第7話「レベッカと王都で①」

 2週間後…… 


 俺とレベッカは、王都セントヘレナの正門前へ来ている。

 嫁とふたりっきりで王都へ来るのは、……グレースと来て以来だ。


 ……例の、あの夜の打合せで、リゼットから特別な『提案』があった。

 特別な『提案』とは……俺とレベッカだけで行く、王都への小旅行企画である……

 

 趣旨は、レベッカの新たな『夢』探し。

 

 でも、レベッカへストレートに言うと『ベタ』になる。

 最初から『将来の夢探しの旅』へ行こうなんて、「ずしっ」と重くなるし、彼女に変なプレッシャーもかかる。

 

 だからレベッカへは内緒にして、長年頑張ってくれた慰労の為の、単なる観光旅行だと伝えてある。

 それに、もしも『夢』が見つからなくたって、構わない。

 気楽に俺とふたり、夫婦水入らずの旅を楽しんでくれれば良いもの。 


 グレースの時もそうだったが、このような企画って、必ず周囲への『根回し』が必要になる……

 

 何で? いきなりレベッカだけを特別扱い! なんて他の嫁ズから不満が出てしまうから。

 そこで、クッカとクーガーだけ俺が直接『趣旨』を話し、後の嫁ズへはリゼットが上手く伝えてくれた。

 てな、理由わけで、真相を知らないのはレベッカ本人だけである。


 まあ、ずっと内緒にはしない。

 頃合いを見て、「さくっ」と告げる。


 さてさて……

 聞けば、レベッカは生まれて初めての王都らしい……

 と、いうか……

 これほど遠くまで、旅行したのも初めてだそうだ。

 

 加えて、俺とふたりきりだから、超が付く『うきうき気分』である。

 遅まきながら、新婚旅行という趣き。

 この異世界では、新婚旅行なんて風習はないのであるが。


 ちなみに……

 何度も言うけれど、王都まではまともに旅はしていない。

 俺の転移魔法で、「ちょちょいっ」とズルして来た。


 時間の節約と道中における危険回避の為であるが、レベッカとは事前の打合せ通り、ボヌール村からの長旅を装う。

 冷静に、大人しく、目立たず……

 

 しかし王都の威容を目の当たりにしたレベッカは、そんな取り決めをすっかり忘れてしまったようだ。


「わあ、ダーリン、見て見て! すっごいよぉ! 高い壁ぇ」


 と、城壁を見上げて大声をあげ、


「ねぇ! あんなに、た、たくさん人が居るよぉ! 何、あの行列!」


 と、正門へ並ぶ人々を指さして、鼻息を荒くする始末。

 外敵から王都市民を守る城壁や、入場待ちの大行列を見て、興奮度MAXのレベッカ。

 気持ちは凄~く分かるけど、まるで子供のように、はしゃいでいる。


 「きょろきょろ」しているレベッカの手を引いて、俺も行列の最後尾に付く。

 嬉しさ一杯のレベッカは、まだ興奮が収まらない。


「うわぁ、全部大きいねぇ! スケールが桁違いだねぇ! ボヌール村やエモシオンと比べ物にならないよぉ。ねぇ、ダーリン!」


 何か、見ていると、レベッカが愛しくて堪らない。

 心の底から、旅行に来た事を喜んでいるから。

 だから、俺も嬉しくなって返してやる。


「おお、そうだな……うん、人口だけでも、エモシオンは約1,500人だが、王都は5万人だから、楽に30倍以上の規模だ」


「ご、ご、ご、5万!? な、何それぇ!? じゃ、じゃあ! わ、私達のボヌール村は100人だから……ええっと、50倍?」


「いや、500倍だって」


 俺が即座に訂正してやると、レベッカの顔は真っ赤に。


「うっわ! 恥ずかしい、計算間違った」


 でも、ここで揚げ足取りなどしない。

 これから言う事は、半分以上が嘘だけど、さりげなくフォローしよう。

 

「あはは、俺なんか初めて王都へ来た時は、お前以上に緊張したよ」


「え? ダーリンもそうだったの?」


「おお、全身ガクブルだった」


 俺が身振り手振りを入れて説明すると、レベッカは爆笑。


「あははははははっ、何それ? 全身ガクブルって? 可笑しいっ」


 破顔するレベッカ……


 俺は我が嫁を見て、思わず頷いてしまった。


 うん!

 王都でもレベッカは目立つ。

 何故って?

 理由は当然、美しいから。


 25歳になったレベッカは、出会った頃の雰囲気に大人な魅力が加味されて、本当に凄い美人さんになった。

 

 例えれば、前世で俺がテレビなどで目にしたスーパーモデル。

 髪は、ストロベリーブロンドと呼ばれる赤毛レディッシュっぽい金髪のショートカット。

 凛とした、ボーイッシュ&野性味のある顔立ち。

 瞳は、深い灰色。

 スレンダーで足が長く、スタイルは抜群。


 凄いよ、レベッカ、お前って。

 前衛的な服に身を固め、世界を股にかけて活躍するス-パーモデル達にも、けして負けない。


 ちなみに今日の俺達は冒険者風ファッション。

 衣装は当然、プレゼンテッドバイ、クラリス。

 俺が渋い鉄紺の法衣ローブで、レベッカは黒の革鎧。

 パッと見は魔法使いに、シーフって感じ。


 え?

 レベッカなら、アーチャーだろうって?

 いやいや、今のレベッカは、狩りの時みたいに弓を背負っていないからね。

 素早さ、身軽さ満点のシーフって感じなんだ。


 まあ……そんなこんなで漸く俺達の順番となった。

 あれ?

 門番さんの顔、見覚えがある。

 この人は……


「お前の名はケン・ユウキ? ……ふむ、我が王国のボヌール村村長代理か、それで連れている女はお前の嫁か? 何でふたりとも冒険者風なんだ?」


 質問を連発しながら、訝し気な表情で俺を見る門番さん。

 続いて、連れているレベッカを見る。


 俺は大きく頷き、きっぱりと言い放つ。


「はい、確かに俺はケン・ユウキ、ボヌール村村長代理です。そして彼女は愛する嫁のレベッカ。この服装は俺と嫁の個人的な好みだし、最も旅行向きなんで」


「んんん? 何か既視感があるぞ。以前もお前に会った気がする」


 大柄なおっさん門番は、しかめっ面をして首を傾げている。

 毎日、毎日凄い人数を捌くのに、この俺を覚えているなんて、たいしたものだと思う。


「当たり! お久しぶりでっす」


「むむむ……やはりか! でも、何だ? 今回は違和感がある」


「へぇ、既視感の次は、違和感がありますか?」


「確かにあるっ! む~っ、何だ……あ、ああっ! 思い出したぞっ! そ、そうだっ、連れている嫁が違うっ! 前のに劣らず、これまた凄い美人だっ」


「はい、確かに違いますね。そして仰る通り凄い美人です」


「くうう、何だ、その冷静で得意げな反応は?」


「ええ、門番様のお言葉通り、今回は違う嫁を連れて、王都へ遊びに来ました。はっきり言って自慢してます」


「あ、あんだとぉ! 大爆発しろ、お前はぁ!」


「…………」


 俺と門番がやりとりをする間、レベッカはずっと黙っていた。

 俯いていた。

 そして、入場手続きが済み、王都の中へ入った瞬間。


「あははははははっ!!!」


 レベッカは、顔を上げ、弾けるような大声で笑ったのであった。

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