第27話「もうひとつの良い事?」

 俺の気持ちが伝わったのか、管理神様はすこぶる上機嫌である。


『ははは、そこまで気を遣って貰って嬉しいよ。でもサキを導いてくれた事に、僕が感謝しているのは本当さ』


 へぇ?

 そんなにサキの行く末に感謝するなんて……

 何故だろう?

 でも、まあ良いや。

 深く考えても仕方がない。


『まあ、サキはある意味、同郷ですから。転生者同士なら適任と仰っていた管理神様のお考えが良~く分かりました。いつもの事ながら、さすがだなと思いました』


『うん! 僕の言った通り、やっぱりサキとは上手くやれただろう?』


『ですね! それに……』


『それに?』


『はい! けしてサキの為だけじゃない、今回は俺の為にもなりました』


『ケン君の為?』


『はい! さっきも言いましたが、臨時で代理とはいえ、神様になった経験は素晴らしかったです。そして、サキには俺が忘れていた、懐かしい気持ちを思い出させて貰いましたから……本当にありがとうございました』


 そう!

 これは俺の本音。

 サキの事だけじゃなく、管理神様には、いろいろな意味で感謝しているんだ。


『うんうん、忘れていた懐かしい気持ちをか……良く分かるよ』


『それに俺、ジュリエット……じゃなかった、ヴァルヴァラ様が仰った言葉にも胸を打たれました。気合を入れられました。これからより一層頑張って、家族を幸せにします』


『そうだね……ケン君のお陰で、ヴァルヴァラも見違えるほど成長した』


『え? ヴァルヴァラ様が成長って?』


『ああ、凄く成長したよ。今迄のヴァルヴァラはさ、冷血と散々呼ばれた、情けも容赦もない、戦女神いくさめがみだったから』


『え? 冷血? 情けも容赦もない?』


 ええっ?

 あのヴァルヴァラ様が?

 最初に会った時だって、そんな印象はなかった。

 勇者になる、ならない、とかのやりとりだって、何となくユーモラスな雰囲気があったもの。

 

 俺が吃驚する中、管理神様の話は続いている。


『うん、今迄は本当にそうだった。ヴァルヴァラは後方支援課へ配属になってからも、サポートする対象者へはスパルタオンリー、見込みがないと思えば、厳しく突き放していたからね』


『…………』

 

『だがヴァルヴァラは、君によって、生まれて初めて温かい愛を知った。あのラウルという弟子に対し、あんなに強い思い入れをしたのも……君を一途に愛した事が原因なんだよ』


『…………』


 ヴァルヴァラ様……

 そう……だったんだ。

 確かに、初めて会った時に比べ、彼女の印象はガラリと変わった。

 今や、麗人ジュリエットの方が、『素』だと思うもの。


 「つらつら」と考える俺。

 管理神様は、更に話を続けて行く。


『君と出会いヴァルヴァラは変わった。そして再会の誓いを立ててからは、より前向きとなった。仕事が大雑把ではなく、とてもきめ細かくなった。サポート対象者に対し、優しい気配りや励ましも出来るようになったんだ』


『それは! 本当に良かったです!』


 おお!

 ヴァルヴァラ様が大成長したなんて!

 俺、少しでも彼女の役に立てたんだ。

 凄く、嬉しいぞ。


『まあ……心の彼氏であるケン君の力は、とても偉大だって事だよね』


 心の彼氏って……何か、もの悲しい表現だけど……

 でも光栄だ。

 俺なんかを、励みにしてくれるなんて最高だもの。


『結果、同じ原因で凄い気合のケルトゥリと、滅茶苦茶張り合ってる』


『滅茶苦茶? ヴァルヴァラ様が張り合う? ケルトゥリ様と? それに同じ原因って何ですか?』


『あはは、質問の嵐だねぇ。うん! 張り合うと言っても仕事の話さ。後方支援課の成績順位のトップ争いをしているんだよ。今期のトップ成績をあげた者が、来期はS級に昇格出来る約束だから』


『へぇ! そうなんですか』


 ヴァルヴァラ様とケルトゥリ様が火花を散らす、後方支援課の成績トップ争い?

 まるで人間の会社の営業部か、何かみたい。

 凄くリアルな話だ。


『ああ、今回の件ではね、ケルトゥリに散々文句を言われた。ヴァルヴァラだけ贔屓ひいきして、ずるいってね。ケルトゥリも君のお陰で成長出来たと、僕に告げて来たもの』


 え?

 ケルトゥリ様も?

 俺が原因で成長出来た?


『だからさぁ、ケルトゥリったら、ぜひケン君に会って話したい事があるそうなんだ』


『は、はぁ……話したい事……ですか?』


『ここまで言えば……ケン君には、いろいろ心当たりあるでしょ? うふふ』


 いろいろ心当たりって……あのね……

 あ、そうだ。

 フレデリカの事が気になる。

 もしもケルトゥリ様に会う事が出来れば、フレデリカの近況だけは聞きたいな。

 あいつ、元気で、そして幸せになっていて欲しい。


『まあ、ケン君がケルトゥリに会えるかどうかは、僕が決める事じゃない。運命の神が決める事だから』


『そうですね……今回、ヴァルヴァラ様にお会い出来たのも運命ですしね』


 俺はそう言うと、思いを馳せる。

 クミカの死、そして俺の死と異世界転生。

 いろいろあって……今がある。

 今回のサキとの出会い、ジュリエットとの愛の交歓だって、運命神の導きなのだろう……


『ええ、俺は凄く幸せです』


『そうか! では凄く幸せなケン君へ、もうひとつ良い事を教えるよ』


『もうひとつの良い事……ですか?』


 まだ、何かあるのだろうか?

 俺は全然想像が出来ず、?マークを浮かべてしまったのだった。

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