第27話「私、出来るわ!」

 立てた予定を順調に消化し……

 俺達は、ボヌール村へ帰る事になった。

 再びエモシオンへ来るのは、約1か月後となるだろう……


 今回、エモシオンには5日間滞在した。

 大体いつもと同じ日数である。


 事前確認していたので、帰りのメンツはほぼ同じ。

 行きと同じ王都へ帰る商会の、商隊一行と共に行くのだ。

 当然護衛も、前回の冒険者クランが同行する。


 両者からは、行きの戦いで俺が加勢したお礼をたっぷりして貰った。


 商会の幹部からは……

 結構な金額の礼金。

 珍しい食料と香辛料のおすそ分け。

 そしてアンテナショップ『エモシオン&ボヌール』で、大量のお買い上げ。

 クラリスの風景画も今回だけ、3割増しの価格で特別購入して貰った。


 やはり情けは人の為ならず、だ。


 片や、冒険者からもお礼をしたいという話があったが、固辞した。

 まあ、商会から、いっぱいお金等を貰ったし、もう充分。

 彼等は冒険者ギルドから報酬を貰うが、半金前払い、残りは後払いが基本。

 今は充分な現金を持っていないもの。


 なので、「貸しだよ」って冗談ぽく言ったら……

 リーダーは真剣な表情で、「借りは必ず返します」って。

 彼等はカルメンの親しい仲間らしいし、また会えるだろう。

 今後何かあった時には、しっかり助けてくれるに違いない。


 そして俺達自身の仕事も無事にクリア。

 オベール家の政務、用事は勿論、ボヌール村の用事もバッチリ……

 大空屋の仕入れと買い物。

 嫁ズは個人の買い物を存分にし、お子様軍団にも最終的には好きなおもちゃを買ってやった。

 当然留守場組の嫁ズと子供達へもしっかりおみやげを購入。

 抜かりはない。


 帰りの旅で、行きと唯一違うのは……

 オベール様の息子、フィリップが加わっている事。


 まだ心配しきりのオベール様からは、別途従士を護衛につけようと言われたが、こちらも断った。


 戦力を見れば、俺と嫁ズで充分だから。

 逆に人を出して、エモシオンの守りが弱くなってはいけないし。


 顔にこそ出さなかったが……

 城館の従士達は俺が断ってホッとしていたみたい。

 ボヌール村までお供するのは大変だから。


 でも唯一、カルメンだけは一緒に行きたそうだった。

 未知のボヌール村へ行き、暮らしてみたい。

 俺の子供達と触れ合いたい。

 仲良くなったクーガーと更に親交を深めたい……

 そんな波動が感じられた。


 でも、カルメンが居れば、城館&エモシオンの守備は万全。

 いわゆる『かなめ』なので、


「お前が居るから、エモシオンは安心だ」と言ったら、やっと納得してくれた。


 というわけで、俺達は商隊と共に、エモシオンを出発したのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 馬車は北へ向かう街道をゆっくりと走っている。

 牽引するのは、俺の従士ベイヤール。

 5日間、リフレッシュして元気いっぱいだ。


 御者は希望が出たので、レベッカにやって貰ってる。


 天気は快晴。

 爽やかな風が吹き、絶好の旅行日和である。


「わぁ! 凄いなぁ!」


 フィリップの反応は行きのタバサ達と同じ。

 生まれて初めて旅に出た、喜びに満ち溢れていた。


「エモシオン近郊の風景なんて、散々見ているだろうに」……と言ったら、

「旅に出る馬車からだと、全然違う」と返された。


 フィリップが嬉しそうに指さす。


「兄上! もうエモシオンがあんなに小さくなった!」


「そうだな、あと約6時間でボヌール村へ着く。少し寝ても構わないぞ」


「いえ、勿体ない。起きて見ています」


「おお、そうか」


 という会話をする傍ら……


 タバサ達は少し余裕が出たらしく、落ち着いていた。

 行きと違い、はしゃいだりしていない。

 というか、少し不安げだ。

 やはりあの戦いの記憶が残っているのだろう。


 でも偉いのは、男子チーム。

 レオとイーサンが歯を食いしばって、辺りを見回している。

 タバサ達同様、記憶は残っているらしいが……

 凄く怖いのを我慢して、必死に女性陣を守ろうとしているみたい。

 

 そんなレオ達を見て、フィリップは不思議そうだ。


「どうしたの? そんなにキョロキョロして」


「フィリップ……様。パパから聞いたよな、俺達が来た時の戦い」

「そうそう、フィリップ様、凄かったんだよ」


 レオがぎこちなく『様』を付けて尋ね、イーサンは兄に同意して、戦いの模様を語った。


 するとフィリップは、


「ねぇ、レオ、イーサン、それにみんな。またエモシオンへ帰るまで、フィリップって呼んでくれない?」


「え?」

「それは?」

「どうしよう?」

「う~ん」


 フィリップからのお願いを聞き、お子様軍団は首を捻り、困ってしまった。


 今回の旅では、オベール家と仲良くなるだけでなく、俺達は領民だと子供達へ教えていた。

 オベール様一家へは敬いの気持ちをもって、接するようにと教えたのだ。

 補足説明もした。

 俺がフィリップを呼び捨てにしているのは、義理の弟であり、オベール様に特別な許可を貰っているからと説明していた。

 使い分けをしているとも。


 その証拠に最初の挨拶の際も、フィリップには『様』をつけている。

 子供達の中では、タバサが最初に理解して、徹底してくれたようだ。

 2日目のエモシオン見学の際も、『様』はしっかり付けて呼ばれていたから。


 でもフィリップ自身は、どうやら『様』付けが窮屈だったらしい。

 それでこんなお願いをして来たのだ。


「パパ、どうしよう?」


 子供達のリーダー役、タバサが判断に困り、代表して俺へ尋ねて来た。

 ではと、俺は提案してやった。


「よし、じゃあ難しいけど、パパみたいに使い分けしてみようか?」


「使い分け?」


「ああ、俺達家族の中だけなら、フィリップと呼んで、それ以外はフィリップ様だ」


「…………」


 俺が指示をすると、タバサは無言で考え込んでいた。

 可愛いな。

 頑張って、使い分けの『意味』を理解しようとしているんだ。


 暫し経ってから、俺は問う。

 タバサは、笑顔を見せていたから。


「出来るか?」


「出来るわ!」


 さすが、タバサだ。

 俺の告げた意味を理解し、実行可能と元気よく返してくれたのである。

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