第10話「気配りは愛」

 レベッカとクーガーの『行き違い』はすぐに解決した。


 朝に、レベッカと約束した通り……

 俺を入れた3人で、朝食後からすぐに出かけ、広大な草原で思う存分狩りをした。


 騎馬で競争したり、獲物を追って自ら走り回ったりしたら、ふたりだけじゃなく俺も「スッ」とした。

 

 その後、周囲の安全を確認し、3人で草原に寝っ転がり……

 雲ひとつない晴天の下、レベッカとクーガーは本音を思いっきりぶつけ合った。

 ちなみに俺は会話に参加せず、オブザーバー役として、黙って聞いていた……


 話は、凄く弾んでいた。

 誤解から生じた、今回の行き違いの原因は、お互いの絆が深いから。


 両名は、とても似た姉御タイプで、竹を割ったような性格。

 元々、悪意はない。

 だから、大きな声で笑い合って、すぐに仲直りしたのである。

 勿論、レベッカが即、クーガーへハーブ料理を教える事となった。


 ただ俺は、少しだけ気になった。

 レベッカが、今回の人選をした理由を。

 つまり、クーガーとクラリスを選ばなかった意味だ。

 

 すると……レベッカは笑顔で教えてくれた。

 クーガーに関しては既に分かっていたから、声をかけなかったクラリスの『理由』である。

 

 まあ、クラリスに声を掛けなかったのは、俺も何となく予想は出来た。

 

 農作業に加え、村の服作り、アンテナショップの服や絵もやっていて「超が付くほど多忙」だったから。

 

 レベッカに聞けば……やはり、『その通り』だった。

 なので、今回は声をかけなかったらしい。

  

 そして、レベッカは、クーガー同様、クラリスにも、しっかり謝るって。

 「全部、料理の発案者である自分の責任、隠して御免。事前に相談すれば良かった」って言い張って。


 ちなみに、多忙という同じ理由で、『新村長代理』となったリゼットにも、声を掛けるかどうか迷ったそうだ。

 だけど、お題が『ハーブ料理』であれば、「絶対にスルーは出来ない!」と考え、一応相談したらしい。

 案の定リゼットは、「どんなに忙しくても協力したい」と即座に返したそうだ。

 

 偉いぞ、レベッカ。

 お前は、自身の人生に前向きなだけじゃない。

 とても細やかな気配りが出来る、『大人の女』になった。


 だから、俺もフォローしなくちゃ。

 レベッカと一緒に、クラリスへ謝る。

 俺と一緒に王都旅行へ行ったのが、きっかけだって。

 こういう細やかな気配りが、大家族を上手くやっていくコツだと思う。


 村へ帰ってすぐ、そんな感じで、クラリスに謝ったら……

 笑顔で、了解してくれてひと安心。

 案の定、「私も新料理を習うわ」って宣言されたのは納得。

 

 やっぱりクラリスも、自分だけ『特別扱い』は嫌で、皆と一緒に頑張って行きたいんだろうと思う。

 

 でも、無理させるのは禁物だ。

 ウチの嫁ズは全員が頑張り屋さん。

 オーバーワークになる危険がいっぱい。

 だから俺が、嫁ズ各自の体調には注意してやらなきゃいけない……


 そういえば……

 前世で、良く見かけたけれど……

 他人に対して気配りが全く出来なかったり、自分が悪い癖に謝れない人って意外に多い。


 母の父、つまり祖父と一緒に、車に乗っていた時なんか、特にそう思った。

 「俺がこの世界で一番偉くて、上手く運転している。だからどけ!」って、勘違い野郎との遭遇がいかに多かったか……

 狭い道で、祖父が「お先にどうぞ」って譲っても、「そんなの全然当たり前だ!」って感じで、視線も合わさず猛スピードで走り去るみたいな、糞が付く馬鹿……


 片や、気配りが出来る人は、笑顔で会釈してくれたり、軽くお礼のクラクションを鳴らしてくれた。

 それだけで、どんなに心が温かくなったか……

 

 その時、凄く嬉しくなった記憶は、大人になった今でもまだ鮮明にある。

 逆に勘違い野郎には、「お前みたいな最低な奴はバチが当たれ」って、子供らしい正義感を発揮、心の中で叫んでいたっけ。


 うん、気配りは愛だ。

 そんなに、大仰なものは要らない。

 さりげない自然な気配りをするだけで、人間ってお互いに凄く上手く行くと思う。


 その為には、日々感謝の気持ちは欠かせない。

 ボヌール村みたいな、家族は勿論、村民が全員で助け合って暮らしている環境なら尚更だ。


 俺は、気軽に「ありがとう!」って言う事にした。

 そして……

 拳と拳を軽くぶつけ合う、フィストバンプって奴をやる事にしたんだ。

 そしてハイタッチも……

 何かをして貰ったら、感謝の気持ちを籠めて……

 両方とも、お互いに喜び合うって雰囲気も良い。

 

 結論から言うと、フィストバンプとハイタッチは大受けして、村に定着した。

 

 最初は、単に面白がっていた村民達も……

 自然に、さりげなくやるようになったからであった。

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