第5話「リゼットの本音①」

 クッカと話した翌日の朝……

 俺は「相談がある」と、リゼットに申し入れて『時間』を貰っていた。

 相談内容は……クッカと話したタバサの件である。


 リゼットとの打合せ時間は、またも夜となった。

 他の嫁ズには、最後まで内緒にするわけではない。

 だが、話が話だけに、皆が寝ている夜の方が目立たなくて良い。


 何故、まずリゼットに声を掛けたのか?

 それは、彼女がジョエル村長の娘で、第一夫人である事。

 且つ嫁ズの中心にあって、我がユウキ家のまとめ役でもあるから。

 クッカと話した件はタバサだけではなく、他の子の将来の問題にもかかわる可能性があるので、『話』だけ通しておこうと考えたのだ。

 

 最近の家族会議を含めた打合せの進行役は、殆どがリゼットなのだ。

 これって……

 いわゆる家庭内の『序列』という奴だが、この異世界では結構気を遣うべき大切なものらしい。


 そんなこんなで、いつもの事ながら……

 仕事のせいでふたりとも忙しく、あっという間に夜となった……


 俺とリゼットは、頃合いを見て昨夜と同じ部屋に入り、向かい合っていた。


 今回は真面目な話し合いだが、最初から固くなって話すと駄目な気がした。

 なので、ちょっとだけ飲む。

 飲み過ぎて酔っぱらうのは論外だが、リラックスする事は必要だもの。

 ちなみに、リゼットは結構酒が強い。


 昨日のクッカ同様、まずはリゼットと軽くワインで乾杯。


 カチンと、陶器同士のぶつかる音が響く。


「乾杯」

「乾杯、旦那様、お疲れ様です」


「おお、御免、リゼットこそ、お疲れ様だぞ」


「そんな! ありがとうございます、それでお話って何ですか?」


 乾杯の後、お互いにワインを、ひと口だけ飲み……

 早速リゼットが、相談内容を聞いて来た。

 俺の真面目な表情を見て、大事な話だって、分かっているみたい。


「実は……」


 簡潔だが、丁寧に分かり易く、昨夜行われたクッカとの話し合いを伝えた。

 当然だが、クッカとのイチャ部分は割愛。

 最終的にはクッカが、タバサの自主性に任せる事で了解した事もしっかり伝えた。


 リゼットは、とても聡明な女性である。

 事実関係と、俺とふたりきりで相談する意味を、速攻で理解したようだ。


「成る程……お話は良く分かりました。御免なさい、私、タバサの事、全然気付きませんでした……旦那様、いつも私達家族へのお気遣いとご配慮、本当にありがとうございます」


 頭を深く下げるリゼット。

 彼女は、母フロランスさん似のしっかり者で、良妻賢母を地で行くタイプだ。


 否、それだけじゃない。

 もはや第一夫人として、圧倒的な存在感を示すリゼット。

 家では俺を超える長として、君臨しているかも。


 いろいろと、とんでもない事を言ってしまったが……

 ようはリゼットって、凄く頼りになる嫁って事。

 最近、エモシオンに行く事が多くなって、村を留守がちな俺をばっちり助けてくれている。


 閑話休題。

 リゼットに謝られたが、俺だって……


「いやいや、俺も駄目だ。タバサの悩みに全く気付いてなかったよ。困ったタバサから直接お願いされたから」


「うふふ、でも今回は素早く対応して頂き助かりました」


「おう!」


 うん、そうだ。

 でも今回は運も良かった……

 クッカも素直に聞いてくれたから。


 あれ、リゼット……目がちょっと遠い。

 少し羨ましそうだ。

 何故?


「でも……旦那様、タバサったら、あんなに小さいのに……やりたい事をパパに直訴するなんて凄いわ……」


「だな」


「なのに……タバサに比べて、フラヴィは甘えるのが仕事で、将来の事なんてまだまだ……大丈夫かしら?」


 リゼットは少しだけ、『対抗心』を燃やしたようだ。

 自分の娘フラヴィへ、ほんのちょっぴり、不満を見せた。


 いやいや……

 今回は……タバサが凄すぎるんだ。

 まあ、リゼットの気持ちも分かるから、そんな事は絶対に言えないけど……


「フラヴィは、タバサより年下じゃないか」


「…………」


「大丈夫! 幼児ならフラヴィの方が当たり前。タバサがおませ過ぎるのさ」


「だと良いんですけど……」


 口籠るリゼット……

 俺は何とか雰囲気を変えようと、意見を求めたのである。


「それで、リゼットはどう思う。まだ第二、第三のタバサが居るかもしれないぞ。子供がやる気を見せているのに、親がやりたい事を阻害するのは良くないと思うけど……」


「確かに……そうですね」


「うん! 子供達の大事な将来にかかわるし、俺達で今のうちにすり合わせしておいた方が良いと思う」


「旦那様の仰る通りですね。少なくともタバサと同世代の、レオ、イーサン、そしてシャルロットとは話しておく方が良いかもしれません」


「だよな……実は俺、その中で一番気になるのはイーサンなんだ」


「イーサン? あの、レオじゃなくて?」


「ああ、最も心配しているのは、レベッカと息子のイーサンなんだ」


 首を傾げるリゼットへ、俺ははっきりと言い放ったのであった。

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