第12話「お祭りにしちゃえ!」

 『就職説明会』を行い、人材募集の段取りを相談する会議は……

 オベール家の城館において、無事に開始された。

 先般のメンバーと、更にソフィとサキが加わっている。


 このふたりが参加した理由は、到ってシンプル。

 愛娘のソフィを連れていけば、オベール様が喜ぶ。

 最近はグレース&ベルの世話にかかりっきりで、暫く実家へ顔を出していなかったから。


 俺の『特別な魔法』を使い、ソフィとオベール様は、例の『夢』では頻繁に会ってはいたけれど、やはり実際に会うのとでは全く違う。

 

 ちなみに……

 公式的に、『ステファニー』は、相変わらず『行方不明になったままの状態』となっている。

 愛娘を失った辛さを、乗り越えたオベール様が悲しむから……

 という心遣いから、もう誰もが、「その件を絶対に口にはしない」というのが城内における『暗黙の了解』である。

 隠された『真実』を知っているのは、俺と嫁ズ、そしてオベール様とイザベルさんのみ。

 その為、父と娘の『現実の再会』は、人払いが必須なのである。

 

 もう少し経ったら……長い時間が失踪事件の記憶を薄めたら……

 

 ……正体不明の何者かにさらわれ、魔法で変身させられていたステファニー。

 神様の導きで、故郷近くのボヌール村へたどり着き、紆余曲折あって俺と結婚した……

 7年あまりの間、村民となって幸せに暮らしていたが、最近いきなり魔法が解け、記憶と姿が戻った!

 ……なんて、凄く荒唐無稽な展開だけど、『解禁』にしても良いかとは思っているけど……どうだろうか?


 俺が、危険を承知でこう考えたのには理由がある。

 

 オベール様への配慮は勿論だが……別の理由がある。

 アンリとエマを含め、やはり城館で働く部下達の悲しみを取り除きたいから……

 

 中でも、特に安心させてやりたい者が居るのだ。

 皆さんは、俺がステファニーに初めて出会った時、彼女に付き従っていたあの『アベル、アレクシ、アンセルム三兄弟』を憶えているだろうか?

 

 実は彼等、現在もオベール家へ仕えていた。

 ステファニーの失踪直後は、3人とも相当なショックを受けて大変だったらしい。

 殉死というか、自死まで考えていたようなのだ。

 

 しかし悲しみを耐え、黙々と、真面目に勤めている。

 だから、その忠実ぶりに報いてやりたい。

 ステファニーが生きていて、幸せになっていたと知ったら、どんなに喜ぶか……想像に難くないから。

 

 もしも全面的な『公開』が無理ならば、アンリとエマだけに教える際、彼等にも教えても良いとは思ってる。

 三兄弟は、とても喜び、なお一層オベール家の為に尽くしてくれるだろう。

 そして、自分達の新たな人生についても考えてくれる筈だ。

 

 片や、新参のサキはといえば、オベール家へ初お披露目の為の参加だ。

 サキのぶっ飛んだ物言いに関して、超が付く心配性の俺は、少し不安があったが……

 日々行われていた、教育係クーガーによる厳しい躾の賜物。

 変身した『礼儀正しいサキ』は、オベール様夫婦にとても気に入って貰い、俺は「ホッ」とひと安心した。

 いずれ折を見て、異世界から来たという秘密を共有出来るかもしれない。


 閑話休題。


 会議の話に戻ると……

 まずオベール家からは、様々な要望が出た。


 あるじのオベール様も出席しているが、メインで話をするのはやはり奥方イザベルさん。

 詳細は省くが、簡単に言えば武官と文官の両方、真面目で誠実、やる気と素質のある者を採用したいとの事。

 基本は年齢不問、男女不問、人物本位という事だ。

 これは、まあ予想通りである。

 

 これは内緒だが……

 イザベルさんより、「無理を言って悪いわね……」と前置きされた上で……

 「応募して来た人間の、心の中を読んで欲しい」と言われてる。

 

 読心の魔法を使えない常人に、人間の心の底までは分からない。

 こんな小さな騎士爵家でも、乗っ取ってやろうという不心得者が居ないとも限らないから。

 そういう『心配』がある。


 俺も同意だ。

 乗っ取るまではいかなくても、邪な気持ちで『おもちゃ』にされたら困る。

 領民である俺達、ボヌール村村民の将来にもかかわって来るから。

 

