第11話「村に必要なモノは……」

 というわけで……

 その後、家族会議も仕切り直しされ、残りの議題もまとまった。


 衣食住のうち、残った『住』に関しては……

 やはり家、家具などを製作、修理出来る「プロの大工スキルを持つ人が必要」という声が多かった。

 そもそも、ボヌール村の村民はそれらを大抵自分で修理している。

 見栄え抜きで実用第一の応急的なものだから、

 「ちゃんとした大工さんが居れば良いな」って事になったみたい。


 また、住居の基礎や村の外壁を作る石を加工出来る、「石工スキルを持つ人が、村に居れば好ましい」という話になった。

 あとは、水回りを整えられる人が居れば尚、可。


 今迄の事って、地の魔法を自在に使ったり、様々なスキルを覚えられる俺が、やれない事もないけれど……

 相変わらず超が付く多忙っぷりだし、そんなオールマイティさを発揮すると、あまりにも目立ち過ぎてしまう。


 最近は、ボヌール村へ来る商隊の数も著しく増えた。

 お陰で、噂が入って来て、王国のいろいろな様子がうかがえる。

 

 だけどそれって、もろ刃の剣。

 他の場所の噂が入るって事は、ボヌール村の噂もまた他所へ伝わるって事。

 ボヌール村の、素敵な評判が広がるのは構わないけれど……

 俺の変な評判は勘弁。

 

 ただでさえ、最近の俺は目立つ立場だもの。

 村長どころか、オベール家に宰相として仕えているから。

 家族、子持ちとなった今、『栄えある勇者の王都招集』はさすがにお断りしたい……


 覚えたい鍛冶に関しても、やり過ぎて『名工』になったらヤバイので、ほどほどにしようと考えている。

 スキルをフルに使っての、超が付く『名刀』量産はまずいのだ。

 レベッカとの合作ナイフは、公に売る商品だからね。

 他人に変身し、ドワーフの村へこっそり売ってる魔物の皮とは、事情が全然違う。


 その他に関しては……

 まずは、命にかかわる医療。

 こちらは現在、俺とクッカが目立たないようにやっている。

 更にサキにも回復魔法の素養が見つかったので、活躍して貰う事にした。


 今回、もしも回復魔法を使える人が居れば大歓迎。

 あるいは、ハーブの知識を持つ人も大歓迎。

 即効性はなくても、体質改善にハーブは役立つと思うから。


 え?

 お医者さんが居ればなお良いって?

 う~ん、微妙。

 確かに正しい知識を持つ凄腕のお医者さんが居たら、素晴らしいとは思う。

 だけど多分無理……


 何故ならば、この異世界の医学、すなわち魔法を一切使わない医療行為は、かつての地球の中世西洋くらい遅れてるから。

 リゼットへ聞いたら、俺の持つ中二病知識とぴたり合致したから、ほぼ同じレベルなのだろう。


 魔法が存在する世界だから、けして怪しいとは言い切れないけど……

 占星術で、病状を判断するだけだったり……

 呪術で祈りを捧げ、トンデモな施術をしたり……

 単にワインなどの酒で傷口を殺菌するだけとか、火で患部を焼くとかもあった。


 挙句の果てには、痛がる患者の悲鳴が漏れないよう、大きな音を立てて誤魔化すとか……

 「一体、何なんだよ?」とドン引きしたのである。

 いかに、前世で受けていた医療が素晴らしいと実感した次第だ。


 娯楽に関しては、意見が全員一致。

 エモシオンには必要かもしれないけど、ボヌール村では現状、専任の人は不要だって事になった。

 まあ、完全な趣味でやるのなら、全く問題はないけれど。


 そもそもこの異世界で、娯楽を生業とする人は、主に吟遊詩人や大道芸人である。


 だが、専業の人は村には合わない。

 前にも言ったけど、商売として成り立たない。

 ボヌール村の住民はたった100人超だし、高いギャラなど払えない。

 

 確かに、結婚式などで、たま~に頼むくらいの需要はある。

 だけど、お祝いは村民だけでも出来る。

 

 遊びなら、俺とクーガーが教えた昔遊びや紙芝居で事足りている。

 サキも加わったから、バリエーションも増えそうだ。


 他の娯楽も不要である。

 文化や教養は確かに必要。

 だけどもっと欲しければ、エモシオンや王都で探し、臨時で頼んだり、購入すれば良い。

 例えば本好きな俺でも、大空屋で小説の品ぞろえを少し良くするくらいでOKなのだ。

 敢えていえば……

 住と兼用で、木を加工した可愛いおもちゃが作れる職人さんが居れば楽しいが……

 残念ながら、専業で店を開き、食っていけるとは思えない。

 

 さてさて、他にもいろいろ意見は出たから、全て紙に書いて控えておく。

 これらを、オベール家側の要望とすり合わせて、調整する。


 だけど今迄話をしたのは、あくまで要望、理想、机上の空論。


 最終的には、実際に応募して来た人を、見て、話して判断するしかない。

 という事で、2週間が経ち、またも俺と嫁ズはエモシオンへ旅立ったのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る