第18話「敵情視察」

 朝食を摂ってから、「ささっ」と出かける用意。

 でも嫁ズが一緒だと、若干時間がかかる。

 彼女達には、化粧と身だしなみが必須なのである。

 地元のボヌール村ならともかく、ここはよそ行きであるエモシオンの町。

 男の俺はいつもと同じ出で立ちでも気にしないが、嫁ズ女性陣は拘りがあるのがお約束なのだ。


 1時間ほどして嫁ズの支度が終わり、「さあ、出撃だ」と思ったら、城館の従士より、ふたりほど更に参加すると連絡が入る。

 ひとりは、まあ予想通り、アンリ。

 彼のやる気を見る為に敢えて指示をしないでおいたら……同行を申し出て来た。

 

 そして、もうひとりは何と!

 昨日助けた、エマさんである。


 朝食後、エマさんの『就職活動』はスムーズにいったようだ。

 オベール様達との『面接』は約30分で終わり、使用人としてこの城館で働く事が正式に決まったという。

 その後は30分ほど、違う話をしていたらしい。

 

 でも良かった、本当に良かった。

 この町で、エマさんは新たな人生を踏み出す事が決まって。

 オベール家の城館に住み込みならば、防犯的にも最高だろうから。

 不幸にも心に刻まれてしまった、エモシオンという町に対する、不安や恐怖も薄らぐだろう。


 オベール家に就職決定したエマさんは、イザベルさんから、「気分転換がてら俺達に同行し、この町に慣れて来たら」という、ありがたいアドバイスを受けたという。

 うん!

 イザベルさん、気配り上手。

 更に俺の勘が、深謀遠慮の気配も感じている。


 ふたりの同行だが……

 とりたてて断る理由もないし、そもそもアンリは俺が面倒を見ると決まっている。

 結局、俺を含め、8人の一個連隊で出かける事となった。


 こうして……

 俺達が町中へ出ると、昨日と町の人の反応が違う。

 あちこちから、声がかかる。

 昨日、俺が暴漢を倒して、エマさんを救った事を知っているのだ。


「やったぁ、宰相様万歳!」

「これからも私達を助けて下さい、お願いします!」

「頼もしい!」


 ああ、正直嬉しい。

 基本的に、自分の名前が広まるのは嫌だが……

 このエモシオンの町、限定なら仕方がない。

 幸い、派手に魔法をぶっ放したりはしてはいないから、『領主の義理の息子&少し腕っぷしの強い兄ちゃん』くらいのレベルで認識されているみたい。


 さて閑話休題。

 俺達がやっておかねばならない、『ボヌール村の用事』はいくつかある。

 まず優先するのは大空屋の販売商品の仕入れ、次いでアンテナショップの開店に伴う情報収集と準備である。


 でも、これって両立出来る。

 仕入れと競合商品の情報収集は、市場や商店街において同時に行えるのだ。

 まず仕入れだが、購入するものは今迄と変わらない。

 基本的に村で生産できないものや、無理に作ろうとしてもコストと時間がかかるもの。

 つまり自給不可能な日用品である。


 村民の制服ともいえる農作業着――ジャーキンに、ホーズ。

 更に肌着に帽子。

 ほうき熊手レーキ、鉄製の鍋や包丁。

 村民から依頼された家具、クラリスも使う服の材料となる綿やリネン等の布地。

 怪我をした時の為の包帯、各種の薬など。


 娯楽や趣味用の品も忘れない。

 紙と筆記用具、古本を少々。

 そしてリボンや髪留め、指輪など女性向けの装身具も。


 俺達はもう何度も来て、何度も値段交渉&取引しているから売っている相手とも顔なじみ。

 商品の種類と品質は把握しているし、値段の着地点も分かる。

 買った商品はオベール様の身内になる前は、宿泊した宿屋の倉庫に預かって貰っていたが、今は違う。

 オベール様の城館へ、直接納品して貰っている。


 仕入れの時は、いつも慌ただしいが……

 アンリの奴、進んで雑用を買って出ている。

 労をいとわず、良く働くという感じで、相変わらず笑顔が爽やかだ。


 片や、エマさんも嫁ズとフレンドリーに話していて、もう完全に打ち解けていた。

 女同士、何かアドバイスをしたり受けたり……

 こちらも、愛くるしい笑顔を浮かべている。

 

 ふたりとも、何か良い感じだ。


 さてさて……

 仕入れと同時に、アンテナショップで販売する商品の競合もチェック。

 そもそもボヌール村の対外的な特産品は蜂蜜に、ハーブティ。

 そしてクラリスのデザインした可愛い服。


 蜂蜜はありふれているから味で勝負は勿論、他と差別化しなくてはならない。

 ハーブティは少々珍しいが、エモシオンにはあるから、こちらもひと工夫が必要。


 ちなみに、村で一番オリジナリティな商品はやはりクラリスの服。

 独特のデザインは、他の追随を許さない。

 遠い王都でも、結構な人気だという。


 ちなみに、この世界の服は作業着以外、殆ど既製品がない。

 皆、イージーオーダーで高価。

 つまり、金持ちが作らせる服が大部分。

 『それら』を飽きたからという感情で廃棄するか、屋敷の使用人が密かに売り払う。

 そんな理由で大量に出る中古服を、庶民が買うのだ。


 元々クラリスは、自分の服をまず村の人に着て貰いたいという気持ちがある。

 彼女はまず男女の標準的な体型を元に既製服を手作りする。

 村の人達には実費な格安の値札を付けて、地元の大空屋で売るという趣旨。


 暫し置いて、売れ残った服を商隊が買い上げ、王都の商人に売る。

 そして王都の人々が、クラリスの服を買うという流れなのだ。


 俺は、いろいろ考える……

 うん!

 企画がまとまって来た。


 仕入れの買い物が済んだ俺は、休憩という名目でエモシオンのカフェに全員を誘う。

 当然、俺達のアンテナショップで開く『カフェ』の下見も兼ねている。

 俺達が入ったエモシオンのカフェは、元居酒屋ビストロだった店舗をそのまま居抜きで使っている。

 ちなみに居抜きというのは、前の店の設備や内装をそのまま使う事。

 つまり今、俺達がお茶を飲むカフェの内装は、以前の居酒屋と全く変わらないという事だ。

 但し、給仕担当の女子はメイド服という男のツボを突く出で立ちなのだが。


 俺達の店を全てカフェには出来ないが、内装は少し工夫する余地がありそうだ。

 そして給仕をする女子の制服は、クラリスにデザインして貰う。

 目の前の給仕女子達が着るメイド服をベースにし、更にパワーアップして作って貰うのだ。


 普通なら、作戦会議をするところであるが、ここでやったら筒抜け。

 ライバルの店主が、聞いてしまうかもしれない。

 なので、具体的な作戦会議はオベール様の城館で行う。


 カフェでお茶を飲んで、ひと休みした俺達は……

 成功への予感を持ち、城館へ戻ったのであった。

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