第32話「奮闘と未来」

 異世界転生者サキ・ヤマトが、我がボヌール村へ来てから、1か月が経った……


 サキは夢魔リリアン、今は亡きクミカの生まれ変わり。

 つまり『3人目のクミカ』だ。

 それは、本人さえも知らない衝撃の事実……

  

 この事は、管理神様から固く口止めされている。

 だから、今回に限っては、同じくクミカの生まれ変わりであるクッカ、クーガーにも絶対に内緒なのである。

 

 いずれ時が来れば……

 家族で笑って、共有出来るようになるかもしれないけど……


 そんなこんなで……

 サキは、相変わらず奮闘中……

 さすがにまだ、危険な村外へは行っていないが……

 家事、大空屋の店番を無事にこなし、次に畑作業や家畜の世話にも挑戦。

 お約束通り、ミミズや毛虫に悲鳴をあげ、ニワトリ、ヤギ、ブタ、ウシと戯れる。


 汗と泥にまみれ、日にも焼けた。

 全身が、健康的な小麦色になったサキが、快晴の空みたいに笑う。

 開いた、可愛い口からのぞく、真っ白な歯がまぶしい。

 

 日々頑張るサキは、村民の誰が見ても、誰に聞いても、我がユウキ家と村へ完全に溶け込んでいる。

 結果、例の3か月の『猶予期間』は家族全員の意見一致、大賛成で解除。

 ユウキ家の皆に受け入れられたと知って、サキは狂喜乱舞していた。


 更に俺は、約束した通り、サキへ将来の可能性を出してあげた。

 いや、違う。

 俺が偉そうに言う前に、サキの方からいろいろな事に挑戦していたんだ。

 自分の未来を、素敵な夢を見たいと言って。

 

 こうした積極性も、サキの長所なんだろう。

 ジュリエットへ固く約束した通り……サキは有言実行したのである。


 村で暮らす為の『師匠』となったクーガーとは、出自が出自だけに、実の姉妹のような間柄になった事は前述したが……


 クッカとは、対クーガー戦の『あっちむいてホイ』で意気投合。

 もはや村の名産となったハーブティを飲んで、サキは目を丸くして感激。

 大きな興味を示し、ハーブ園でも一生懸命に働いた。

 自然、ハーブ命のリゼットともハーブ談義で盛り上がり、とても親しくなった。


 また、年頃の女子らしく、サキは前世からファッションが大好きであった。

 なので、共通の話題で、クラリスと仲良くなる。

 すぐ一緒に、洋服のデザイン画を描き始めた。

 同じく、洋服作りに燃えるクッカの娘タバサが姉弟子に。

 こうして、世代の違う3人で仲良く相談し、いろいろなテイストの新しい服の構想を練る。

 それが凄く、楽しいらしい。

  

 仲良くなったクラリスから話をいろいろ話を聞き、『紙芝居』にも興味を持ったサキ。

 クラリスとタバサに協力して貰い、『ファッションチーム』でその製作に挑戦した。

 完成後に、村内で華々しく3人で披露。

 内容はまたも、俺をモデルにした、勇者の勧善懲悪モノである。

 太鼓を叩くクラリスと、口上を述べるサキとタバサの息はぴったり。

 興行当日、お子様軍団は勿論、大人にも大うけで、3人はハイタッチしていた。

 ちなみに紙芝居は、後から行われたリゼットとサキのコンビも大好評であった。


 レベッカとは、師匠のクーガー繋がりで親しくなり、村内で乗馬に挑戦。

 何と!

