第4話「貫いた忠義①」

 ステファニーを王都で救出した件、そして俺が異世界から転生して来た件は、一部を除きアンリへ伝えた。

 彼の妻となるエマにも、上手く伝えるよう、アンリには託してある。

 勿論、他言無用、厳秘を徹底するよう念を押してある。


 アンリ夫婦とは、これからボヌール村で暮らす仲間なのは勿論、『弟』として、家族同然の付き合いをする事となる。

 だから、我が嫁ズと同じレベルで情報共有をする事にしたのだ。

 今後、いろいろとやり易くする為に……


 前にも言ったけれど……

 俺の件はともかく、ステファニーの件は言うか言わざるか悩んだ。

 アンリには話したが、オベール家古参の家臣達へ、真実を話すかどうかで……


 ステファニーは生きていて、ボヌール村で幸せに暮らしているって……

 もしも話をする事が出来たら、彼等彼女達はどんなに喜ぶかと思いながら……


 表向き、ステファニーが行方不明になってから、もう7年以上の月日が経っている。

 もう、ほとぼりは冷めたかなと思っていたから。

 

 それに発見された理由&経緯は、上手く辻褄を考えれば良い。

 魔法で姿を変えられたステファニーが、ボヌール村にたどり着き、俺と結婚して幸せに暮らしていたって……


 でも……

 何故か、俺の勘が訴えるんだ。

 まだ早い。

 もう少し待てって……


 こんな時俺は、素直に自分の勘に従う。

 多分、管理神様が授けてくれた、危険回避の本能的警告だろうから。


 なので、まずアンリとエマ、そして今回はあと、たった3人にだけ伝える事に決めた。

 アンリに話した次の日って、結局徹夜したから同じ今日なんだが……

 俺は書斎で政務を行いながら、3人の従士を呼んだのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「宰相、アベルです」

「アレクシです」

「アンセルムです、入ります」


 扉の向こうから、ノックをして、声を掛けて来たのは……

 アベル以下オベール家の従士3兄弟。

 そう、約7年前……

 俺が初めてエモシオンでステファニーに会った時、付き従っていた3兄弟なのである。

 ※ど新人女神編第62話参照


 改めて説明すると、彼等、姓はデュプレという。

 当時は若々しい青年だった彼等も、7年の月日が経ち……

 現在長男アベルが32歳、次男アレクシが30歳、3男アンセルムが28歳の渋い大人の男となっていた。

 

 皆、戦士タイプの従士で武官。

 各自に、得意な武器がある。

 ちなみに、全員が独身だ。


 デュプレ3兄弟の母親は、元々オベール様に仕えた侍女なのだが、同じ城館の使用人と結婚し3人を産んだ。

 しかし父親が間もなく死に、母親も少し経って流行り病で死んだのである。


 孤児となった彼等を不憫に思ったのが、ステファニーの亡き母であるオベール様の最初の奥様。

 彼女は幼い3人を、まるで実の子のように可愛がって育てたという。


 やがて、ステファニーが生まれ、4人は兄妹のように育って行く。

 そして美しく成長したステファニーに対し、3兄弟は彼女の従士として忠誠を誓い、一生仕える事に決めたそうだ。


 だが可愛がってくれたステファニーの母が亡くなり、グレースことヴァネッサが新たな妻として来た。

 多感な少女だったステファニーは……

 どうしてもヴァネッサを、新たな母として受け入れられなかった。

 結果、ふたりは対立した。


 ヴァネッサが、自分に懐かないステファニーを押さえる為……

 城館の従士達を、あの手この手で取り込んだ時も、デュプレ3兄弟だけは絶対に裏切らなかった……


 しかし、またも新たな試練が襲った……

 貴族のしがらみ故、オベール様がステファニーを、寄り親のドラポール伯爵家へ『人身御供』として差し出す事となったのだ。

 オベール家内ならいざしらず、主家の寄り親の命令では、さすがに3兄弟でも反逆するなど出来なかった。


 自分達の力が及ばないと分かり、3兄弟は嘆き悲しんだに違いない。

 当然ステファニーと話し、彼女のたどる悲惨な運命を知っていた筈だから。

 泣く泣く、王都へ旅立つステファニーを見送っただろう。


 まあ、3兄弟だって馬鹿じゃない。

 ステファニーを連れて、どこかへ逃げるなど、無茶をすれば主家に迷惑が掛かる。

 絶対に、オベール様が厳しい罰を受ける……

 その為、何も出来なかったという忸怩たる思いが……

 彼等の、心の奥深くに沈んでいる。


 更に……

 無事に暮らして欲しいと、願っていたステファニーは……

 あろうことか、王都で行方不明となった……

 怖ろしい魔族がさらったなんて、とんでもない噂を聞き、3兄弟は絶望に近い気持ちに陥ったのは想像に難くない。


 でも3兄弟は、ステファニーが居なくなっても出奔などせず……

 ずっとオベール家へ、忠実に仕えている。

 表向きはオベール様からの、

「たとえ娘の為でも、あてもない無茶な捜索をしない」

 という命令に従った形らしい。


 オベール様が、そんな命令を出したのは理由わけがあった。

 居場所こそ知らされなかったが……

 俺がかくまったステファニーからの手紙を受け取り、愛娘の無事を知っていたからだ。

 だが3兄弟は何も知らず、ずっと辛さに耐えて来た。


 そして、約7年の月日が流れ……

 今、俺は、アベル、アレクシ、アンセルムの3兄弟が受けた長年の苦しみを、少しでも和らげるべく準備をし、彼等3人を書斎へ呼んだのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る