第13話「受け継ぐべき意思③」

『だってパパったら、おこると、おかおがこわいもん』


 愛する息子から、顔が怖いと言われ、オベール様はショック。


『うう~。フィリップ、おまえ、パパの顔がそんなに怖いのか?』


『うん! すぐどなるし、こわいよ』


『…………』


 父の質問に対し、きっぱり言い切るフィリップ。

 ああ、子供って、正直且つ残酷だ。

 まあ残酷って言っても悪意は全くないんだけれど。


『おこるとパパはわるいひとみたい。わるいひとはどろぼうでしょ?』


 子供らしい無邪気な『方程式』であるが……愛する息子から、『泥棒みたいな顔』と言われたオベール様は更に大ショック、否、スーパーショック!


『こら! フィリップ、おまえ、よりによってパパが悪人だって?』


『ほらぁ、パパ、おこって、こわいおかおした、やっぱりどろぼうだ』


 ちょっち怒ったパパ、オベール様を指さしする、フィリップ。

 ここで、イザベルさんの『指導』が入る。


『だめよ、フィリップ。絶対にパパを指さしてはいけません』


 確かにそうだ。

 人に対しての指さしは、基本失礼な行為。

 子供とはいえ、善良な父親を指さすなど、けしてしてはならない。


『わぁ、ママ! ご、ごめんなさい』


『それにケイドロは遊びです。パパを本当の泥棒みたいに言ってもいけません』


『は、はい、ママ。パパ、ごめんなさい』


 『反則』を犯した息子へ、「びしっ」と厳しいしつけをするイザベルさん。

 素直にオベール様へ謝るフィリップ。

 すると、


『ううう、イザベル~。私はもっと笑顔でいた方が良いのかな~』


 いつもこんなやりとりなのだろうか。

 息子に「苛められた?」オベール様は、子供のようにイザベルさんへ甘え、泣きを入れた。

 対して、イザベルさんも慈母のような微笑を向ける。


『うふふ、あなた、子供は正直ですよ。でも大丈夫! 領主たる父親は少しくらい怖い方が、威厳があって良いわ』


 他愛もないやりとり……仲の良い親子の団欒。

 平和なひととき……

 誰もが羨む幸福の図式だ。


 俺の傍らで見守っていたソフィは、思わず微笑む。

 いつまでたっても子供のような父が、愛おしいのだろう。


『うふふ、旦那様。お父様ったら、あれじゃあフィリップと同じレベルね』


『だな。でも本当に……良かった』


『ですね!』


 俺が良かったというのは、ソフィも同意するのは……

 オベール様が、素直にグレースを祝福した事。

 現在の妻イザベルさんの気持ち、そして俺とグレースの気持ちを考えてくれた。

 過去を振り返らず、新たに掴んだ自分の幸せに向かって、真っすぐ邁進しているから。

 グレースほどの超美人妻だったら、普通は未練たらたらの筈なのに……


 良い年をして子供のように甘えん坊でも、やはりオベール様は男として素晴らしいと思う。


 暫し経ち……オベール様親子3人のケイドロは始まった。

 楽しそうに野を駆け、遊ぶ3人を、俺とソフィは眩しそうに眺めている。


 何か気付いたのか、ソフィが話し掛けて来る。


『でも旦那様』


『ん?』


『この夢の事が、やたらと広まったら、まずいのでは?』


 うん!

