第27話「前向きさの悲劇」

 エモシオンに暫く滞在する事に決めたカルメンは……

 俺が「オベール様の城館へ戻る」と言ったら、「ぜひ同行したい」と申し出た。


 ぜひって?

 何か大事な用事がある?

 まさかオベール家に仕える気になったとか?

 

 いやいや、良く聞いたら違った。

 カルメンは、冒険者だから戦い、つまり格闘技が大好きらしい。

 ウチの嫁ズ同様、単に『男子のすもう大会』が見たいだけのようだ。

 

 早速、すもうの話題で、サキと一緒に盛り上がっている。

 すっかり仲良くなったふたりは、まるで年の離れた姉妹みたい。

 まあ、サキはウチの嫁ズの誰とも仲が良いから、見慣れた光景だけれど。


「サキも、おすもう大好きですよぉ」


「へぇ、サキちゃんもか」


「はい、よく、ピ~~~」


 もう!

 サキは、さっきから暴走し過ぎだ。

 NGワードを簡単に言い過ぎだもの。

 ピーというのは、ピー音、つまり自主規制音の魔法で、カルメンにはNGワードの部分だけ聞こえないようにした次第。


 ちなみに、カルメンを説得した際の「実家に帰れない」サキの発言は……

 今のNG発言と一緒に、忘却の魔法で綺麗さっぱりカルメンの記憶から削除させて貰った。


 ……そんなこんなで、俺達は城館へ戻る。


 それに、言うのが遅れたが……

 思ったより、アンテナショップが忙しい。

 なので、殆どの嫁ズが『すもう大会』の見学を中止した。

 とても楽しみにしていたらしく、全員マジでとても残念がっていた。


 本来なら俺も、アンテナショップに残った方が良い。

 だが宰相として、オベール家の仕事の比重が、凄く大きくなってしまった。

 なので、あまり部下達に、「任せっきり」というわけにはいかない。

 ショップの金主でもあるし、そこらへんのバランスは重要だから。

 さすがに嫁ズも分かっているので、快く送り出してくれた。


 よって今、嫁ズでは、俺と一緒に城館へ戻るのはサキ以外にはソフィだけである。

 これは、他の嫁ズが気を遣ってくれた。

 ソフィことステファニーがせっかくエモシオンに来ている。

 なのに、ず~っと居ないと、父オベール様が寂しがるってね。

 午前中は店で頑張ってくれたし、俺に同行して良いって。


 後はアンリとエマのふたりも一緒。

 俺と一緒に仕事をするアンリが戻るからっていう事で、これもウチの嫁ズが気遣ってくれた。

 当然エマは恐縮して一旦は断ったけど、最後は受け入れて、凄く喜んでいた。


 ここで、内緒話をひとつ。

 当初は、カルメンが「アンテナショップを手伝う」と申し出たのだ。

 聞けば、一宿はないけど『一飯の恩義』だと言う。

 凄く前向きで、良い心がけだと思う。

 でも結局は中止。

 まあ「気持ちだけで充分だ」と思ったから……構わない。


 実は、ちょっとした『事件』が起こったのである。

 明るく振る舞うカルメンを見れば、もう影響はないみたいだけど……


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 時間は、少しさかのぼる。


 昼食後の事、まだ俺達はエモシオンのアンテナショップ、

『エモシオン&ボヌール』店内、2階のカフェに居る。

 今は身内だけで、他に客は居ない。


 俺を始めとして、嫁ズは凄まじい?光景により、カチカチに固まっている。

 但し、固まっているのは、身も凍る恐怖からではなかった……


 中央で俺達同様固まっている、大柄な女性が居る。

 身長は180㎝以上あるだろう。

 筋骨隆々の逞しい身体をしていた。


「…………」


 大柄な女性は、『姿見』を見て、何も言葉を発さない。

 全くの無言であった。


「え、えっと、カルメンさん? ……メ、メイド服、に、似合っていますよ、きっと」


 ようやく言葉を発したのは……サキであった。

 言葉から分かるように、部屋の中央に立っているのはカルメンなのである。

 サキが何とか、勇気を振り絞る事が出来たのは、自らカルメンにメイド服の着用を勧めたのが原因であった。


 そう……

 カルメンが、「アンテナショップを手伝いたい!」と申し出た時に……

 「メイド服着て、メイドやったら!」とサキが悪魔の囁きをしてしまったのだ。


 可愛い服を着てバージョンアップした、可愛い自分の姿を想像したらしく……

 カルメンは、カフェの手伝いに、すっかり乗り気となってしまった。


 その上、運悪く? クラリス、タバサ、サキのファッションチームが試作品を作っていた。

 『超大型サイズ』のメイド服が、一着だけあったのである。


 カルメンは「渡りに船!」とばかり、狂喜乱舞して着てみた。

 ここに……悲劇が起きたのだ。


 着て貰って、改めて分かった……


 はっきり言って……カルメンにメイド服は似合わない。

 逞しいカルメンと可憐なメイド服が……全く合わないのだ。

 違和感ありあり……いや失礼!

 究極のミスマッチなのである……


 一応、慰めてはいるが、所詮サキの言っている事は『気休め』だ。

 カルメンはまだ、言葉を発さず、ひたすら黙っている。


「…………」


「で、でも……ぷ、ぷぷっ」


 「もう我慢出来ない!」という感じで、サキが噴き出した。

 笑いたいのを、一生懸命にこらえていたようである。


 サキが笑うのを見て、とうとう、カルメンが言葉を発する。

 それも責めるように、且つ怒りの感情も籠めて。


「サキちゃん!」


「は、はい! くくくっ……」


「じ、自分でメイド服を勧めておいて、普通は笑わないだろう?」


「た、確かに! で、でももう駄目ぇ~! きゃははははははっ」


 俺も含めて、嫁ズはさすがに笑わない。

 しかし傍から見て、サキ同様、笑いをこらえているのは明らかであった。


「もうイヤ! あたし帰るっ! 王都へ帰るうっ! お店のお手伝いは中止ぃ!」


「あははははははっ!」


 カルメンの叫び声と、サキの大きな笑い声が交錯し、アンテナショップ内は微妙な空気に包まれたのであった……

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