第31話「宿命②」

 管理神様が、これだけ喜んでくれている。

 ならば、もう確定だ!

 誓いは果たされ、願いは叶った。

 俺とクミカの魂は、もう永遠に離れる事はないと、天が決めてくれたんだ。

 

 それって……何て、何て……

 …………あ、ああ、俺って、駄目な奴だ。

 こんなに素晴らしい瞬間なのに、ぴったりくる言葉が、全然見つからないや。


『良いか、ケン君! これからはクッカ、クーガー、そしてサキ。3人のクミカを大事にするんだよ』


 感動して、「ぼうっ」としていたら、管理神様が念を押してくれた。

 天が決めたって、安心するな!

 けして油断するな!

 絶対に、この幸せを逃がすなって。

 ジュリエットとは、また違う形の『檄』なんだろう。


 そうか! 

 『3人のクミカ』だ!

 クッカ、クーガー、サキは……それぞれ別の人格かもしれない。

 でも、全て俺の愛するクミカなんだ。

 

 数奇な運命を経て、ひとりは女神、もうひとりは魔王、そして最後のひとりは夢魔……クミカの想いを継いで、また新たに人間へと生まれ変わったクミカ全員と、巡り合った今こそが!

 遠き日に、別離した幼いクミカと……真の再会を果たしたと言えるんだ。


 俺は……

 かつてクミカと交わした『約束』を思い出す。

 もう、絶対に、二度と忘れる事のない約束を。


 あの春の日の光景が、俺の心の中に、鮮やかに鮮やかに甦って来る……

 まだまだ小さな子供だった、俺とクミカが手を繋ぎ、土手の道を並んで歩いている……


「ケン……」


「なあに」


「ケンはクミカのこと、すき?」


「ああ、すきだよ。いっしょにいるとたのしいから」


「たのしい? ううん、ちがう。すきなのきらいなの」


「え? すき、きらい? って、なんだろ?」


「えっとね。すきだったらけっこんできるんだって」


「けっこん!? けっこんってパパやママになることかな」


「そうそう! クミカはママ。ケンはパパになるの」

 

「いいよ! ボクはパパ、クミカはママ。けっこんしよう」


「うん! うんっ! かならずけっこんするんだよっ! ゆびきりげんまん!」


 ……あの美しい、無数の桜の花びらの舞う中で……

 今は亡きクミカと交わした、幼い日の大事な約束を果たす事が……

 遂に! 遂に出来る!

 

 ……死してもなお、転生して俺の下へ来てくれた『3人のクミカ』は、深い愛を告げに、そして永遠の固い絆を結びに来てくれたんだ。


 俺の心が……

 言い表せない喜びで、いっぱいに満ち溢れる。

 

『あ、あ、あ! あ、ありがとうございますっ!!! 管理神様っ! お、俺、本当に頑張りますっ!!!』 


『ああ、頑張れよ! これからも期待してるよ』


『はいっ!!! 創世神様にも、よ、宜しくお伝え下さいっ!!!』


『ああ、分かった。お伝えしておくよ、きっと凄くお喜びになるだろうから』


『はいっ!!! ありがとうございますっ!!!』


『ふふ、でもね……』


 あれ?

 管理神様が笑ってる。

 いきなり、何だろう?


 俺は気になって尋ねてみる。


『え? で、でもねって……何ですか?』


『君はさ、もっともっと頑張らなきゃいけないよ』


 あれれ……もっともっと、頑張らなきゃいけない?

 いきなり、意味深な事をいう管理神様。

 一体、何だろう?


『え? もっともっと? 俺は、頑張らないといけないのですか?』


『うふふ、当然さ! だって凄いよ、ケン君。日々暮らしていて分かるだろう? もうクミカだけじゃないって』

 

『え? 日々暮らしていて……もう、クミカだけじゃないって? あ、ああっ!』


 ちょっと考えて、俺はすぐに気付いた。

 

 そうだ!

 永遠とも言える、宿命の絆を結んだのは、『3人のクミカ』だけじゃないんだって。

 リゼット、レベッカ、ミシェル、クラリス、ソフィ、グレース……

 今や嫁ズ全員がそうなんだって、改めて気付いたんだ。


『あはははっ! やっぱりケン君たら、分かってるじゃないか』


『はいっ! 分かりますよっ! 管理神様!』


『うんうんっ! ケン君はね、もう他のお嫁さん達とも、クミカと同じくらい、深い絆を結んじゃってる。永遠に逃げられないよ、全員くされ縁って事さ』


 やや毒気を含んだ管理神様の祝福が、俺の心を、更に更に満たして行く。

 

 どんどん、どんどん、生きる気力が湧いて来る。

 異界に、意識だけで存在する筈なのに、全身に大きな熱い力がみなぎって行く。


『全然OKですっ! 永遠に逃げられないって、こっちこそ望むところですっ! くされ縁結構! 嫁ズ全員どんと来いですっ! 皆、大好きですからっ!』


『おお、凄い気合だ、これなら安心だよ。……但し、当分の間、サキの事は君だけの胸にしまっておいてくれよ……サキ本人へも含め、絶対に口外しちゃ駄目だ』


『はいっ!!!』


『ああ、そろそろ時間だ。ヴァルヴァラじゃないけれど……こう言おうか。また会おう、ケン君。いずれ運命の輪が、再び重なり交わり合う時まで……さらばっ!』


『管理神様! 絶対にまたお会いましょうっ! 本当にありがとうございましたぁっ!』


 管理神様の、『別れの言葉』が響いた瞬間。

 またの再会を誓い、心からの感謝を伝えるべく、俺は大声で叫びながら、意識を手放していたのであった。

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