか! どんなに励まされたか!」


「…………」

「…………」


 むむむ……

 ここまで褒めてくれるのは、凄く嬉しいけど……

 とっても……

 心が、くすぐったくなって来た。


「君の能力は凄い。そして君の歩んで来た人生も波乱万丈だ……多分、君は……創世神様に愛された特別な存在で……レアケースなのだろう……」


「…………」

「…………」


 ああ、レイモン様、済みません。

 その通りです。


 確かに俺、贔屓されています。

 貴方を導いた、管理神様始めとして、皆様に……

 仰る通り、あの凄い御方にさえも……


「だが私は、ケン! 君の存在が大きな励みとなり、希望となり、目標となった。君と同じく、簡単に挫けては、諦めてはいけないと奮い立ったのだ」


「…………」

「…………」


「謎の声は、夢が醒める直前、最後に告げた。まもなく王都にケン・ユウキが妻クラリスと共に来る、必ずふたりに会えと……ね。……これは絶対に神託だと直感したよ」


「…………」

「…………」


「ありがとう、ケン! 今日はクラリスさんと君に会えて本当に良かった! 私は生きる! 生き抜いてやる! 創世神様から与えられた、己の人生を全うするぞ! 死ぬなんて、もう二度と考えたりしない!」


 レイモン様は、気持ちが高ぶったのか、いきなり立ち上がった。

 俺とクラリスも、一緒に立ち上がる。


「そうさ! 可能性はゼロではないぞっ! この私、レイモン・ヴァレンタインだって、亡き妻に会えると信じるっ! 奇跡が起きて、愛するエリーゼにいつかは違う世界で巡り合えるやもしれないっ! 絶対に諦めないっ!」


「…………」

「…………」


 何か、凄く熱い。

 レイモン様ったら、熱く語っている。

 前向きな、力強い波動も、びんびん伝わって来るぞ。


 つい引き込まれてしまうくらい弁が立つのは、有能な政治家だから?


 でも、愛する奥様を亡くされて、悲しみのどん底へ沈んでいたレイモン様が……

 こんな俺なんかを励みにして、気持ちが強くなって立ち直ってくれれば嬉しい。

 彼が居なければ、このヴァレンタイン王国は立ち行かないのだから。


 そうさ!

 レイモン様の仰る通り、奇跡が起きて、亡くなった奥様と再会出来る事を心の底から祈ろう。


 語るレイモン様は、ますますヒートアップし、


「初志貫徹! 私は最初に立てた誓いを貫く! 懸命に生き、国民にこの身を奉げ、この国を、楽園を守る! そして君が想い人に巡り合ったように! 愛するエリーゼと、必ず再会するぞっ!」


「…………」

「…………」


「だが、もしも……エリーゼに会えなくとも……そうなったら、辛いが……何もしないで悔やむより、よほどましだ」


「…………」

「…………」


「まっすぐ、誠実に、全力で、やれる事をやり切る……それがこの、レイモン・ヴァレンタインの生き様なのだから」


 そう言うと、レイモン様は、勢いよく手を差し出した。


 わ!

 何と!

 俺達と握手しろって事。

 良いのかなあ……トップクラスの王族と気軽に握手なんかして。


 考えてみれば、レイモン様の話に対し、俺とクラリスは殆どコメントを返さず無言。

 肯定も否定もしていないが……

 沈黙は、肯定の証って事になっちゃうのか?

 

 でも、まあ良いや。

 レイモン様も、先ほどの約束はしっかり守るだろう。

 俺の秘密は他言しない……

 何せ、創世神様に誓ったのだから。


 成り行きとはいえ、俺とクラリスは……

 このやんごとなき高貴な御方と、かわるがわる固い握手をしたのであった。

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