第29話「悲しみから歓びへ」

 管理神様の意外な謝罪に対し……

 暫し、呆然としていた俺であったが……

 再び、熱い喜びが、こみ上げる。

 

 だって!

 俺なんかに、管理神様が……

 こんなに、こんなに!

 強い思い入れを、してくれていたなんて。

 

『い、い、いえ! 俺! か、管理神様のお気持ちだけでっ!』


『ははは……ケン君、少し大袈裟だよ』


『そんな事ありませんっ! 管理神様! 俺、俺! 本当に嬉しいんです!』


『……ありがとう、ケン君。君の願いを叶えられなかった事は……申し訳ないけれど……どうか、理解して欲しい』


『管理神様…………』


『……創世神様はね、広大な全宇宙そのものさ……僕にとっては、怖れ敬う、偉大なあるじなんだ』


『……………』


『神々のあるじである、創世神様が定めた崇高なことわりを、たかが神のひとりに過ぎない僕が……曲げる事は、絶対に出来ない……けして許されないんだ』


『……………』


 俺は黙って、管理神様の言葉を聞いた。

 何も、言えるものではないから。


『では、ケン君への話を続けよう』


『はいっ!』


『そもそも死んだリリアンは、魔王の魂の欠片かけらというイレギュラーな存在だった』


『……………』


『……でも神々から、彼女の清廉さ、誠実さが高く評価され、奇跡的に別の人間へ転生する事が出来た。それがあの子、サキ・ヤマトなんだ』


『……………』


 イレギュラーな存在、夢魔リリアン。

 彼女の転生者が……サキ・ヤマト。

 俺の心へ、再びしっかりと、衝撃の事実――『4度目の奇跡』が刻まれた。


 しかし、俺には、新たな疑問が浮かんで来る。

 

 でも?

 どうして?

 こうなったんだろう?

 

 俺とサキは何故、再び巡り合う事が出来たのだろう?

 

 いつかは……リリアンと再会し、結ばれたい……

 二度と離れずに、一緒に暮らして行きたい。

 人生を共にしたい。


 リリアンが死んだ時……

 心に刻んだ俺の誓いがある。

 でもその願いが叶うのは、並大抵の事じゃない。

 も、もしかして、管理神様が頼んでくれた!?


 そんな俺の疑問に答えるように、管理神様は話して行く。


『君は何故、リリアンと巡り合う事が出来たのか……教えよう』


『……………』


『そもそも、違う世界……つまりケン君の元居た世界に生まれたサキは……君とはもう、運命の輪は交らない……全く関りのない人生を歩む予定だった』


『……………』


 俺とはもう巡り合えない……

 本来、俺とサキは、リリアンはそんな運命……

 願いは叶わない。

 ……ショックだった。


 ……でも俺はすぐに思い直した。

 リリアンがサキとなって、新たに幸せな人生を歩んでくれれば、それで満足なんだって……


 だけど、管理神様は衝撃の事実を告げて来る。


『しかし不運な事に……生まれ変わったサキの運命は、クミカやリリアン同様……はかなかった………きまぐれな運命神から、僅か16年の人生しか与えられなかったんだ』


『え!?』


 驚いた!

 サキの人生が、たったの16年だけなんて?

 

 奇跡が起こり、生まれ変わる事が出来たリリアンが!

 折角、新たな幸せを掴もうとしたクミカが! 

 ……そんなの、酷い、酷すぎるっ!

 

 ……かつてクミカは突然の死を迎えた際、むごい運命を悲しみ、運命神を呪ったという。

 畏れ多くも、神を呪うなんて……と、俺は思った事もある。

 

 でも、今の俺には……

 クミカの気持ちが、凄く良く分かる。

 そんなこと考えては、絶対にいけないんだろうが……あまりにも理不尽だから。


『ケン君、サキが死んだ原因は、本人から直接聞いただろう?』


『は、はい……』


『サキが交通事故で無残に死んだ時……僕は申し入れをした。あまりにも可哀そうな運命を背負ったサキを転生させ、ケン君に再び引き合わせて欲しいと……』


『……………』


 やっぱり!

 管理神様は、俺の為に頼んでくれていたんだ。

 俺とサキを引き合わせて欲しいと、頭を下げて、頼んでくれたんだ。


 俺には浮かぶ。

 心の中に。

 管理神様が、他の神々にひたすら頭を下げて頼んでいるシーンが。

 神様なのに、凄く人間っぽい感じで……

 

 バチがあたりそうな、変な想像かもしれない。

 だけど、俺は凄く嬉しい。


 でも、あれ?

 ……何か、管理神様の声に元気がない。

 先ほど、俺に詫びたのと全く同じ波動が伝わって来る。

 自分は、無力だったって……


『でも……僕以外の神々は、猛反対した』


『猛、反対……他の神様が……』


『ああ、僕の願いはあっさり却下されたんだ。あまりにも僕が、ケン君へ肩入れし過ぎると言われてね……ははは、自分でもそう思うよ』


『……………』


 管理神様が、お願いしてくれて嬉しかった。

 本当に!

 残念ながら……

 他の神様達に却下されてしまったけど。

 

 でも!

 俺とサキは結局、出会う事が出来た!

 それは?

 何故?

 何故なんだ!


 改めて浮かんだ、俺の疑問に対し……


『あ?』


 思わず、俺の驚く声が出てしまったのは、とても吃驚びっくりしたから。


 何と!

 管理神様から……

 先ほどまでの、悲しみの波動とは全く違う、大きな歓喜の波動が伝わって来たのだ。

 

『でもね! ある御方が仰ったんだよっ! ケンとサキを、引き合わせてやれとね!』


 いつの間にか、管理神様の口調も、ガラリと変わっていた。

 嬉しそうに!

 とても嬉しそうに!


 でも?

 ある御方って……


『管理神様、あ、ある御方って?』


『ケン君! どなただと思う?』


『い、いえ……分かりません……』


『創世神様さっ!』


『え!? 創世神様?』


 俺は一瞬ポカンとした。

 何だろう?

 今、とんでもない事を聞いた気がする。


 管理神様は、呆然とした俺へ、もう一度言ってくれる。


『ああ、君とサキを引き合わせてやれと仰ったのは、創世神様なのさっ!』


『そ、そ、そ、そ、創世神様ぁぁぁぁっ!?』


 俺は、あまりにも衝撃的な事実を聞き……

 思いっきり、噛んでしまったのであった。

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