第2話「話が大きくなった!」
そもそも、この異世界では……
人を雇う際に、家族、知人からの紹介が一番多いらしい。
俺は学生のまま死んだので、よく分からないが……
前世における就職でも、その方が有利らしい。
最後には、『身元保証人』も必要だって言うじゃない。
こちらの世界では、保証人という『肩書き』こそ付かないが……
何か不始末をしでかすのを防ぐ為、抑止力と言うか、しっかりした人物の紹介というか、お墨付きがあれば、個人の能力以前に重要視されるって話なんだ。
万が一、何かあっても紹介者に対して、何らかの『見返り』をして貰う。
という冷徹な計算も、前世と変わらないのだろう。
紹介だけではなく、自薦、つまり自らの売り込みも多いようだ。
その際にも、誰々の推薦みたいな紹介状があると大きいという。
でもそれって、就職だけじゃなく、どんな世界も一緒だなと感じてしまった。
書籍なんかでも、有名な人の書評が新聞に載っていたり、帯に何か書いてあると、読んでみようって気になるじゃないか。
まあ採用する上で、能力か、人柄の、どちらかという究極の選択もある。
理想は、両方兼ね備えた人が望ましい。
だけど、そんな人は中々居ない。
もしも、当たったらラッキーという感じ、宝くじみたいなもの。
結果、いろいろな人と関わる仕事なら、まず『協調性』が第一という話になる。
今回の人材募集に関しては、従来の方法は用いるとして……
俺は、間口を広げ、在野からいろいろな人材が欲しいと提案した。
そして具体的な方法としては、
「ただ告知と面接をするのではなく、エモシオンで、ショップの就職説明会を開くのはどうか?」とアイディアを出してみたのだ。
ちなみに今日の打合せメンバーは、俺。
嫁ズでは、リゼット、クッカ、ミシェル、クラリス。
そしてオベール様夫婦、ジョエルさん夫婦、アンリとエマ、以上である。
全員が、俺の提案を前向きに聞いてくれたが……
中でも、一番食い付きが良かったのは、オベール様の奥様、我が嫁ミシェルの母でもあるイザベルさんであった。
それも、目に星が
少女漫画みたいにキラキラさせて、反応している。
俺の意見に賛同するのは勿論、更に何か思いついたようだ。
こんな時のイザベルさんって、『我が母』ながら素敵だなと思ってしまう。
彼女へ年齢の事を言ったら、確実に殺されるから、沈黙は金だけど。
もう?歳の筈なのに、30歳前半にしか見えない粋で素敵な方。
娘のミシェルと並ぶと、姉妹と言い張っても通るのは、俺が出会って以来変わらない。
「ケン、それって凄く良いアイディアよ。我がオベール家も、ぜひ便乗させてね」
「おお、イザべル、何か良い事を考えついたな。よしよし」
オベール様も、愛妻の提案に、にこにこ。
俺と嫁ズに劣らず、この夫婦も仲が良い。
「ええ、もしも良い考えがあれば、どんどん出して下さい」
笑顔で返した俺は、イザベルさんの『提案』が出るのを待った。
実は俺、先日エモシオンへ来た際、イザベルさんには、レベッカとの王都旅行の話を入れている。
故郷を離れたイザベルさんへ、ボヌール村の近況を入れると喜ぶので、その一環である。
楽しそうに聞いていたイザベルさんへ、俺は伝えた。
王都の展示会の話から、嫁ズが全員、新たなスキル獲得とアップに目覚めたって。
今回は、その話から、「ピン」と、インスピレーションを感じたらしいのだ。
「ねぇ、みんな聞いて」
イザベルさんは、爽やかに笑う。
「アンテナショップの人材募集を聞いていて思ったけどね。ボヌール村は勿論、このエモシオンにもまだまだ人手が足りないわ。それに新たなスキルを持った有能な人材が増えれば町の発展につながるもの」
「おお、イザベル、素晴らしい、その通りだ」
すかさず、オベール様が相槌を打つ。
ああ、この人、ホントに奥さんを愛してるんだな。
「お前に惚れ込んでるぜ!」って、熱い波動がバシバシ伝わって来る。
ソフィ―ことステファニーのつながりで、親しくなった領主のオベール様だけど……
妻となった、ミシェル母イザベルさんの力も大きい。
この世界でも、かつての地球の中世西洋でも、こんなフレンドリーな領主と領民の関係なんて絶対になかっただろう。
「それでね、いっそアンテナショップだけじゃなく、この際だから、いっぱい人材募集したら良いと思うのよ」
成る程。
単なる店のスタッフ募集に比べて、話が凄~く大きくなるが、それって良いかも。
俺が軽く頷くと、イザベルさんも頷き、話を続ける。
「オベール家の状況を精査して、不足している人材を確認してゲットするのは勿論、エモシオンの市場や店にも声を掛けるの、もっと人手が要りませんかって」
ここで、突っ込みを入れたのが、フロランスさん。
リゼットの母である。
「ねぇ、イザベル、ちゃんと認識して欲しいけど、本来はあくまでアンテナショップのスタッフ募集、ゆくゆくはその人を将来ボヌール村へって話よ」
「だいじょうぶいっ! アンテナショップの人材登用には、ちゃんと配慮するわ」
「ならば、よしっ! うんうん、私も賛成するわ」
「おお、フロランスが賛成なら、私も大賛成だぞ」
ここで、頷いたのがリゼット父のジョエルさん。
先程から、オベール様の『奥さんラブ』が凄いので、「負けていられない!」と、フォローを入れたのだろう。
うん!
頃合いだ。
俺も、しっかりフォローを入れておく。
「ああ、それって良いですね。もしアンテナショップには適性がなく、いわゆる残念ながら縁がなかったという人でも、他で就職出来れば、お互いにめでたしで、素敵だと思いますよ」
「でしょ、でしょ。うふふ、ケン。この作戦が上手く行ってオベール家に有能な人材が増えたら、宰相の貴方もやりやすくなるわ」
嬉しそうに笑うイザベルさんは、まるで少女のように可愛らしい。
うん! 俺の嫁、娘ミシェルの行く末が見えるようだ。
「皆さん、宜しいですか? じゃあ、各所の状況確認は、持ち帰りで宿題。報告と新しいアイディアの提案も含め、2週間後にまた、このお城で打合せするって事でどうでしょう? その時に最終的な施策を決定しますから」
その日は他にも、業務予定が押していた。
俺が良いタイミングでクロージングすると、全員が了解して頷いたのである。
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