第22話「約束と誓い②」

 ジュリエットの心の内を、

 彼女が告げた愛と友情を、

 俺が全て知った上で……

 

 伝えたい事がある……

 ならば、聞かなければならない。

 

 否、俺の方がぜひ聞きたい!


『はい、しかとお聞きします!』


 姿勢を正した俺が、ジュリエットの真摯な視線を、正面から「どん!」と受け止めると……

 彼女は大きく頷き、話し始めた。


『うむ! 女神である私は……ケン、お前の恋人として、妻として運命が交わる事はない。天界のことわりで、女神は人間と結ばれる事を禁じられている。今やお前の妻となったクッカは……本当に特例なのだ』


 元女神で今や俺の嫁となったクッカは特例……

 確かに、超が付くレアケースに違いない。

 

 後から真相は全て分かったが、クッカは元人間だし、女神になった経緯いきさつが経緯だもの。

 俺と結ばれるよう、天界によりシミュレーションされていた。

 

 最初は何も知らなかった俺が、凄く懸念した通り……

 通常は、女神と人間が結ばれる事は、天界のことわりにより、固く禁じられているのだろう。

 

 ジュリエットは、俺を愛してくれた。

 俺と熱く抱き合い、唇を合わせ、心の奥底にしまっていた気持ちを吐露してくれた。

 だが、女神は所詮、人間とは結ばれない。

 厳然たる事実、大いなることわりがある。


 あくまでも淡々と話してはいるが……

 けして表に出せない、切ないその気持ちを抱え、今迄どんなに苦しかっただろう。

 もだえ苦しみ、葛藤した事だろう。

 今の俺なら容易に想像出来てしまう。


 さすがに、すぐには掛ける言葉が見つからない。


『…………』


『更に言えば……人間は死して転生し、また巡り合う事もあるが……私はそうはならない』


『…………』


『何故ならば私は……過去、現在、未来と、永遠の時の流れの中を、人知を超えた存在、不死の女神として生きている。転生しようにも、けして死する事がないから、絶対に不可能なのだ』


 不死の女神……か。

 俺は、子供の頃から、「ぼんやり」と思っていた。

 神様は、死なないだろうって。

 だって、永遠の命を持っているのだから。


 昔からずっとそう思っていたが……

 『本物の女神様』が「そうだ!」と言い切れば、やはり「本当なんだ!」という気持ちが強くなる。

 

 俺はジュリエットの言葉を聞き、王都で会ったオディルさんの強固な意思を持つ言葉、そして我が嫁レベッカの、熱いほとばしるような誓いを思い出していた。

 『死しても巡り合い、何度でも夫婦になる……絶対に!』

 とても素敵な胸に残る言葉、深き想いだと感じる。


 しかし……

 永遠の命を持つジュリエットは、俺とそのような『輪廻』は持てない。

 あくまで、瞬間的に『邂逅』するしかないのだ。

 

『だが、ケン。……私とお前が出会ったのも、愛と友情を交わしたのも、創世神様の定められた運命……私はそう信じる。それ故、結ばれぬとも、またこうして会おう。必ずな……』


 俺とジュリエットが出会い、愛と友情を交わしたのも、創世神様の定められた運命……


 ああ、そうだ!

 その通りだ!


 クミカが転生した女神クッカが、俺と結ばれた……

 最初から運命だったと言えるのとは、また違うケース……

 

 世界の片隅で生きる、単なるちっぽけな人間、俺……

 片や、輝かしい天界の女神様であるジュリエット……

 ゼロに近い可能性から出会って、気持ちを通じ合い、ここまでの深い想いを共有出来た。

 

 こんな奇跡、創世神様の定めた運命に間違いない。

 そう信じないと、到底説明なんか出来ない。

 

 ……俺は、ジュリエットの言葉に胸が熱くなっていた。

 

 運命の出会い!

 運命の愛と友情!

 それ故、また会える!

 絶対に会える!

 俺も、そう信じたい。

 

 だから、約束する。

 きっぱりと、言い放つ。


『ああ、ジュリエット! また会おう、必ず! 約束だ!』


『おお、ケン、約束だ! 必ず会おうぞ!』


 ジュリエットは俺と片手ではなく、両手で固く「がっちり」と握手をした。

 何か、特別な儀式のような気がする。

 人間と女神が結んだ絆、愛と友情の、強固なあかしとして。


 更に、ジュリエットは声を掛ける。

 傍らに居て、俺達の『やりとり』を食い入るように、見ていたサキへ。


『サキ!』


『は、はい! ジュリエット様!』


『良いか、サキ。お前とケンで永遠の輪廻を持て! 何者をしても、けして断ち切れぬほどの強い絆を作り上げよ! ケンと深く深く愛し合うのだっ!』


 サキはずっと俺達の話を聞き、ジュリエットの想いに共感し、感極まっていたらしい。

 ジュリエットの『檄』に対し、大きな声で応える。


『はいっ! ケンと真剣にっ! あ、愛し合いますっ!』


『うむ! サキよ! お前が転生し、ケンと巡り合ったのは必然の運命……すなわち宿命だと信じるのだっ!』


『はいっ! 信じますっ!』


『よしっ! 気合の入った良い返事だ! 確かにお前は、前世で不幸にも若くして死んだ……とても哀れであった』


『…………』


『だがなっ、サキ! 新たな世界へ、お前はっ! 宿命により、ケンと巡り合う為に生まれ変わって来た! そう、強く強く信じるのだっ!』


『はいっ! 絶対に信じますっ!』


 熱く熱く語るジュリエットの言葉は、サキの胸を激しく打ったようだ。

 俺との出会いは運命……否、宿命なのだと。 


『ジュリエット様! 私は改めて誓いますっ! サキはジュリエット様のお言葉を励みとして、ケンと共に生きて行きます! 死んでもまた必ず! ケンと巡り合ってみせますっ!』


 気迫みなぎるサキの決意を聞き、今度はジュリエットが感極まったようである。


『ふむ、あっぱれだ……よくぞ、申した、サキ。お前の素晴らしい覚悟、しかと聞かせて貰ったぞ』


『はいっ!』


 サキの返事を聞いた、ジュリエットは……

 大きく息を吸い、そして吐いた。


 まだジュリエットは……

 彼女自身、何か言いたい事がある。

 もっと、告げておきたい事がある。

 

 そんな『予感』がした俺は、ジュリエットを「じっ」と見つめたのであった。

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