第15話「すごくすごく楽しかった!」

 この日の夜……

 オベール様とイザベルさんが、城館で歓迎の夕食会を開いてくれた。

 

 俺達ユウキ家と、ジョエルさん、フロランスさんの元ボヌール村長夫婦も参加、大いに盛り上がる。

 

 このふたり、もうすっかりエモシオン暮らしに慣れたみたい。

 田舎の小さい町とはいえ……ボヌール村とは全く違う刺激的な暮らしと充実した仕事。

 たまに村が恋しくなれば、同郷のイザベルさんとの息抜きともいえる会話。

 孫代わりともいえる、フィリップとのふれあい。

 両名とも、まだ50歳過ぎと若いのに、早すぎる老後?を仲良く楽しんでいる。

 

 今回、愛娘リゼットと孫娘フラヴィが不参加なのを、とても残念がっていたが……

 

 第一世代の子供と親だけが参加という『縛り』と、村長代理のリゼットには、俺が不在の村を仕切って貰うと言ったらすぐ納得してくれた。

 

 ちなみに副村長のガストンさんが居るが、名誉職みたいなもの。

 この逞しい義理父は、常々門番が天職だと公言しているから。

 なので村の運営に関して、時折アドバイスはして貰うが、実務を取り仕切るのはリゼットなのだ。


 閑話休題。

 

 食事をしながら、ミシェル達ショップ打合せ参加メンバーへ、さりげなく聞いてみれば……


 俺とオベール様の打合せが上手く行ったのと同様に……

 嫁ズとイザベルさんとのアンテナショップ『エモシオン&ボヌール』の打合せもバッチリだったようだ。

 その打合せの話へ、昼間は店で仕事をしていたジョエルさん達も加わり、新たな意見もたくさん出された。

 

 結果、新しい企画、新しい商品の導入計画が、改めてすり合わせされる。

 実行するにあたり、予算と資材、そして人手を考えなければいけない。

 だが、上手く行けばまた店の売り上げがアップ。

 つれてエモシオンとボヌール村の知名度も、間違いなく上がるから、とてもやりがいがある。

 

 またクラリスが描いた絵の、『お買い上げ』した人の話にもなった。

 商隊が秘す、王都の謎めいた購入者とは?

 その『高貴な御方』が一体誰だという、『正体探し』の話で結構盛り上がったのだ。


 そして今回発令した『親交作戦』の成功で、最も嬉しかったのが……

 我がお子様軍団とフィリップが、完全に打ち解けてくれた事である。


 クッカへ、「どう?」って念話で聞いたら、バッチリだと、Vサインで返される。

 その証拠に、フィリップは変貌が著しかった。

 当然、良い意味でね。


 フィリップが笑顔いっぱいなのは、無理もない。

 今迄は殆ど年上の相手としか接して来なかったから。

 可哀そうに、普段はひとり遊びも多いと聞く。

 

 それがいきなり同世代の子供が4人来て、一緒に遊んだ。

 加えて身内と来たら、気を遣う必要がない。

 俺の子供達とは、すぐ意気投合したのだ。


 詳しくクッカに聞けば……

 暫し部屋で遊んでから、城館内の中庭へ出て、みんなで例の『昔遊び』をい~っぱいしたらしい。

 広い中庭を目一杯に使って。


 俺が教えたから、既にフィリップが知っている遊びもあったけれど、改めてクッカの指導で……

 じゃんけん及びあっちむいてホイに始まり……

 お馴染みのケイドロ、だるまさんがころんだ等々を、子供達全員で楽しんだという……


 また、ボヌール村の暮らしぶりも、俺の子供達からいろいろ聞いたようだ。

 城館暮らしとは全然違う、野性味あふれた暮らしを。

 こうなると、はっちゃけないのが、逆におかしいくらいだろう。


 結果……

 フィリップは大きな声で良く喋り、笑顔が絶えないようになった。

 最初に見せた、緊張&引っ込み思案が嘘のように……


 普段はオベール様とイザベルさんを、パパ、ママと呼ぶフィリップだが……

 夕食会は一応公式の席だから、両親の呼び方は父上、母上と、イザベルさんから躾られたらしい。


「父上、母上、聞いて! 聞いて! 僕ね、みんなと遊んで、すごくすごく楽しかったよ!」


「おお! そうか! フィリップ、良かったな」


「うふふ、みんなと、どんどん仲良くなってね」


 当然ながら……

 昼間の楽し過ぎる経験を、可愛い愛息から、たくさん聞いたオベール様夫婦もご機嫌。

 フィリップへ笑顔を向けた後……

 俺と嫁ズへも、感謝の気持ちを何度も告げてくれた。


 一方、我がお子様軍団は村では食べた事のないご馳走に舌鼓。

 でも、興奮し過ぎず、お行儀良く、決められた席へきちんと座って食べている。

 俺が前世で見た『痛い子』のように、はしゃぎすぎ、とんでもない大声では話さなかった。

 やたらと席を外して、走り回ったりもしない。


 そう、御存じ軍団の『司令塔』タバサが、暴走しそうな弟や妹を上手くコントロールしてくれたのである。


 幸い、この異世界は食事のマナーが厳格ではない。

 例えば、使うナイフの順番とか形式的な縛りはない。

 また「静かに!」と無言を強いて、沈黙して食べろと意見する輩も居ない。

  

 なので、子供達も気軽に楽しく、美味しい食事を楽しむ事が出来たのであった。

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