第2話「種明かし」

 クーガーの呼び掛けで、俺の周りに嫁ズ全員が集まった。

 全員わくわくどきどき、強烈な期待オーラを放って来る。

 そして、俺を促すのもクーガーだ。


『さあ、旦那様、貴方のアイディアを発表して』


『了解! ええと、打合せの趣旨は事前に話したが、今日は昔遊びに関して新しいものを加える相談だ』


『やったぁ! ダーリン、いぇい!』


 嫁ズの中で、一番喜んでいるのはレベッカだ。

 彼女は今迄に、昔遊びの企画段階で絡んだ事がない。

 前々から『仕掛け人』をぜひぜひやりたいって、俺にせがんでいたのだ。


 だが話を聞いて、レベッカは「がっかり」するかもしれない。

 今回俺が提案するのは、彼女が得意とする『運動系の遊び』ではないからだ。

 そして、聞き慣れない単語を言えば、嫁ズはクーガーを除いて全員が戸惑うだろう。


『俺が今回、昔遊びとして、提案するのは紙芝居だ』


『え? ダーリン、何それ、芝居って?』


 案の定、レベッカは戸惑い、きょとんとした。

 他の嫁ズも、にこにこ笑顔のクーガー以外はきょとん。

 かろうじて、クッカが分かったような分からないような微妙な表情。


 そもそも、この異世界において、『芝居』とは劇場の俳優から路上の大道芸人が行う『演劇』の事だという。

 辺境で小さなボヌール村に、当然ながら劇場などない。

 また大道芸人も、『稼ぎ』にはならないから殆どやっては来ない。


 一応、嫁ズは『芝居』のイメージだけは持っているみたい。

 でも、今回俺が提案するのはその『芝居』ではなく、『紙芝居』なのだ。


 まあ俺だって、紙芝居の由来とかは、詳しく知らない。

 明治時代以降、形を変えながら伝わり、一世を風靡した後……

 テレビの発達などで、徐々に姿を消して行った……くらいの知識。


 さすがに俺の世代では、紙芝居をリアルで見てはいないから。

 故郷から、都会へ移り住んだ時に……

 亡き母の両親、つまり祖父母から聞いたり、テレビで見ていて楽しそうだと思ったくらい。

 しかし、「とても郷愁を誘うものだなぁ」と感じたのは覚えている。


 クーガーも紙芝居を知っているようだが、クミカは俺と同じ世代だから当然リアルで体験はしていないだろう。

 

 多分、生前のクミカが、どこかで見たり聞いたりして知識を得たに違いない。

 俺とクミカ、ふたりで遊んだ時にも、紙芝居は見ていない筈だから……


 紙芝居と芝居との違いは、演じるのがひとりだという事。

 敢えて言うのなら、たまに某俳優さんがやる『ひとり芝居』に、絵を付けたものと考えてくれれば良い。

 または、絵本の読み聞かせに、独特なパフォーマンスが付いたものが近いかも。


 ここでクーガーが、悪戯っぽく笑う。


『うふふ、論より証拠。旦那様、ここは夢の世界じゃない。頭の中のイメージに則って変身してみたら』


『おお、クーガー、論より証拠か? そうだな、やってみよう』


 確かにクーガーの言う通りだ。

 くどくど説明するより、見て貰った方が良い。

 俺はテレビで見た、現代の紙芝居屋さんというのをイメージしてみた。

 ええっと、自転車に木の枠と紙芝居と、子供に見物料として売る飴を積んで……


 ああ、しかし……

 残念ながら、自転車は……呼び出すというか作り出す事は出来なかった。

 俺の魔法の巧拙とかではなく、何か制限が掛かっている感じだった。

 多分、自動車やPCなど前世の文明の利器をこの異世界へ出現させるのを管理神様が止めているというのが真相なんだろう。

 なので、残念だが自転車はなし。


 その代わり、頑丈なイーゼルみたいな三脚に、あの木枠が載っている形。

 また俺の風体はといえば……

 あの有名、某下町映画の主人公みたいな雰囲気。


 俺の独特な出で立ちを見て、大笑いしたのはレベッカだ。


『きゃははは、何それぇ、変なダーリン!』


 変?

 それは駄目、失礼だ。

 俺はあの映画が好きなんだから。

 なので、擁護。


『おいおい、レベッカ、変って言うな。これは俺の前世の服なんだから』


『え~っ、前世の? ダーリンったら、普段はそんな恰好してたのぉ?』


『えっと……俺はしていない。着ているのは、ある一部の人達だけだ』


『本当? でも雰囲気が凄く面白い。それにその、しっぶい木製の枠は何?』


 ああ、良かった!

 レベッカの奴、興味を持ってくれたようだ。

 他の嫁ズも興味津々という感じ。


 ならば、説明を続けよう。


『これが紙芝居の劇場さ。ここからお客さんに芝居を見せる。そして俺も役者になるのさ』


『え? う~ん、分からないわ』


 レベッカは首を捻ってしまった。

 他の嫁ズも、クーガー以外は盛大に?マークを飛ばしていた。


 ここで、またまたクーガーがフォロー。


『だから~、旦那様、論より証拠なんだってば』


『ああ、そうだな』


 うん、そうだ。

 論より証拠、実際にやってみた方が、くどくど説明するより早い。


 但し、上手く出来るかどうか……

 俺に与えられたのは、万能のオールスキル。

 とはいっても、さすがに紙芝居屋さんのスキルは、管理神様も与えてくれてはいまい。

 ぶっつけだけど……俺は自分の持つイメージだけで、やってみなければならない。


 そして演目だが……

 俺は事前に散々熟考した結果、あるおとぎ話をやってみる事に決めていたのである。

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