第3話「カミングアウト③」

 結局……

 

 俺とアンリは、ず~っと話し込んでしまった。

 日付けが変わるどころじゃなく、太陽が昇る直前まで……

 気が付いたら、もう一番鶏が鳴いていた。


 ステファニー救出の話を聞き、アンリは大感激。

 最初の念話にこそ驚いたものの、俺のレベル99の力を、比較的冷静に受け止めてくれた。

 更に、「何故、私へ秘密を話すのか?」と真剣な顔して聞いて来たので、「お前は『弟』だからだよ」と言ったら……

 ぐっと歯を噛み締めると、アンリは思いっきり、男泣きしてしまった。


 俺は、ぶっちゃけたついでに、ここでアンリの意思を確かめる。

 「本当に、ボヌール村へ移住で良いのか?」と。

 何故ならば、城館勤め、アンテナショップのスタッフと、アンリの今の生活は順調。

 仕事も、人間関係も。

 オベール家とエモシオンに対し、さして不満はない筈だから。

 奥さんとなる、エマの意思もあるし。


 例えれば、今まさにアンリとエマは、人生最大の分岐点に立ったと言えるだろう。


 でも……

 『私とエマの考えは変わりません! 早くボヌール村へ行きたい!』

 と、きっぱり言われて、俺まで感動して泣いてしまった。

 何だか益々、オベロン様と飲んだ時に似て来たみたい。


 双方泣いた俺とアンリが、互いに落ち着いてから、また話し出す。


 改めてアンリへ聞けば……

 

 これまでの俺を見ていて、「絶対に凄い『力』を隠していると、思っていた」

 そう言う……


 エモシオンで初めて会った時……

 いきなり走り出して、エマを暴漢共から助けた事により、始まったその思いは……

 先日の祭りの際に起こった、例のフェルナン・モラクスの暴走も、あっさり収めてしまったから尚更だったらしい。


 結局……俺はアンリへ、

 前世で死んで転生し、この世界へ来たというところから、クミカとの悲恋、魔王クーガーとの戦いの結末までを話した。

 アンリが以前、出自を話し、自分をさらけ出してくれたから、俺も話すって……

 

 残念ながら管理神様との取り決めで、全てを話す事は出来ないから、所々割愛&脚色はしたけれど……


 するとアンリは、クミカの人生の儚さを悲しみ、また泣いてくれた。

 あの夜の、オベロン様のように……

 そして俺の人生の、凄く目まぐるしい展開に驚き、

 

『ケン様、では貴方は死んでたったひとり、神様によって、この世界へ送られたのですね』


 と聞いて来たので、俺も答える。


『そうだな、この世界には親も友達も、知り合いさえ居ない……』


『成る程……私以上に、ケン様は天涯孤独だったのですか……』


『まあ、そういう事だ。でもクッカがついていてくれたし、来てすぐに、リゼットとは運命のめぐり逢いをしたから、別に寂しくはなかった』


 うん、これは本音。

 一番最初は、原野にたったひとりで放り出され、わけもわからずどうなるかと思ったが……

 

 でもクッカが助けてくれ、逆に俺がリゼットを助け、ボヌール村へたどり着き……温かく迎えて貰い、暮らしていけた。

 管理神様の判断と言うか、クミカとの運命と言うか……

 送って貰ったのが、ボヌール村で本当に良かった……と思う。

 

 アンリは、しみじみ言う。


『そうですか……女神様と協力して魔王の率いる大軍と戦い、勝った。実はその女神様と魔王が初恋の人の生まれ変わりで、最後はお互いの想いを叶えて、夫婦になった、なんて……本当に波乱万丈ですね』


 波乱万丈か……

 確かにそうだ。


 俺は肯定し、頷く。


『まあな……身に余る力を貰ったのと、周りに助けて貰って、何とかここまで来たよ』


『何かケン様……謙遜しますね』


『いやいや、謙遜じゃない。俺ひとりじゃとてもとても! それにお前だって俺を大いに助けてくれたひとりだから』


 お前の存在も大きいと、俺が言えば、手を左右に振り、恐縮するアンリ。


『そんな! 私なんて!』


『はは、お前こそ謙遜してる。自信を持て、アンリ。俺はアンリから、たくさん力を貰ってる』


『あ、ありがとうございますっ! そう仰って頂くと嬉しいですね。でもケン様は本当に無欲です。それほどの力があれば、この国の王様にも簡単になれますよ』


『王様? 俺が? 馬鹿言え。良く見ろよ、俺だぞ?』


 俺はアンリへ、「ぐいっ!」と顔を突き出した。

 もしかしたら、少し『変顔』になっていたかもしれない。

 アンリが、思いっきり噴き出したから。


『うぷ! ご、ごめんなさい! で、ですね……欲がないケン様に、王様なんて似合いません。私達の……頼もしいふるさと勇者なんですから』


『おう! これからも頼むぜ、弟!』


『はい! 兄上!』


 最後に、オベール様の前妻だったグレースことヴァネッサの話も、アンリをとても驚愕させた。

 ソフィとグレースが、大の仲良しなのを知っているから、驚きに拍車がかかった。

 そして、『やっぱりケン様は勇者だ』と大きく頷いたのである。

 

 でも……そう言われると、凄く、くすぐったい。


 ところで、最近俺が教えて、アンリと城館でやっている『儀式』がある。

 物事が、上手く運んだ時に行う事となっている。

 拳と拳を軽くぶつけ合う、フィスト バンプと呼ばれる行為である。


 話が終わり……

 俺とアンリはこれまででも、一番会心ともいえる、フィストバンプを交わしていたのである。

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