第12話「救出②」

 ひとりの女の子のを取り囲む男達は、全員冒険者風。

 多分、最近この町へ来た輩だろう。

 まずは、あいつらの動きを止めて、注意を俺へ向けさせる。

 理不尽な暴行を止めるのだ。


 ここは、一発!


「ごらぁ!!!」


 俺の一喝を聞いた男達は、吃驚して振り返った。

 男達の視線をスルーして周囲を見れば、ひとっこひとり、猫の子さえ居なかった。

 元々人通りの無い裏道であり、見かけた者も関りになるのを避けたらしい。

 ああ、本当に『人情紙の如し』だ。


「何だ、てめぇ?」

「こら、てめぇも殺されたいか?」

「ごらぁたぁ、何だ、生意気だぞ、ごらぁ!」


 叫んだ俺を認めた男達は、肩を怒らせて凄む。

 ああ、こいつらったら……

 

 俺だって、顔に自信がないからあまり言いたくない。

 加えて、性根と顔は関係ないと思うから、信じたいけど……

 こいつら、人相が悪いって言葉がぴったり。

 目をギラギラさせているし、しょ~もないくらいの、酷い悪党面だ。


 と、ここで漸くアンリが追いついた。


「ケ、ケン様。は、走るの、は、速すぎますよっ!」


 アンリの奴、肩で息をしている。

 というか、今にも息が切れそうだ。

 だが、労わっている余裕はない。


 男達は改めて、俺とアンリを見た。


 20歳少し超えの俺と、まだまだ少年のアンリ。

 すなわち、若造と餓鬼……

 5対2……

 雰囲気から、喧嘩慣れしたらしい男達は、くみし易しと思ったのだろう。


 こちらへ、つかつか歩いて来る。

 近付く男達を見て、アンリが声を張り上げる。


「おい! お前達! このお方を! 誰と、心得るかぁ!」

 

 アンリの奴。

 まるで、水戸黄門を紹介する、助さん&角さんの口上みたいに言うじゃないか。


 しかし俺は「さっ」と手を挙げた。

 後ろへ居るアンリへ、俺の『身分』を言わなくても良いという、意思表示だ。


「え? ケン様、何故?」


 驚くアンリだが、俺は振り向かず、そのまま首を横に振った。

 口上を止めたアンリを見た男達が、一斉にせせら笑う。


「へぇ、この方だとぉ? 一体誰だよ、こいつはぁ? 馬鹿餓鬼がぁ」

「ひゃはははは」

「びびってるのかぁ?」


 俺とアンリが抵抗しないとみたのか、勝ち誇る男達。

  

 いや、これで良い。

 ……俺は宰相を命じられても、殊更顔を売ろうとしてはいない。

 従士や衛兵は全員俺の顔を知っている。

 しかし、一般町民で俺の正体を知るのは、ほんの僅かだ。


「ケン様ぁ」


 『宰相』という身分を告げない俺を、不可解に思ったのだろう。

 唖然とするアンリへ、俺は声のトーンを落とす。


「……アンリ、俺が挑発して奴らを引き付ける。奴ら全員が俺に向かって来て、女性から離れたら、チャンスだ。一気にダッシュして彼女を助けろ、良いな?」


 俺の指示を受けたアンリだったが、まだ状況を飲み込めていない。


「へ?」


「馬鹿野郎、腑抜ふぬけないでしっかりしろ、お前は騎士だろう?」


 改めて俺が叱咤すると、漸くアンリも『正気』に戻ったらしい。


「は、はいっ!」


「状況をしっかり見て、冷静に行動しろ……良いな? じゃあ行くぞ」


「は、はい!」


 久々に、クッカ直伝の『挑発』をやってやるぜ。

 さあ、撒き餌だ。


「おい、おっさん共」


「おっさんだと?」

「生意気だぞ、こらぁ」

「若造めぇ、ふざけるな」

「殴られたいかぁ?」


 おお、喰い付きが凄いねぇ。

 じゃあ、どんどん行こう。


「うるさいぞ、この雑魚共がぁ!」


「な、ざ、雑魚だとぉ!」

「てめぇ!」

「ぎたぎたにしてやるぅ!」

「殺してやるぜ」


 ははは、本当に単純、短気な野郎共だ。

 もっと、もっと挑発してやるぜ!


「吠えるな、ゴミ雑魚共! お前達みたいな、しょーもないクズのゴミ雑魚はさっさと、土下座してひれ伏せ! さもないと、ゴミ箱にぽいっとして廃棄処分だ」


「ふ、ふ、ふざけるなぁ!!!」

「てめぇ、ほんとに殺すっ!!!」

「八つ裂きにしてやるっ!!!」

「粉々にしてやるぅ!!!」


 あは、大馬鹿野郎共が!

 挑発されて、全員が俺に向かって突っ込んで来やがる。

 暴行されていた女性は、ひとり残されている。

 よし、チャンスだ!


「今だ、アンリ」


「はいっ!」


 俺が合図を送ると、スタンバっていたアンリが「さっ」と走って、男達の背後に回り込んだ。

 ああ、落ち着けば、結構やるじゃないか。

 アンリの奴、思った以上に素早い動きだ。


「あ、く、糞っ!」


 俺の『作戦』に気づいた男が、たったひとりだけ居たが、もう遅いぜ。


「おら、よそ見すんじゃねぇ! てめぇらの相手はこの俺だ、かかって来いやぁ!」


 俺が最後の挑発をかけると、男達はもう迷わなかった。


「コノヤロ~!!!」

「糞がぁ!!!」

「死ねぇ~!!!」

「ぶっ殺せぇ!!!」


 セリフと、声の大きさだけは凄いけど……

 こいつらは、並み以下の強さ。

 魂に書かれたレベルを、さりげなく見たけど、15にも行かない、本当の糞雑魚。


 奴等から殴られ、蹴られたらしく……

 顔を腫らして泣き崩れている女性を、アンリがしっかり抱き起した時。

 

 ばぐ! ぼぎ! がん! どん! ばごぉ!


 俺は、無敵の天界拳をさく裂!

 奴等の顔に腹に!

 振るった拳を、深々と喰い込ませる。

 手加減はしておいたから、殺しはしないけど。

 

 もう、一瞬の出来事。

 俺は襲って来た5人の暴漢共を、あっさり倒していたのであった。

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