 ソフィの心配は尤もだ。

 だけど俺も、その点はしっかり考えてある。


『大丈夫。目が覚めたら、オベール様達の記憶は飛ぶから』


『え? 記憶が?』


『うん、夢って起きた瞬間、忘れる事が多いだろう』


『はい、そうですね』


『魔法を使って、俺達以外は、おぼろげな感覚でしか記憶が残らないようにした。つまり今、体験しているのは普通の夢と同じさ。起きて、ああ、良い夢見たなって感じでな』


『成る程!』


「ぽん」と手を叩くソフィ。

 文句なく納得という表情である。


 ここで俺は、しれっと補足説明。


『でも親父さんだけには後でケアをする。ソフィと会った夢は現実だって伝える。その上でしっかり口止めをすれば大丈夫だろう』


『え? それって…………』


『親父さん、あれだけソフィに会いたがっていたからな。夢じゃないって知れば、寂しくないだろう?』


 俺の気持ちを理解したのだろう。

 ソフィは「ぴたっ」と俺にくっつく。

 身体をすりすりして、凄く甘えて来る。


『うふふ、旦那様ったら、やっぱり優しい……大好き』


『おお、ソフィは甘えん坊だな』


『うふふ、分かるでしょ? 私はお母様だけじゃなくて、お父様にも似ているの』


 悪戯っぽく笑うソフィ。

 両親両方に似ているって、彼女の中では最高の喜びなのだろう。

 だから俺も笑顔で返してやる。


『あはは、そうだな、ソフィはオベール様にそっくりだぞ』


『うふ、でしょ?』


 ソフィは、ますます甘えて来る。

 「きゅっ」と抱き着いて来て離れない。

 

 うん、ばっちりだ。

 

 オベール様一家が3人で遊べば、ひとりになったソフィは俺にくっつく。

 そう、こんな展開になるって、俺は予想していた。

 夢の中だけど、久々にふたりきりのデート。

 この『楽園デート』が俺から、ソフィへのささやかなプレゼントなのだ。 


『ねぇ、旦那様。いつか聞こうと思っていたんですけど』


『何?』


『ケイドロを含めて、旦那様が教えてくれた遊びって本当に面白い。あれって誰が考えたのでしょう?』


 昔の遊びか……

 いきなりソフィから聞かれて、諸々の遊びの由来って奴を考えたけど………

 そんな事はあまり気にしていなかったせいか、元々考えたのは誰だか、俺には分からない。


『う~ん、残念だけど俺は知らないんだ……ちなみに、教えてくれたのは死んだ両親だな、一緒に遊びながらね』


 正直に答えると、ソフィは「にこっ」と笑う。


『うふふ、じゃあ旦那様のご両親って、私のお母様と一緒ね』


『え? ソフィのお母さんと?』


『ええ、ケイドロも旦那様のお父様、お母様が伝えてくれた意思。ボヌール村中、あんなに楽しく遊んでいる。そして目の前のお父様達もよ』


『俺の両親の……』


『そうですよ! 私はご両親が、旦那様へ伝えたいって気持ちを感じます。息子の家族や仲間、皆で仲良くしてねって意思………だからずっと受け継ぐべき意思なのよ』


 俺がこの異世界で、昔の遊びを広めたのも……

 家族と、そして出会う人達と仲良くして欲しいっていう、亡き両親の意思……か。

 確かに、そうかもしれない……

 俺の家族から、昔の遊びが村中に広まって、年配者も大人も子供も村民同士、更に仲が良くなったから。


 前世で、俺の両親は離婚した……

 紡いでいた、温かい家族の絆は、無残にもばっさりと切り離されてしまった……

 更にひとり、未知の異世界へ来た俺は、一時的とはいえ完全な孤独状態へと陥ってしまった。


 だけど……

 今の俺は、けしてひとりぼっちじゃない。

 様々な人達と出会いがあった。

 悲しい別れもあったけれど……


 自分の意思で、そして亡き両親それぞれの意思を継いで、家族を含めたボヌール村、そしてこのオベール様一家とも強い絆を作る事が出来た。

 そう思うと……とても嬉しい。

 

『おお、そうだな! ありがとう! 確かにそうだ、ソフィの言う通りだ』


『うふ! 嬉しいから何度でも繰り返して言っちゃう。昔遊びも、私達の子供達へ、また孫へ、もっと先へ繋げていかなくてはいけない大切な意思じゃないかしら?』


『ああ、そうだ。大事にしないといけないな』


 改めて、素敵な事に気づかせてくれたソフィへ大感謝!

 だから、もっともっとお礼をしよう。

 

 仲良く遊ぶオベール様一家を見守りながら……

 俺はソフィへ、そっと……しかし気持ちを籠めて、熱いキスをしていたのであった。


 ※『受け継ぐべき意思編』はこの話で終了です。

 只今、プロット考案中……

 次回パート再開まで、暫しお待ち下さい。

 今後ともご愛読、応援を宜しくお願い致します。

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