 だから俺も了解した。

 相手のプライバシーを侵害して悪いが、心を読むべき理由の、範疇へ入って来るもの。

 数少ない『特別なケース』にあたるからだ。

 

 次に家族会議で練りに練った俺達ボヌール村の要望を出して、概ね了解を貰う。

 こちらの方も悪いが、移住応募者の心を読ませて貰おうと思う。

 先程のイザベルさんの懸念同様、悪意ある変な輩が、村やアンテナショップに入り込むのを防ぐ為だ。


 最後にはイザベルさん経由で、エモシオンの商人達からの要望が出された。

 やはり商店と市場の各組合からは、「慢性的に人手不足だ!」という強い要望が出されたようである。


「ケン、ウチの宰相として、就職説明会の具体的な設計、考えて来たわよね」


「はい、バッチリですよ」


 今回の企画で、俺はアンテナショップ、ボヌール村、オベール家、3つを見なくてはならない。

 そして、この企画自体の運営管理も担当しなくてはならない。

 当然俺ひとりでやり遂げるのは無理なので、嫁ズや家族、オベール家には手伝って貰うけど。


 アイディアの方はといえば、先日レベッカとの王都旅行で見た、この国の宰相閣下主導のイベント見学が役に立った。


 そう!

 王都商業ギルドの、広大なホールで行われていた、商会、商店、個人が様々なブースを作ってやっていた、あのイベントだ。


 ビジネス目的のイベントとはいえ、はっきり言ってとても楽しかった。

 ナイフの柄職人オディルさんとの、素敵な出会いもあったし。

 だから、今回エモシオンで行う就職説明会は、あのイベントの体裁をそのまま転用させて貰う。


 つまりアンテナショップ、ボヌール村共同ブース、更にオベール家、エモシオンの商店組合、同市場組合の各ブース、都合『4ブース』を作ってしまおうというのだ。


 実施場所は、今、会議を行ってるオベール様城館の広大な中庭、そしてエモシオンの中央広場。

 そこに受付が出来るブースを設置し、就職希望者を募って、一次面接をするのだ。

 ブースで具体的に何をやるかは各ブース担当者へお任せ。

 但し、計画段階で報告して貰い、オベール家的に不可と判断したら、改善、差し替え、中止の判断はさせて貰う。


 また時間を節約し、円滑に進める為に、更にもうひと工夫。

 この異世界には、絶対になかった履歴書、職務経歴書の用紙を作成し、事前に配布する事にしたのだ。

 参加希望者は当日までに、出来るだけ詳しく記入した上で、会場へ持参する事も盛り込んだのである。


 俺が簡単に書いた企画書を見せると、イザベルさんは納得、「にっこり」と笑った。


「うふふ、これって凄く楽しそう! それでね、ケン、私、思ったんだけど……」


「何でしょう?」


「この際、他の要素も入れて、ぱあっとにぎやかにやらない? 思い切ってお祭りみたいにしちゃおうよ!」


「お祭り?」


「ええ! このエモシオンって、他の町や村にもあるような、ごく普通のお祭りはやるけれど、よそに誇れる特別なお祭りはないのよ。ええっとね、あくまでも就職説明会がメインだけど、何か他のイベントも入れれば、町全体が凄く盛り上がるわ」


「確かに!」


「うん! もう決まり! 就職説明会なんて固い事言わず、気持ちでは王都に負けないくらい、立派なお祭りにしちゃいましょっ!」


 気持ちでは、王都に負けないくらいか……

 

 イザベルさんの『想い』はどんどん膨らんでいるようだ。

 こうなると、妻大好きのオベール様、ライバルでもある親友に負けじとフロランスさん、オベール様に対抗してジョエルさん、アンリ、エマもどんどん意見やアイディアを出して来た。


 勿論、俺も嫁ズ達も、全然遠慮なんかしない。

 その為、会議は異様に盛り上がった。


 結果、次回の会議は商店、市場両組合の長も入れ、実施に向けて具体的な詰めの打合せをする事になったのであった。

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