第47話「初恋の決着」

 今迄に、何度も言っているけど……

 『楽しい時間』は、あっという間に過ぎるもの。


 俺とフィリップが、ふたりきりで話してから、月日がぐんぐん流れ……

 あと1週間で、彼がボヌール村へ来てから、まる2か月となる。

 つまり、エモシオンへ帰る日が近付いていた。


 この約2か月でフィリップは、「がらり」と変わった。

 村へ来たばかりの頃は、まだ『貴族の箱入り息子』という感が否めなかったのに。


 しかし村での暮らしを経験して……

 年齢こそ変わらないが、大人の男の面影を出しつつあった。

 『逞しい男』へ、一歩どころか、二歩、三歩を踏み出していた。


 エモシオンの城館で、使用人に一切をお世話されていた、『ひよわな少年』はもう居ない。

 フィリップはもう、自分の事は「自分で出来る」のだ。

 そして誰かの役に立つ為、立派に働ける。

 

 我が家の雑用から始まった彼の『武者修行』だが……

 そうじ、洗濯、料理など、家事全般は、こなせるようになった。


 家事の中で、フィリップが最も得意なのは料理。

 パンを焼き、スープを煮込み、サラダを盛り付けるのもOK。

 特に、大好物のスクランブルエッグなら完璧に作れる。

 

 ハーブティを淹れるのも上手い。

 エモシオンへ帰ったら、アンテナショップのカフェで、カルメンに弟子入りするとまで宣言した……


 農作業で野菜の種類と育て方を知り……家畜の世話のコツも覚えた。

 乗馬も更に上達したし、兎狩りでケルベロス&ヴェガ一家と親しみ、猟犬の世話と訓練も覚えた。

 ナイフの扱いも巧みになり、狩った獲物の解体など、問題なくこなす。

 弓だって、才能があったらしく、犬の世話共々レベッカが感心するほど上手くなった。


 フィリップの見せた、大が付く変身。


 こうなると、刺激を受けたのが我がお子様軍団である。

 今回の旅も含め、全員、著しく成長してくれたと思う。

 ポール達第二世代の子供も、やる気を見せてくれているし、来年はエモシオンへ連れて行くつもりだ。


 実は、お子様軍団の中で一番変貌したのは……長男レオであった。

 どちらかといえば、今迄マイペースだったレオ。

 だがフィリップを密かにライバル視したらしく、明らかに目の色が変わり、気を抜かず頑張るようになった。


 かといって、ふたりは喧嘩するわけでもない。

 強敵と書いて『友』と読む。

 まさに地でいっているのだ。

 

 お互いに切磋琢磨し合いながら、困ったら助け合い、成長する……

 を、絵に描いたようである。 


 新たに創った学校の授業も、フィリップへ良い影響を与えた。

 エモシオンで習得済みの読み書きは、最初からバッチリだったが……

 大空屋の店番絡みで、算数が大好きになり、社会科により王国の仕組みもいろいろ覚えた。

 また学校には、様々な年齢の子が混在していた為、年下の子の面倒も良く見てくれたのだ。

 

 そんなこんなで、また日にちが過ぎ……

 出発の3日前の夕方から夜にかけ……

 ボヌール村では恒例となった、フィリップの『送別会』が開かれた。


 当然ながら、送別会はとても盛り上がった。

 フィリップが領主の息子だからという、おしきせではない。

 村民達が心の底から、別れを惜しんで、祭りのような送別会となったのである。


 文字通り、飲めや歌えや踊れや……

 ああ、子供にはお酒じゃなくジュース。

 念の為。


 そしてフィリップは、遂に!

 初恋の相手であるタバサと踊った。


 暫しお別れという事で、タバサの方から「踊ろう」と誘ってくれたのだ。


 例の、ボヌール村楽隊の軽快な音楽に乗り、フィリップとタバサは踊る。

 ふたりとも美少年、美少女だから、凄く絵になる。


 何も知らずに見たら、幼いながらお似合いのカップルに見えるだろう。

 しかしふたりは叔父と姪の間柄。

 ヴァレンタイン王国の法律では結婚が出来ない……

 

 幸いと言うか……

 俺が見る限り、タバサにフィリップへの恋愛感情はない。


 良いのか、悪いのか……

 パパっこのタバサが好きなのは、この『俺』なのだから……

 

 踊った後に、タバサとじっくり話す事が出来て、はっきりそう言われたという。

 何かにつけて、「パパが大好き!」って。

 フィリップ、可哀そうだけど、お前は完璧に……ふられたのだ……

 

 俺とこの件で話してから、まだ『もやもや』があったみたいだけど……

 これで、『ふんぎり』がついたらしい。


「兄上、タバサちゃんと踊れたから、僕、一生の思い出になりました。これでさっぱりしました」


 と、囁いてくれた。


 こうして……

 フィリップは、俺とイザベルさんの『忠告』を受け入れて、すっぱり割り切ってくれた。

 自分の淡い初恋に、しっかりと『決着』をつける事が出来たのである。

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