第46話「道連れ②」
恐怖に震えるフィリップへ、俺は言う。
安心させるよう、優しい笑顔で。
「お前がもし、ひとり旅なら死んでいた……確かにそうかもな」
「ううう…………」
「でもフィリップ、お前はこうして無事で生きている」
「は、はい!」
「それは仲間が居たからだ。仲間とお互いに助け合って無事に旅が出来た。それに敵が襲って来た時だけじゃないぞ。お互いに経験した事を話しながら、一緒に同じ景色を見ながら、楽しく旅が出来たと思う」
怖ろしい危機を助け合って、乗り越え……
楽しく語り合い、旅を共にした仲間……
フィリップは、しっかり思い出したようだ。
「た、確かに! そうです! 兄上と、みんなが居たから大丈夫だった。凄く楽しかった」
「ありがとう! 俺もお前が居て、とても楽しかったぞ」
「わう!」
俺が礼を言ったら、フィリップは感極まって吠えた。
まるで、元気な子犬のように。
やはりフィリップには、我が子達ともまた違う、特別な愛おしさがある。
年の離れた弟って、本当に可愛いや。
「ははは、それでさっきの諺の意味だが、旅をする時に仲間が居ると楽しいし、心強い。それは人生においても一緒だという事さ」
「あ、ああ! そ、そうですねっ! 確かにそうだ! 兄上の言う通りだ」
完全に人生と旅をシンクロさせ、納得したフィリップ。
でも……本題はここからなんだ。
「うん! ここで厳しい事を言うぞ」
「厳しい事?」
「ああ、前に俺が言った事を思い出して欲しい。お前がエモシオンでパパとママと一緒に出掛けた日……お城の俺の部屋で話した事だ」
「…………」
俺が言えば、フィリップの奴、またも一生懸命記憶を手繰っている。
少し助けてやろう。
「ははは、俺も思い出しながら言おう。あの日、お前がパパとママ、3人で素晴らしい思い出を作ったと言った」
「…………」
「人間はな、基本的に年を取った者から順番に死んで行くとも言った。パパとママはお前より先にこの世を去る……二度と作れない思い出は大切な宝物なんだとな」
「あ、兄上……どういう」
「うん! 普通に行けば、パパやママ、俺はお前より先に死ぬ。お前とは一緒に人生の旅が出来なくなる」
「え?」
大好きなパパやママ、俺が先に死ぬ。
共に、人生の旅が出来なくなる。
幼いフィリップには、相当なショックだったようだ。
しかし俺は話を続ける。
「それは創世神様が人間に与えた時間、寿命というものだ。人間はいつか誰でも死ぬ。それは避けられない運命なんだ」
「し、死ぬ……う、運命……」
「だが、パパやママ、俺が居なくなっても、お前の旅はひとりじゃない。道連れはまだ、いっぱい居る」
「道連れがまだ、いっぱい? ……あ!」
「気が付いたか? そうさ! レオ、イーサン、タバサ、シャルロット。それに学校で一緒に学んだ仲間達だ」
「そう! そうですね!」
新たな道連れ……
フィリップの顔が、明るい希望に満ちて来る。
ようし、いよいよ話のクライマックスだ。
「そしてフィリップ、時が経てば、お前はいずれオベール家の主人、つまり領主になる」
「は、はい!」
「お前と俺は、領主と領民。
「…………」
「王国の中には領民に対して、奴隷のように扱う酷い領主も居るらしい」
「…………」
「だがお前には……お前のパパやバートクリード様のようになって欲しいんだ」
「ぼ、僕のパパや、バートクリード様?」
「ああ、お前のパパは平民の俺を仲間、同志として対等に扱ってくれる。素晴らしいと思う。それにバートクリード様もそうじゃないか? 円卓の騎士達は部下だが、信じあえる大事な仲間でもあった」
オベール様は俺の言う通り……
領民を尊重してくれる良い領主だ。
そして前にも言ったが……
バートクリード様とは、数千年前にこのヴァレンタイン王国を建国した、いわゆる開祖バートクリード・ヴァレンタインの事なのである。
簡単に説明すると……
王国の開祖バートクリード・ヴァレンタインは、部下である円卓の騎士達と協力し、害を為す魔物どもを蹴散らし、民を助けた英雄と伝えられていた。
しかし彼と共に戦った円卓の騎士達は、単なる部下ではない。
信じ合い
元々、この王国の子供はバートクリードの英雄譚が大好きである。
なので、フィリップはすぐ理解してくれた。
「あ、あああ……」
言葉にならない声を出すフィリップ。
俺は本音を、シンプルに伝えてやる。
「お前は俺を信じてくれている。とても嬉しいし、俺もそうだ、お前を信じている」
「は、はい! 僕も兄上を信じています! 兄上から信じて貰って凄く嬉しいですっ!」
「おう! でもお前には俺だけではなく、もっといっぱい、信じあえる仲間を増やして、人生を楽しくしっかり旅して欲しい。そう思うんだ」
「はい! 兄上! 分かりましたっ!」
今迄で一番大きな声で、フィリップは返事をした。
とびきりの笑顔を見せている。
そして勢いよく立ち上がり、俺に抱きついて来た。
さっきの「わう!」以上に感極まってしまったのだろう。
どうやら……
フィリップへ、俺の言いたい事はしっかり伝わったようだ。
更なる彼の成長も感じるし。
俺は心の底から嬉しくなり、大切な『弟』を、「きゅっ」と抱きしめていたのだった。
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