第33話「もう二度と、絶対に!」

 俺とサキは、夜の村内デート中…… 


 今夜も、正門脇に建てられた物見やぐらには、レベッカの父ガストンさんが詰めていた。

 相棒のジャコブさんともう数人、今夜の当番の村民も一緒である。

 変な敵が周囲に居ないか、鋭い視線を飛ばして見張っていた。


 敢えて、言ってはいなかったが……

 以前から俺も、時間を作って、出来る限り門番をしている。

 このところエモシオンの仕事も増えて、その分、頻度は減ったけど続けている。

 ガストンさんには、「村長になったら、もうこんな事しなくて良いのに」って言われたけど……

 やっぱり俺、自分で村を守りたいと言うか、現場が大好きみたい。

 

 実は、俺が村長になってからすぐに、ガストンさんを『副村長』に任命した。

 長年の労に感謝する意味もあり、従士としての給金も少しアップしたのである。


 村長の俺と副村長のガストンさんが率先して、門番をやるのを見て、志願者が増えて来たのも嬉しい。

 新しく村へ来た人も手を挙げて、「ぜひ門番をやりたい」と希望して来た。

 「自分達で、この村を守って行こう!」って気持ちが、どんどん高まっているようだ。


 そのガストンさんだが、最近特に機嫌が良い。

 愛娘レベッカと俺との仲が、更にベタベタになったからなのは勿論……

 王都旅行の影響で、レベッカがやる気を見せ、いろいろな新分野にチャレンジしているからだ。

 ひたむきなレベッカが、ますます亡き妻に似て来たって、涙ぐむ時もある。


 更に『じいじ』として、俺とレベッカとの息子、つまりは孫のイーサンと、仕事の合間に毎日遊ぶガストンさん、もう人生絶好調なのである。

 また孫が生まれたら……この人、どうなっちゃうんだろう?

 

「こんばんは! おやじさん、皆さん、お疲れっす」

「こんばんはぁ、おじさん達、お疲れさまぁ~」


「おう! 新村長、そして幼な妻のサキちゃんか」


 ああ、ガストンさんたら、幼な妻って……

 そんな事言ったら、16歳のサキがすぐ『反応』するって、もう!


「えええっ、うっわ! 幼な妻って、最高よぉ!」


「おお、そうか。サキ、お前にぴったりだぞ」


「嬉しいっ! おじさ~ん、お願い、もっとそう呼んでぇ~」


「おし! 幼な妻サキ!」


「よっし、俺達も呼んでやれ、幼な妻ぁ!」

「可愛いぞ、幼な妻ぁ!」

「村長と幸せになぁ!」

 

 ガストンさんが『愛称』を呼ぶと、ジャコブさんを含め当番の村民さん達も面白がって連呼する。

 でも全員に、サキへの愛情が、はっきりと見えるんだ。 

 

「わ~い、わ~いっ! やった~っ」


 ああ、やっぱりサキの奴、大反応だ。

 俺は苦笑したが、喜ばしい事でもある。


 今のやりとりでも、改めて感じる。

 たった2か月で、『お嬢様』だったサキは、完全に村へ溶け込んだって。

 お年寄りには『天真爛漫さ』を可愛がられ、大人には『真面目な働き振り』を感心されている。

 そしてお子様軍団には……

 以前のテレーズみたいに、身近なお姉さん的『明るい優しさ』から、凄く懐かれているのだ。


「おじさん達ぃ、風邪ひかないでね~」


「お~、ありがとな~」

「サンキュー!」

「サキちゃんもなぁ」

「子供はあんまり、夜更かしするなよぉ」


 手を「ぶんぶん」振るサキに、同じように手を大きく振るガストンさん達。

 とっても良い雰囲気である。


 ガストンさん達へ別れを告げた俺とサキは、物見やぐらを後にし、村内を歩いて行く。

 よくよく考えれば、デートというより単なる散歩に過ぎないが、サキはとても楽しそうだ。


「ケン、私、毎日が楽しい! 楽しくてたまらないよ。ケンにボヌール村へ連れて来て貰って、本当に本当に良かったよぉ!」


「おお、そう言って貰えると嬉しいよ」


 俺が手を「きゅっ」握ると……

 サキはとびきりの笑顔を見せ、「ぴたっ」と俺に寄り添った。

 ウチの嫁ズは全員甘えん坊だが、サキもその伝統を引き継ぎそうだ。


「ねぇ、聞いて! ケン!」


「何?」


「私ね、クーガー姉と一番気が合うのよ。普段あんなに厳しくて怖いのに……何でかな? 不思議……」


「えっと……俺にはあまり分からないけれど……仲良しなのは、素敵な事じゃないか?」


 サキの『微妙』な質問に対し、俺は曖昧にはぐらかした。

 

