第3話「放言癖とお仕置き」

 オベール家における打合せ後、俺は城館でそのまま仕事をした。

 何故ならば、やるべき業務が、山積みだったから……

 名前こそ仰々しいが……

 宰相という名の『何でも屋』は、いろいろな事を頼まれるのだ。

 

 オベール家の跡取り息子、フィリップの家庭教師もやった。

 相変わらず、「あにうえ!」と甘えて来る可愛い『弟』である。

 「フィリップ、最近はどうだい?」と、聞いたら……

 「じいやとばあやが大好き!」だって……

 そう、エモシオンへ引っ越して来た俺の義両親ジョエルさん、フロランスさんに「いっぱい遊んで貰って嬉しい!」と目を輝かせていた。

 少しは寂しさが解消されたみたいで、ジョエルさん達には感謝したい。


 一方、嫁ズは別行動となり、エモシオンでいろいろな買い物を済ませる。

 そして城館に一泊し、全員で翌日の午前早々に出発した。

 

 本来なら移動に約半日かかるので、ボヌール村へ戻るのは夕方近くになるのだが……

 例によって、俺の転移魔法で「ささっ」と速攻で帰還。


 購入して来た仕入れ用商品を大空屋の倉庫に納め、何人かの村民に頼まれて購入した商品も届け、最後にユウキ家用の商品を自宅に仕舞うと……

 やっとこの日の、仕事全てが終わる。


 そうこうしているうちに、時間はもう、夕方近くになってしまう。

 

 帰宅してすぐは、とりあえず挨拶だけだったので……

 今回同行しなかった嫁ズと、改めて熱いハグを「ぎゅっ」とする。

 つまり、愛をしっかり確かめてから、夕飯を食べるのだ。

 

 こういう、まめなコミュニケーションって、凄く大事。

 前世の日本と違って、この異世界はあくまで中世西洋風。

 俺から見て、いわゆる外人さんの文化なのである。

 スキンシップは殊更、重要なんだ。


 最近はグレースも『完全復活』した。

 体調も元に戻って、愛娘ベルを抱き、幸せそうな笑顔を見せている。

 一番新参のサキは相変わらず、絶好調に元気いっぱいだ。


 ちなみにサキは今日も、他の嫁ズ全員にいじられていた。

 今は「けろっ」としているけど。

 ……そもそも俺が帰還した時に、サキが開口一番『余計なひと言』を言ったのが原因なのである。


「わぁ! 旦那様、お帰りなさぁいっ!」


「おう、サキ、只今っ」


 ここまでは良かった。

 しかし……


「うふふっ、ユウキ家で、唯一の新妻のお出迎え、最高に嬉しいでしょ?」


「お、おお……」


 唯一の新妻?

 ん~、何か、微妙な物言いなので、俺は反応しつつ曖昧に口籠る。

 とても、いや~な、予感がしたからだ。


 そして案の定というか……


「サキ!」


 「びしっ」と、ユウキ家内に、ドスの効いた大きな声が響く。

 この声は、当然ドラゴンママ、クーガーである。

 ちなみにサキの教育係でもある。

 

 驚いたサキは、まともに視線を合わせず、上目遣いにクーガーを見る。


「な、何? ドラゴンじゃなかった、クーガー姉」


 尋ねるサキに対し、クーガーの教育的指導。


「何? じゃない。お前はクッカに似て、相変わらずひと言多い。いい加減に、その放言癖を直せ」


「ひと言? 放言癖? サキは何か言いましたっけ?」


 何か、言いましたっけ? って……

 ああ、何となく、どの言葉が『減点』なのか、俺には分かる。


「ほう! この私相手に、しれっととぼけるとは良い度胸だ。お前がそんな事ばっかり言ってると、教育係の私までが、なっていないと怒られる」


「うわ! え、ええっと……私、今そんなにヤバイ事、言いました?」


「馬鹿者ぉ! まだ惚けおって! 何だ、その、唯一の新妻とは?」

 

 俺が傍らで、さりげなく聞いていたら……やっぱりだ。

 おいおい、サキ、「ごめ~ん」って、いつものように、「てへぺろ」しちゃえ。

 ほんのジョークだって……


 しかし……


「ああ、それ? でもさ、はっきりした事実でしょ? クーガー姉みたいな古女房に比べて、サキは、新婚ほやほやの新妻だもの」


 俺の予想に反し、謝るどころか、得意げに語るサキ。


 おいおいおいっ!

 更に、余計な『ひと言』が出ているよ!


 よりによって、クーガーが『古女房』って……それは大ヤバでしょ。

 

 俺が「ぎくっ」として、恐る恐るクーガーを見れば……


 ああ、怒りのあまり、目がギラギラして、飢えた野獣みたいになってる。

 少し開いた口から、見えない大量のドラゴンブレスが吐かれてる。


 おおおっ!

 ラスボス仕様のドラゴンママが、遂に降臨したぁ!


 人間って、並みの怒りを通り越すと、表面上は冷静に見えるって本当だ……

 能面のような顔をしたクーガーの声は、あふれ出るブレスとは真逆に、冷え冷えしちゃってる。


「…………サキ」


 いかにも、やばそうな雰囲気を察して、さすがのサキも噛んでいる。


「ク、クーガー姉、な、何でしょう?」


「お前、また、お仕置き……決定だな」


「え? また? お、お仕置き? い、いやだぁ!」


「おい、野郎共、悪い子のサキをお仕置きだ! 絶対、逃がすんじゃねぇぞ」


「「「「「「「へいっ!」」」」」」」


 いつの間にか、嫁ズが全員集まって、クーガーとサキのやりとりを『見物』していた。

 クーガーのノリノリの指示で、あのまじめなリゼットまでが、他の嫁ズと一緒に、サキを「がっしり」抑え込む。


「い、いや~っ!!!」

  

 いくら何でも、『古女房』は超危険ワードだった……

 ……哀れ、サキの運命は決したのである。


「旦那様ぁ! た、助けてぇ!!!」


「…………」


 可哀そうだが、俺はサキを助ける事が出来ない……


 そして……


「ぎゃ~っ、ひひひ、い、いやぁ、お姉様方ぁ! ひゃははは、や、や、やめてぇ~笑い死ぬぅ~」


 『おいた』をした時の、いつものお約束で……

 サキは、必殺『くすぐりの刑』に処されていた……

 ちなみに、一番力を入れてサキをくすぐっていたのは、ベルをおんぶしたグレースであった事は、しっかりとお伝えしておこう。


 こうして……

 サキを新たに加えたユウキ家の、いつもの平和な日常は過ぎて行ったのである。

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