第23話「お子様軍団の社会科見学④」

 アンテナショップカフェでの美味しくも、楽しいランチが終わり……

 再び、お子様軍団の『社会科見学』が始まった。


 午後は、個人商店を回る予定となっている。

 いろいろな業種の店を見せたいと思う。


 生きて行く上で必要なものを作る店。

 ボヌール村にはない、面白そうな店。

 子供達が興味を持ってくれそうな店等々……


 歩く俺の両手には、相変わらず可愛い花が咲いていた。

 

 そう、愛娘の、タバサとシャルロットだ。

 ふたりとも、出発と決まったら……

 子供同士の楽しい話をさっさと終わらせ、俺の下へ一目散に来た。

 たたたたたっ、って走って可愛い子犬みたいに。


 こうして、父と娘の『楽しいデート』は再開されたのである。


 目的地の商店街は、午前見たエモシオン市場の傍にある。

 様々な個人商店が軒を連ねていて、当然、ボヌール村にはない店ばかり。

 というか村には万屋の大空屋一軒しかないから、当たり前なんだけどね。


 到着した俺は、まずお店の軒先を注目するよう、子供達へ告げた。

 そして一軒目のある場所を指さした。


 そこには、金属製の看板が取り付けられている。

 ひと目ですぐ分かる形状だ。

 子供達へ、注目するよう言った理由がこれ。

 各商店の軒先にある看板。

 その店が、何の商売をしているか、一目瞭然だから。 


 すかさずシャルロットが聞いて来る。

 イーサン同様、商人志望だからチェックが早い。


「パパ、あれって靴?」


「うん、当たり、靴だ。あのお店は大空屋と違い、靴だけを作って売るお店さ。だからああいう看板を出す。作るだけではなく買った靴の修理もしてくれるけどね」


「へ~~」


 すると今度は、妹に負けじとタバサが、


「パパ、あれって洋服屋さんなの?」


「だな! 仕立て屋さんといって、注文を受けてから服を作る店だ」


 タバサが指さした仕立て屋は、はさみの形をした看板を出していた。


 そもそも地球の中世西洋同様、この世界の服は基本、オーダーメイドである。

 結構な高級品という位置付けだ。

 俺達みたいなつつましい庶民は、市場等で中古品を買って着る事が多い。


 仕立て屋……この町で、タバサが一番見たい店。

 なので、彼女はもう、舞い上がってしまう。


「パ、パパっ、行こうっ! お店見に! ママも呼んで! 一緒に!」


「はは! 分かった」


 俺は大興奮のタバサに微笑む。

 そして、反対側の手を繋ぐシャルロットに尋ねる。


「シャルロットも、タバサお姉ちゃんと一緒に、お洋服を見に行くか?」


「うん! パパ、私もお洋服を見る」


 俺は傍らに居た、クッカとミシェルにも目で合図。

 親子5人で、仕立て屋の店内へ足を踏み入れたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 仕立て屋の店内と職人は、タバサとシャルロットへ新鮮な感動を与えてくれたようだ。


 清潔な店内には、子供達が見た事もないお洒落な服を着た、数体のトルソが置かれていた。

 物腰の柔らかい洗練された雰囲気を持つ、初老の男性職人が笑顔で迎えてくれる。


 そんな職人が黙々と使う匠の技は素晴らしかった。

 作品も、タバサの師匠であるクラリスとは、色遣いもデザインの方向性も全く違うから。


 仕立て屋を出て、堪能したと思えば違った。

 タバサは、せがむ。


「ねぇ、パパ。もっともっと! いろいろなお店を見て回ろうよ」


 すると、姉に負けじとシャルロットも俺の手を、ぐいっと引っ張る。


「うん、私も! もっと他のお店見たい」


 他の子達は?

 と、周囲を見れば、各自嫁ズに付き添って、様々な店の説明を受けていた。

 それぞれに護衛がついていたから、一応安心である


 さてさて、仕立て屋を見て、勢いが付いた俺達は、どんどん商店を回って行く。

 最初に看板だけ見た靴屋、続いて、石屋、鍛冶屋、染物屋、金銀細工屋等々……


 そして宿屋や飲食店も見る。

 店が行う業務だけでなく、いろいろなデザインの建物と看板も、お子様軍団には新鮮だったようだ。


 1個連隊総勢20人が商店街を行く。

 領主一家が混ざっている事もあって、人だかりが出来る。


 どうやら午前中の視察で、町中の話題になっていたらしい。

 こんな時には、不埒者の乱入等、アクシデントには充分注意しなければならない。

 ちなみに俺、クッカ、クーガーはずっと索敵魔法をフル稼働させていた。


 そんなこんなで……

 予定とされた夕方の4時まで、視察と言う名の『社会科見学』は続いたが……

幸い、何事もなく無事終了する事が出来た。


 今回の旅行に関して、これでほぼ、お子様軍団への『教育』は終わった。

 いろいろあったが、とりあえず成功だと言って良いだろう。


 明日は残った仕事。

 つまり大空屋の仕入れと、家族へのおみやげを購入をするつもりだ。

 今日の見学により、俺も嫁ズも、そして子供達もばっちり下見をしたから、明日の『本番』で迷う事はない。


 ひとつだけ気になったのは、フィリップが少し浮かない顔をしていた事。

 相変わらず午前同様、大好きなパパとママ、3人で手を繋いでいたのに。


 う~ん、例の件かな?

 まあ良い。

 とりあえず事故のない、無事な帰還が第一優先だ。


 俺達は護衛と共に、また来た道を通り、街中経由で城館へと戻って行く。

 そして、何事もなく到着。

 中へ入り、大広間で、一旦解散となった時……


 まだ手を握って離れないタバサとシャルロットへ、暫し待つように言い、俺はフィリップの下へ行った。

 もう城館内だし、多忙の為、オベール様夫婦は息子から離れていた。

 逆に、こういう時は好都合だ。


 俺は手を挙げて、可愛い弟の名を呼ぶ。


「おい、フィリップ」


「あ、兄上!」


「おう! 元気がないようだけど、どうした?」


「…………」


 俺が尋ねても、フィリップは切なそうな表情で返事をしなかった。

 こういう時は、この場で聞かない方が良い。


「夕食の後、俺の執務室へ来い。美味いお菓子がある」


「…………」


 フィリップはやはり返事をせず、無言ではあったが、「こくり」と頷いたのであった。

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