 あの誇り高いベイヤールが鞍を付け、サキの為、初心者向けに大サービス。

 結果、サキは乗馬にも、すっかりはまってしまった。

 俺へ、早く外へ乗りに行きたいとせがむ始末だ。

 最終的には馬に擬態したグリフォンのフィオナと仲良くなって、毎日乗せて貰ってる。


 またレベッカの手ほどきで、犬の訓練やナイフ作りにも一緒に挑戦していて、クーガー同様、ふたりは実の姉妹のようになった。

 

 ちなみに、レベッカに指導を受けた犬の訓練をきっかけに、ケルベロスと仲良くなった。

 一緒に生活して分かったが、サキは生来の動物好き。

 特に『猫マニア』であったので、ひと癖あるジャンとも、これまた上手くやっている。

 

 元貴族令嬢のソフィ&グレースのコンビとは、意外?にも小説好きの話題で大盛り上がり。

 聞けば、3人とも恋愛小説が大好きなんだって。

 いつか素敵なヒロインの出て来る作品が書きたいって、鋭意構想中。


 紙芝居の成功で、お子様軍団と一気に仲良くなったサキは、一緒に昔遊びをいっぱいして、完全に童心へ帰っていた。

 元々、子供が大好きなサキ。

 もっともっと、お子様軍団を楽しませたいと、俺やクーガーも巻き込んで、新規の昔遊びを模索している。

 

 こうなると、何かサキって……

 俺の嫁ズ(まだ結婚しては、いないけど……)の中では一番若いのに、もう人生を最高に楽しんでいるって感じ。

 俺に毎日、嬉しそうにいろいろな報告をして来るから。


 そうそう、忘れてた。

 サキは、魔法使いの素晴らしい素養もある。

 ジュリエットにも褒められたくらいだから、本人もやるき満々。

 俺、クッカ、クーガーに弟子入りし、日々修行に励んでいる。


 改めて気付いたけど……

 サキは、誰からも好かれるアイドルキャラ。

 他の嫁ズへの、良い刺激剤にもなっている。

 みんな楽しそうに新しい事に取り組み、いきいきと毎日を過ごしているもの。

 

 例えば、両親がエモシオンに引っ越して、落ち込んでいたリゼット。

 サキと一緒にやった、紙芝居の太鼓がきっかけになったらしく……

 ハーブだけじゃなく、何か音楽をやりたいと言い出すくらい、完全復活したし。

 

 うん!

 確かに、サキは良質の刺激剤なのだろう。

 超が付く前向きなサキが、ボヌール村へ来てからというもの……

 レベッカとの王都行きをきっかけに、盛り上がっていた村の雰囲気が更に明るくなり、まるでターボが掛かったみたいに勢いがついているから。

  

 更に時が流れ、1か月経った……

 

 ユウキ家全員には問題なくOKを貰ったので、結婚話がとんとん拍子に進み……

 俺とサキは村内で、来月にも結婚式を挙げる事となったんだ。

 当然俺は、けじめをつける為、サキへ改めてプロポーズした。

 まじめに、ちゃんと「結婚して下さい」って。

 サキは勿論OKし、再び狂喜乱舞したのはいうまでもない。


 ある日の夕飯後の事、俺とサキは夜の村内デート。

 嫁ズからも後押しされた、サキへの『サービスイベント』である。


 魔導ランプを持つ俺と歩きながら、嬉しそうに喋るサキ。

 今や会話も、普段は肉声だ。

 

 緊急や秘密の会話以外、念話は使わない。

 だからサキは、肉声で思いっきり喋っていた。

 ちなみに彼女の生声は、朝の小鳥が元気にさえずるみたいで、超が付くくらいに可愛い。

 

 まあ、「内緒のNGキーワードだけは喋っちゃ駄目だぞ」と念を押してある。

 例えば『異世界転生』とか、『管理神様』とか、『女神ヴァルヴァラ様』とか……


 さてさて、遥か上空を見上げれば……

 昼間の超が付く快晴が、夜空にも反映され、ボヌール村の上空は降るような星空だ。

 

 前の異世界において……

 サキは『こちらの世界の星空』を経験していなかった。

 だから、ボヌール村の夜空を、初めて見た時は絶句していた。

 

 前世の故郷では、地方都市とはいえ、「あまり星が見えなかった」というサキは何度見たって感動するらしい。


「わぁっ! ケン、空見てぇ! いっつも凄ぉい! ほんと今にも降って来るみたい」


「はしゃぐ」サキの手を引きながら、俺は正門脇の物見やぐらへと、歩いて行ったのであった。

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