 転生したサキは、元々クーガーの魂の一部。

 最も気が合うのは当たり前だよな。

 でも……真実は絶対に言えない。


 サキは、クーガーに可愛がって貰っているのが、素直に嬉しかったみたい。

 こぼれんばかりの笑顔を、俺へ向けて来る。


「そうだよねっ! 私もクーガー姉が大好き! そうそう! この前、ことわざひとつ習ったんだ」


「おお、一期一会か?」


「もう! 違うよぉ! 明日は明日の風が吹く……だも~ん」


 ジュリエットことヴァルヴァラ様に、『怒られた件』を持ち出すと、サキは「ぷくっ」と頬を膨らませた。

 怒って拗ねている、いつものお得意ポーズだ。


 当然本気ではなく、俺に甘えているだけ。 

 そんな仕草も、凄く可愛い。

 

 うん!

 やっと、やっと巡り合えたんだ。

 俺は……『クミカ全員』と。

 

 他の嫁ズ同様に、出会ったばかりのサキが愛おしくて愛おしくて、たまらない……

 

「明日は明日の風が吹く……おお、そうか」


「うふふ、サキにはぴったりの諺だって、クーガー姉にね、言われちゃった。お前は、超楽天的だって」


「ああ、超心配性の俺とは、正反対ともいえることわざだな。お前がこの村に入って、ちゃんと生活出来るかどうか、俺、心配し過ぎだったよ」


「ううん、とんでもないわ。心配してくれてありがとう! ケンは優しいから……だ~い好き!」

 

「おお、じゃあ、お前にず~っと大好きになって貰うよう、俺、頑張るよ」


「私も! ケンにず~っと大好きになって貰えるよう頑張る! ジュリエット様のお言葉……熱い素敵な思いを託されたから。サキは、一生忘れないっ!」


 ジュリエットことヴァルヴァラ様は……

 「俺との出会いを宿命にしろ」と、サキへ言った。

 『宿命』という言葉に、サキは深い感銘を受けたらしい。

 俺も全く同意。

 加えて、管理神様から『真実』を告げられたから倍増かも。


「……ねぇ、私も結婚したら、ケンを旦那様って呼んでも良い?」


「おお、良いぞ! どんどん呼んでくれよ」


「やった~っ!!! でも、ケンが旦那様なんて、運命って不思議だね……私とケンは、元の世界に居た頃、何の縁もゆかりもなかったのに……」


「おお、ま、まあ、そうだな……」


「あれぇ? さっきから何か、変なリアクションばかりだよぉ、ケン、何?」


 うっわ、サキも他の嫁ズ同様、凄く勘が良いぞ。

 って、彼女もクッカやクーガー同様、『クミカ』だから当たり前か。

 その上、『元の世界』なんてNGワードまで出てる。

 

 まあ、正直に答えるわけにいかないので、俺はまたも誤魔化すしかない。


「な、何でもね~よ……」


「ふうん……ま、いいか!」


「…………」


「でもさ、ケン! 今、この異世界のボヌール村に、私、サキ・ヤマトと貴方、ケン・ユウキが居るのよ! 不思議だけど、きっと、これが……宿命なんだよねっ!」


 おっと、まただ!

 『異世界』なんて、更に凄いNGワードが出ているけど……ここは、大目に見てしまおう!


 だから俺は、激しく同意!


「ああ、そうだ! きっとこれが宿命さ! 俺はお前を二度と、いや! ……絶対に離さないぞ!」


 俺とサキの出会いは宿命……

 サキの問いかけに対し、今度はきっぱり「そうだ!」と、答えた俺。

 『ぴったりのタイミング』だから、彼女がずっと待ち望んでいた『願い』を叶えてやる事にする。

 

 そう、俺は……

 笑顔いっぱいのサキを優しく抱き寄せると、

 彼女の可愛い唇へ、『初めてのキス』をしていたのだった。


※『神様代理と異世界初心者』編は、これで終了です。

 

普段から必死に書いていますが……

今回は、さすがに力が入りました。

主人公ケンの、人生における大きなターニングポイントでしたから。

この話を書いたら、次回パートはどうなる事やら……果たして続きが書けるのだろうか?


ある方から頂いた感想へ、お戻しした中に書きましたが、

ケンが失った旧き良き故郷の風景は……作者東導の『原風景』です。

今でも思い出すと懐かしい、心が震えるような気持ちになります。

 

だから、もっともっと、多くの皆様に読んで欲しい。

楽しんで頂きたい。

この作品を、押し上げたい。


そう願って、何とか頑張ります!

もっともっと続きが読みたい! とお感じになりましたら、作者と作品へ更なる応援を宜しくお願い致します。


皆様のご愛読と応援が、継続への力となります。


※4月23日現在。

一応、次回のプロットを考案、執筆中です……再開まで、暫しお待ち下さい。

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