アンテナショップとお祭り編

第1話「人は石垣、人は城」

 3か月前に決定してから、時間が経つのは、あっという間だった……

 遂に遂に!

 エモシオンの我がアンテナショップ、『エモシオン&ボヌール』がオープンしたのだ。


 『エモシオン&ボヌール』なんて、「ベタな名前だ」と笑うなかれ。

 いくら小さな町とはいえ……

 そこそこの規模がある市場と、40軒以上の商店がある中で、目立つ為にはストレートな店名が良いと考えたのだ。

 イザベルさんのたっての希望で、『オベール家御用達』とまで書かれてる。

 これが良いのか、悪いのか……分からないけど。


 この店が、「ボヌール村、そしてエモシオンの運命を担う店」というのは大袈裟だけど、「未来を拓く可能性がある店」と言っても過言ではない。


 ……ここまでこぎつけるのには、紆余曲折、様々な事があった。

 いろいろな人に出会い、助けて貰い、開店にこぎつける事が出来たのだ。


 そしてこの店は、俺と嫁ズ、家族の『夢』を叶える場所でもある。

 

 でも夢って、人によって千差万別。

 それに、ひとつとは限らない。

 

 前世でそんなこと言えば、ケツの青い奴だってからかわれるから、絶対誰にも言っていなかったけれど……

 

 個人的には『人生で一番の夢』って……

 愛する人に巡り合って、お互いに慈しみながら幸せに暮らす事だと思ってる。

 

 そういう意味で、俺は一番の夢どころか、何倍も大きな夢を叶える事が出来た。

 『クミカ』を筆頭に、嫁ズと、運命のめぐり逢いをしたのだから。

 単なる惚気と言われれば、それまでだけど、嫁ズだって全員そう言ってる。


 あ、すいません。

 もうその話は、前のパートでお腹いっぱいですって?

 仰る通りですね、分かりました。


 と、言う事で、話を戻すと……

 良くいえば人間は『夢』を見続ける生き物だし、悪く言えば果てしない欲張りだって事。

 何故なら、夢をひとつ叶えても飽き足らず、すぐまた次の夢を作ってしまうじゃない。

 多分というか、推測だけど……

 創世神様が、俺達人間を土くれから創る際、そういう仕様を入れたんだろう。

 

 中にはそれがどす黒い欲望に傾き、いわゆる闇落ちする人も居る。

 人間は弱いから、つい甘い誘惑にかられ、やばいダークサイドへ入ってしまうに違いない。


 だが、俺の家族は貧しいながらも、他人へは迷惑をかけず、正々堂々と生きている。

 それが、一番誇れる部分かもしれない。


 さてさて、前置きが長くなったけど、アンテナショップの話をする。

 ……例によって、時間は少し遡るって奴だけど……


 当初、アンテナショップの運営主要メンバーといえば……

 俺は勿論だが、嫁ズでいえばリゼット、クッカ、ミシェル、クラリス。

 他の嫁ズはサポートメンバーという位置付けであった。


 サポートという言葉ではあるが、主要メンバー以外の嫁ズが、手伝わないというわけではない。

 だが、本業ともいえる村の仕事もある。

 

 最近は、自身のスキル獲得&アップにも忙しい。

 だから、しっかりと役割分担しているのだ。

 念の為、「私は、ぜひアンテナショップで仕事をしたい!」と希望が出れば、配慮するのは当然。


 じゃあ、「主要メンバーが『エモシオン&ボヌール』で実現したい夢って何?」と聞かれれば……


 リゼットとクッカの夢は、ハーブ園から発展したお洒落なカフェの実現。

 ミシェルは、自分の夢である商売、すなわち大空屋の仕事の拡大。

 そしてクラリスは、自分の作品である、服と絵画を販売する場所の実現。

 というところ。

 全員、上手く行くか、どうなるか、期待と不安で「わくわくどきどき」してる。


 その他のメンバーはといえば、

 エモシオンでは『総監督』のイザベルさんを筆頭に、先日、ボヌール村から移り住んだ 元村長のジョエルさん、その妻フロランスさんの夫婦、そしてこれまた結婚予定のアンリとエマ、有望新人両コンビが加わる。

 経験をたっぷり積んだベテランに、フレッシュな新人とバランスもとれている。


 ここ最近は、アンリ達のボヌール村移住希望の件や、クミカの生まれ変わりサキとの巡り合いなど……

 大きなイベントと平行し、忙しい中、アンテナショップの概要も決めて行ったわけだが。

 営業日、営業時間、仕事内容、そして交代で各自が休みも取る事も考慮した中、緊急で「ケア」しなくてはいけない問題に関して、全員が一致した。

 

 それは「まだまだ人手不足だ!」というもの。

 

 前にも言ったけれど、俺と嫁ズは基本的にボヌール村在住。

 だから、労働時間も限られるし、あてには出来ない。

 今のところ常駐で仕事をするのはアンリ&エマ、ジョエルさん&フロランスさんだけ。

 イザベルさんは総監督として、経営者&監修役だから。

 結果、エモシオンに常駐して仕事をする、新たな人材はもっと必要という事になったのである。

 

 そうそう、有名な戦国大名のことわざ?もあったっけ。

 人は石垣、人は城って……

 確か、武田信玄が言ったとされている諺だ。

 ここまでが良く知られていて、もう少し言葉が続くけど。

 

 ここでいう『人』の意味は、信頼出来る人の事だったと思う。

 ならば、村の運命を担う、アンテナショップを任せるくらい信頼出来る、且つ優秀な人材が必要という意味がぴったり来る。

 

 すなわち、立派な店は出来ても、中身を動かす能力のある人が充分に居ないと、全く話にならないって事だ。


 というわけで、最初から考えていたのだが……

 オベール様の城館で会議を重ね、最終的に決めた。

 

 ボヌール村とエモシオンで告知を出し、ショップの『新規スタッフ』を募集する事にしたのである。

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