第28話「4度目の奇跡」

 管理神様が仰る、『もうひとつの良い事』って、何の話だろう?


 俺は、浮かれていた気持ちを引き締める。

 こんな時は、大抵とてつもなく重要な内容の話だから。


『ケン君は、ヴァルヴァラの告げた言葉を、覚えているって言っていたね』


『ええ、忘れられません』


『うん、ヴァルヴァラは、確かこう言った。……ケン君とサキの出会いを宿命にするよう頑張れって』


『はい! サキへ素晴らしいげきを飛ばしてくれました。でも俺の心にも大きく響いたんです』


 そう!

 ヴァルヴァラ様は、サキへ大きな『プレゼント』をしてくれた。

 お陰でサキは、『本気』になれたのだから。


 と、思ったら。


『ケン君』 


 俺の名を呼ぶ、管理神様の声が、いきなりおごそかになる。

 ズシン!と、とんでもない重みが加わった。


 ああ!

 な、何か!

 管理神様から、とんでもない話が始まる。

 そんな確信が俺にはある。


『宿命にしろ……か。……真実は、ヴァルヴァラですら知らない……』


『真実? え? ど、どういう意味でしょうか?』


『もしも……ケン君とサキの出会いが……最初から宿命だったとしたら?』


『え!? さ、最初から?』


 何だ、それ?

 俺とサキの出会いは『偶然』だろう?

 

 単に人手不足……

 いや神様不足になって。 

 サポート神の仕事が手一杯になったから。

 

 管理神様は、他に頼める者が居らず、俺に白羽の矢が立った……

 ただ、それだけの筈だろう?


 しかし、管理神様の雰囲気は尋常ではない。


『ケン君、単刀直入に言おう』


『は、はい…………』


『サキはあの、リリアンの生まれ変わりなんだよ』


『え?』


 な、な、な、何!!!

 な、何だ、それはっ!!!

 

 さすがにショックだった。

 文字通り衝撃の事実だ。

 俺の頭の中が……真っ白になって行く……


『ええ!? えええええええええっ!? サ、サ、サキが!? リ、リリアンのっ! じゃあ! ク、クミカのっ!!!』


『ああ、そうさ。もう一度言おう、サキは夢魔リリアン……すなわち君の想い人クミカ・サオトメの生まれ変わりなのさ』


『あ、あうあうあう……………』


 情けないけど……声がろくに出ない。

 それくらい、俺にはショックだった。


 管理神様の声は、相変わらず厳かながら、淡々と真実を告げて行く。


『リリアンの事は、当然覚えているだろう? ……ケン君』


『は、は、はいっ! お、お、お、覚えていますともっ! ぜ、ぜ、ぜ、絶対にわ、忘れやしませんっ!!!』


 やっと声が出るようになった俺は……

 とんでもなく盛大に噛みながら、何とか管理神様の問いに答えた。

 

 そんな大混乱状態の俺に対し、管理神様は念を押すように聞いて来る。


『夢魔リリアンは魔王クーガーの魂の一部……魔王の持っていた、唯一の良心だったよね?』


『そ、その通りです……』


『……リリアンは可哀そうな子だった……とても健気けなげな子だった……』


『は、はい……』


『ケン君と、今は亡きクミカの愛の成就……クッカとクーガーの奇跡的な転生を喜び、君が幸せになったのを見届けると……自分は潔く夢の中で砕け散り、消滅してしまった……』


『……………』


 そうだ、忘れようたって、忘れない……

 絶対に、一生忘れやしない。


 リリアン……生まれ変わった最後のクミカ……

 

 衝撃的なリリアンの死は……俺をひどく打ちのめした

 ひどく悲しかった……

 ※夢魔の行方編参照


 夢魔リリアンが見せてくれた、もう幻となってしまった故郷の夢の中で……

 俺は、リリアンと……子供の頃、初恋の相手クミカと遊んだようにデートをした……

 そして……

 桜の花びらが美しく舞う中で、リリアンと最後の……そう!

 『サヨナラのキス』をしたんだもの。


 俺とキスをしてから、リリアンは死んだ。

 無残に、はかなく砕け散ってしまった……


 で、でも!

 リリアンと!

 いつかどこかで必ず!

 生まれ変わって会おうって誓った。

 俺は、永遠の誓いを立てたんだ。


 その誓いが……

 否、心の底からの願いが!

 奇跡的に叶っていたなんて!

 

 そうだ!

 これって、また俺に起こってくれた、奇跡なんだ。

 もう何度目の奇跡だろう?

 ああ、今は気持ちが一杯で、回数なんて、分からない!

 

 イレギュラーな存在だった筈のリリアン。

 魂の欠片かけらだったリリアンは、奇跡的に転生していた。

 サキ・ヤマトという、可愛い女の子に転生していたんだ……

 

 そして!

 俺はサキに……

 リ、リリアンに……ふ、再びっ!

 め、巡り合う事が出来たんだっ!

 

 す、凄く嬉しい!

 嬉しいよぉっ!!!


 興奮する俺に対し、管理神様は淡々と話を続ける。


『ケン君が、今は失われてしまった、ふるき良き、故郷の風景を映した夢の中で……叫んだ願い……』


『俺の願い……』


『魂の慟哭ともいえる君の叫び……リリアンを生かしてくれ! 死なせないでくれ! そんな心の底からの願い……が、僕に届かなかったとでも思うのかい?』


『そ、そ、それじゃあ!?』


 そうだ!

 あの時、俺は、何度も何度も叫んだ。

 管理神様へ、呼び掛けた。

 一生の願いよ、届けと!

 しかし……いくらお願いしても……

 管理神様の答えは……返って来なかった。


『本当は……ケン君の望みを叶えてあげたかった……』


 静かに語る、管理神様の言葉から、深い深い悲しみが……

 俺に優しく波動として、しっかり伝わって来る。

 

 ああ、俺が感じたのと同じ悲しみを……

 管理神様は、しっかり共有してくれたんだ。


 話を聞きながら、だんだん俺は落ち着いて来た。

 

 そうだ。

 とりあえず、もっと話を……

 最後まで、全部話を聞こう。

 否、聞かなくては……

 何故ならば、管理神様は、まだまだ俺へ……

 伝えたい事が、「たくさんある」って分かるから。


『ありがとうございます……管理神様、俺は嬉しいです。凄くお気遣い頂いて』


『ありがとうなんて……僕は全く無力だった……君の願いに対し、応えられなかったからね……本当に、申し訳ない……』


 何と!

 管理神様が……

 詫びた!?

 

 謝られてしまった。

 今迄、お礼は言ってくれても、謝るなんて絶対になかったのに!


 思わぬ事態に、俺は呆然としてしまったのであった。

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