第13話「熱い視線」
ここは、オベール様の城館……
事件から、もう3時間が経っていた……
今、俺達はとても遅い昼食を摂っている。
漸く、事件の後始末がついたのだ。
幸い女性の命は助かり、俺と嫁ズは安堵していた。
男達を、あっさり倒した後……
俺は路地裏で襲われていた女性を無事保護し、気絶させた犯人の男共を、嫁ズが呼んでくれた衛兵に引き渡した。
保護された女性は、現在城館に収容され、手当てを受けている。
従士の報告によれば、男達は厳しい取り調べを受け、全てを白状したそうだ。
俺の報告を受けた、オベール様は上機嫌。
女性の無事は勿論、重臣と見込んだ、婿の俺が大きな手柄を立てたからだ。
大きな、手柄と言うのは他でもない。
エモシオンの秩序を守った事である。
町の治安が悪いという評判は、オベール様にとっては宜しくない。
かつてドラポール伯爵家の兄弟が、オベール様の足を引っ張ろうとした理由付けが、領主としての統治能力に欠けるというもの。
そのひとつが『治安の悪さ』である。
例えば、ライバルの貴族が、「あの町は物騒だ」と王家に告げ口する。
王家から与えられた領地内にある町を、上手く治める事が出来ないのは、領主としては不適格となってしまう。
王家がそのように判断したら、もう致命的だ。
なので、領主達は王家に悪い印象を与えないよう、町の治安維持にはとても気を遣うのだ。
犯人の男達に対して必死に抵抗したらしく、女性は酷い暴行を受け、結構な怪我をしていた。
だが、俺が密かに治癒魔法を使ったので表向きは軽傷。
誤魔化すというか、事実を闇に葬った感はあるけれど、結果的にエモシオンの評判は落ちなくて済んだ。
まあ、オベール様とイザベルさんはそこまでは知らない。
単純に、女性を助けた事を喜んでいたのだ。
だが……アンリだけは違和感を覚えているらしい。
彼が助け起こした時、女性の怪我は相当酷かったのに、いつの間にか軽度になっていたからだ。
そのせいか、ずっと俺を見つめている。
だけど疑うとか、不審というよりは……
「じいっ」と、興味津々な目で。
一体、アンリが何を考えて、俺を凝視しているのか?
彼の心を読めば簡単だが、俺はやらない。
必要以上に人の心を読むのは、人の家へ土足で踏み込むような罪悪感があるから。
と言っても、この異世界は中世西洋風。
家の中も土足だったという、落ちでした。
はい、お粗末!
事件の話のせいで、「はしょって」しまったが……
アンリの紹介も、改めて為された。
聞いていた通り、オベール様の後輩である王都勤務の騎士爵家の三男だという事だ。
アンリは、俺達を迎えに来た時から、受け答えがはっきりしていて好印象。
真面目で、誠実そうな印象を受ける。
さっきの動きから分かるように、身体もそこそこ鍛えており逞しい。
名前と出自をオベール様から紹介された後……
アンリ自ら、簡単に経歴を話してくれた。
現在、17歳で王都出身。
7歳から始まった丁稚奉公ともいえる長い下積み時代を経て、現在は騎士見習いの身だとか。
父親に頼んで、この南方の町エモシオンへやって来た。
つまり、オベール様付けの騎士として、この城館で暫く働く事となったのだ。
アンリの『考え』は話していないから知らないし、分からない。
俺個人としても、特に興味はない。
まあ、今日会ったばかりだし。
雰囲気からしても、怪しいとか、凶暴で俺達家族へ害を為すとも思えなかった。
なので、いつもの考え通り、心を覗こうとも思わない。
だが丁稚奉公をしていた家にそのまま騎士見習いとして仕えるか、王都やその近郊の町で武者修行すれば良いのになあと、個人的には思ってしまう。
何故、わざわざこの遥か南方の町まで、やって来たのだろうか?
ここへ来るだけで、大変だっただろう。
当然だが、王都からの直行便なんてない。
多分馬を借りたり、商隊の馬車に便乗させて貰ったりして、苦労してたどり着いたに違いないのに。
一応、想像は付く。
……多分、オベール様と父親の仲からだろう。
気心が知れていて、全く赤の他人より安心出来るから?
確かに、それはある。
何せ、オベール様の事を『クロードおじさん』と親しげに呼ぶくらいだ。
王都からこのエモシオンは遠い。
頻繁に会って、気安くしていたのではないだろうが、昔からお互いに知っている雰囲気ではある。
そんなこんなで、食後のお茶になった。
良い頃合いと見て、俺はオベール様へ聞いてみる。
「そういえば、あいつら、どうするんですか?」
あいつらとは、女性に暴行した犯人共。
罪状は……暴行、拉致未遂といったところか……
俺に聞かれたオベール様は、即答する。
「決まっておる、極刑だ」
極刑?
死刑って事か……
「へぇ、シビアですね」
俺が聞けば、オベール様は厳しい表情で言う。
絶対に許せないというオーラをばりばり出していた。
「当然だ、厳しく尋問したら、奴等にはたくさん前科もあった。だから容赦しない。町内引き回しの上、郊外の刑場で斬首の刑に処す」
この異世界で犯罪を犯した場合、刑罰は厳しい。
王国の法律では、殺人や強盗と並んで、婦女の拉致や暴行は重罪なのだ。
ちなみに王都では中央広場において、衆人環視の中、公開処刑というのが決まりらしい。
いわゆる見せしめで、次に起こりうる犯罪の抑止の為だ。
これって、俺が読んだ資料本に乗っていた、地球の中世西洋と一緒である。
更に吃驚したのが、これも中世西洋と一緒で、死刑が市民の娯楽になっているという。
いくら娯楽が少ないとはいえ……
俺は絶対にパスしたいが、人の死にざまを見るのが娯楽なんて、何とも凄まじい。
ちなみにオベール様は町が血で汚れるのが嫌だと言って、エモシオン郊外の荒野で処刑を行う。
今頃はあいつらも、迫り来る死の恐怖に怯えているだろう。
だがオベール様の言った通り、俺も奴らの心の中を見たら、とんでもない数の女性を『暴行』していた。
否、暴行だけじゃなく、殺してもいた。
因果応報、あれでは死刑も仕方がないだろう。
今迄放置されていたのが、不思議なくらいの凶悪な害虫共だ。
そんな事を「つらつら」考えていても、まだ視線を感じる。
アンリの奴は何故なのか、ず~っと俺の事を、熱い視線で『見つめっ放し』なのであった。
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