昔に帰ろう2編

第1話「吟遊詩人」

 俺が作った異界、すなわち楽園エデンを模した、夢の世界でソフィと話し……

 熱く盛り上がったら、またも、やる気が出て来てしまった。


 え?

 お前はドスケベ?

 嫁とイチャして、散々盛り上がった結果なんて聞きたくないぞって?

 どうせソフィと、開放的な楽園で、堂々と野外エッチへなだれ込むって事だろうって?

 違う、違う!

 父オベール様と彼の家族の居る目の前で、いくら夢だからって、そんな事は出来ないって。


 やる気になったのは、当然、昔遊びである。


 「亡き両親の思いをずっと大切にして」なんて、ソフィから言われ、思いっきり感動してしまったのが大きい。

 だが、理由は他にもある。


 ボヌール村で先に流行らせた昔遊びは、もう定番となってしまっている。

 俺の子供も含め、村の子供の中には少し飽きている者も出ていた。

 実は、そろそろ頃合いかなとも思っていた。

 ちなみに虫遊びは季節限定の上、嫁ズの中には虫嫌いが相当居るから敬遠されがち。


 なので、新味のある昔遊びをと、思った次第。


 夢をつくる魔法は苦労して覚えたし、効果は絶大。

 折角だから、今回の話を詰める為、最大限活用する事にした。

 気持ちの良い楽園エデンで、嫁ズ全員と、楽しく打合せをするのだ。

 お子様軍団に見つからないような、目立たない場所をわざわざ探す手間も要らず。

 打合せをする時間も寝ている間だから、忙しい昼間の労働に、全く影響しないのも良い。


 というわけで……

 エモシオンから帰って来て、仕事が一段落すると、早速招集をかけ秘密の会議をする事にした。

 驚かせないように、各自にこっそりと、秘密を教えておくのは常識。

 結局は、お子様軍団が寝静まった夜、自宅で飲みながら「だべる」のとあまり変わらないのだけれど……


 事前に聞いていたとはいえ、楽園エデンを目の当たりにした嫁ズの反応は、やはり喜びに満ち溢れていた。

 西洋の言い伝えとはいえ、この楽園は人の根っこに相当すると思う。

 つまり東洋出身の俺も含め人間にとっては、真の心の故郷なのである。

 

 緑の草原の中に、いくつも深い森が混在する広大な土地。

 草の香が、爽やかに漂う。

 目の前の森の木々には、鮮やかな果実が実っている。

 吹く風も温かく、心地良い。

 遠くで、鳥が鳴く声。


 俺が安全宣言してOKしたら、嫁ズは思い思いに違う方向へ駆け出していた。

 身重な筈のグレースも、思いっきり草原を走っていた。

 夢の中だから、絶対に大丈夫なのに、ソフィが心配して、ぴったり『姉』へ寄り添う。

 ふたりで気遣い合う様子を見て、気持ちがジーンとしたのは内緒。


 俺は座って、嫁ズのはしゃぐ姿を眺める。

 全員、まるで子供に戻ったようだ。


 分かる!

 普段の悩みやわずらわしさから解放され、彼女達は思いっきり弾けている。


 結局、俺の傍らに残ったのは、クッカとクーガーのふたりだけ。

 爽やかな風が吹く中、一緒に、草の上にゆったりと座っていた。


『旦那様、今回の作戦だけど……言い出しっぺだから、当然、アイディアは、あるよね?』


 笑顔で、いきなり切り込んで来たのはクーガー。

 「考えなしで、嫁ズ全員招集は掛けていないよね?」と、口調はきついが、俺に花を持たせてくれているのは明白だ。

 で、聞かれた肝心のアイディアだけど……あるのです、これが。


『おお、あるぞ。エモシオンに出かける少し前に、村へ吟遊詩人が来ただろう』


『うん、旦那様、吟遊詩人の詩って、結構面白かった!』


 クーガーの傍らに居た気配りのクッカは、笑顔を作って、すかさずそう言うけれど……

 表向きは双子設定の、もうひとり同じ顔をしたクミカ、クーガーは少し渋い表情である。


 吟遊詩人とは、ぶっちゃけ正体は文字通り詩人なのであるが。

 彼等、彼女達はタダの詩人ではない。


 詩だけではなく、詩に合う曲もつくる。

 作るだけじゃなく、楽しく歌いもするし、持っている楽器で賑やかに演奏したりもする。

 中二病では皆さまお馴染みの芸人ともいえる、万能エンターティナーなのだ。


 吟遊詩人の歌う詩の内容は、いろいろある。

 英雄譚、戦記、恋愛、そして時事ネタに……お客に受ければ何でもやってしまう。


 以前も言ったが、この異世界は、俺の居た前世に比べれば娯楽が極端に少ない。

 だから吟遊詩人が来てくれて、村で興行して、大いに盛り上がった。


 そもそも今回、吟遊詩人が、わざわざこの辺境のボヌール村へ来てくれたのは、領主オベール様のお陰。

 たまたま、エモシオンの町へ来ていた吟遊詩人のおっさんが居た。

 オベール様の城館で大いに歌って貰った後、オベール様は俺達の事を思い出してくれた。


 俺とソフィ達家族が楽しめればと、吟遊詩人を寄越してくれた。

 結構な金をはずんだ上、従士を護衛に付けてボヌール村で興行するよう指示してくれたのだ。


 実は俺、生で吟遊詩人を見て、歌を聞いたのは初めてであった。

 前世では典型的な中二病だったから、最初はとても感動した。


 そして率直な感想!


 吟遊詩人のおっさんが今回歌ってくれたのは、創世神様の教えを受けたありがたい聖人の話。

 良く言えば、とても格調高かった。


 逆に悪く言えば……真面目過ぎて堅い!

 だが、オベール様の好意を考えたら、表立っては文句は絶対に言えない。


 俺の子供達は結構喜んでいたけれど……おっさんの、身振り手振りを交えた独特な語り口調が、単にうけているだけと見た。

 けして馬鹿にしているわけじゃあないけど……

 内容を考えたら、子供が理解して拍手喝采しているとは思えない。

 いろいろなタイプの吟遊詩人が居るだろうから、一概には言えないけれど……

 凄く期待していた分、「むむむ、こんなものか」って、少しだけがっくりしてしまった。


 俺だって、一応理解はしている。

 レベル99の俺の力は、この異世界の管理神様から授かったもの。

 その管理神様の、大ボスにあたるのが創世神様。


 信心深いこの世界では、この手の話は絶対に必要だ。

 明日もはっきり見えない、生と死が隣り合わせの生活の中で、信仰の力って大きいから。


 俺がつらつらと、そんな事を考えていたら……


『何、言ってるの、もう少し内容が柔らかい方が絶対に面白いよ』


 ああ、歯に衣着せぬ、本音ズバリ派のクーガーは俺と同意見。

 というか、クッカも本音はきっと同じの筈だ。

 しかし、


『クーガー、そんなこと言ったら、折角手配してくれたオベール様に対して不謹慎でしょ』


 真面目に諭すのが、クッカらしいところ。

 性格が正反対のふたりだからこそ、こうしてバランスが取れているし、家族の中でも個性が立っている。


『分かっているって、オベール様の優しい思い遣りがありがたいのは! でもさ、クッカだって、もう旦那様の作戦……見えたでしょ?』


『うん! クミカの記憶がない私には、具体的なやり方は分からないけれど、旦那様が楽しい吟遊詩人をやるんでしょ?』


『あはは、旦那様が楽しい吟遊詩人ね。 まあ、あたらずとも遠からずかな。じゃあ、これから、全員で相談しましょ! お~いっ!!!』


 クーガーがさっと手を挙げると、思い思いに楽園で遊んでいた嫁ズは、すぐに集まって来たのであった。

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