第5話「お出迎え」

 俺達は妖精少女テレーズを連れ、ボヌール村の正門まで戻って来た。

 当然、転移魔法で途中を大幅スキップして。


 そして毎回恒例の『入村儀式』が行われる。

 身元の分からないよそ者は、やたらに村内へ入れない。

 OKが出ても、武器は再び村を出るまで預かる。


 鎖国みたいで閉鎖的だが、この世界の街や村では自衛の為に当たり前の慣習だ。

 他では武器を預かるのまで、やらないかもしれないが。


 村民といえど、レベッカ父ガストンさん、そして同じく門番であるジャコブさんの厳しいチェックを毎回受ける。

 まあ俺は、ほぼ顔パスなんだけど……

 テレーズを連れて行ったら、予想通りというか、いきなりガストンさんの平和的な『突っ込み』がさく裂した。

 物見やぐらの上から盛大に叫んでいる。


「おいおい、ケン! その子はどこの子だよ? また嫁さん候補連れて来たのか? でもさ、今度はさすがに若すぎるんじゃないか?」


 テレーズが10歳くらいの少女なので、ガストンさんは格好の『突っ込みネタ』として使いたいらしい。

 

 でも、分かる、突っ込みする理由が。

 多分、のんび~り『平和』なんだ、今日も。

 ガストンさん達、全く異常なしで『暇』なんでしょう? どうせ。

 ……それでか……


「こら、親父さん! 違うっつ~の。パトロールの途中で旅の商人から預かったんだよ、ほら証拠の手紙」


 俺は管理神様から貰った手紙を左右に「ぶんぶん」振った。

 しかし、ガストンさんは「にやり」と笑う。


「でもさぁ、お前は、グレースさんを連れて来た時も、全く同じ事を言ってただろう?」


「くっ! ううう」


 言い返せない。

 確かにグレースが来た時は同じ事を言った。

 嫁候補じゃないと……

 だが、結局は嫁にした。

 というか、このパターンは既にお約束。

 確か、ソフィから始まって、クッカ、クーガー、そしてグレースと、「もう何度目だよ?」って感じだから。


「しゅん」とした俺を見て、ガストンさんは勝ち誇る。


「まあ、これくらいにしておいてやる。でもお前は偉いよ、男の甲斐性って奴だよな? 一夫多妻制採用の、我がヴァレンタイン王国に栄光あれぇ! って、くらい感謝するこった」


 何?

 我がヴァレンタイン王国に栄光あれぇ! って……

 どこかで聞いたセリフだよ、それ。

 まあ、良いや。

 とりあえず、ボヌール村の村民と最初の引き合わせだ。

 

 ジャコブさんに見張りを任せて、すぐにガストンさんは物見櫓から降りて来た。

 なので、まずはさっき「ぶんぶん」打ち振った手紙を渡す。

 

 一読したガストンさんは頷き、苦笑した。

 何とか、信じてはくれたみたい。


 俺は、少々緊張気味のテレーズを促す。


「さあ、テレーズ、ガストンさんへ挨拶してくれるか」


「は、はい! おじさん、私はテレーズよ。宜しくね」


「偉いな、テレーズちゃんか? 何歳だ?」


 ああ、駄目だよ、ガストンさんったら。

 10歳少女でも、中身はレディなんだから……

 いきなり「何歳?」は女性にはNGだ。


 と言っても、ガストンさんにはテレーズの正体が妖精だなんて分からないから……

 無理もないか……

 子供の年を聞くのは、大人にとっては普通の反応だもの。

 

「…………」


 案の定、テレーズは黙ってスルー。

 ガストンさんは、場の微妙な雰囲気が分かるわけもなく、豪快に笑う。


「ははははは! まあ良い。あと5年か、そこらは結婚出来ないという感じだろうから。まあケンは若いしな。ほんの少しの間、待って貰うが、全然平気だろう? テレーズちゃんは」


 だから!

 違うって、それは!

 

 テレーズに対して、変に優しく微笑みかけるガストンさん。

 見張りをしながら、物見やぐらでジャコブさんも大笑いしている。

 ああ、もうガストンさん達の心の中にはテレーズの嫁入りシーンが浮かんでいるに違いない。


「テレーズちゃん! ほんのちょ~っとだけ待てば、大好きなお兄ちゃんと結婚出来るよぉ」


「…………」


 相変わらずテレーズは無言。

 表情もしかめっ面。

 さすがのガストンさんも、これはまずいと思ったのか、話題をさっと変える。


「とりあえずお疲れさん。ところでパトロールは上手く行ったか?」


「ええ、数体ゴブが出ましたが、追い払いました」


 本当はゴブが100体以上出たが、楽勝で掃討済み。

 つまり闇から闇へ葬っている。

 まあ『ふるさと勇者』は秘密の『裏稼業』だもの………このような報告は慣れっこだ。


 ゴブ数体なら、特に問題ないと受け止めたのだろう。

 ガストンさんも笑顔である。


「そうか! 大した事ないな。最近魔物も鳴りを潜めているから、ひと安心だ」


 そんなこんなでガストンさん達との会話も終わって、正門を通り、村内へ入ると……


「あう? 何だ、お前達?」


 ……リゼット以下、我が嫁ズが「ずらっ」と勢ぞろいして待っていた。


 仕事を終えての出迎えは、超が付くくらい嬉しいけれど……

 でも何か、嫁ズ全員、微妙な表情をしている。

 妙な迫力も醸し出していた。


 実は……念話で先に経緯いきさつは伝えてある。

 リゼットが第一夫人なので、当然として。

 それに今回は管理神様案件なので、元女神のクッカ、元女魔王のクーガーへも伝えた。

 そこから全員へ伝わった筈だ。


 管理神様から、ぜひにと頼まれた事が女の子を預かる事。

 期間は約3か月予定で、預かったのは妖精の少女だという事。


 俺ほどは感じないのかしれないが、嫁ズだって管理神様の大きな恩は感じている筈だ。

 だから断れないのも分かってくれる筈……

 

 そんな中、『頃合い』と見たのか、従士達が念話で辞去を告げて来る。


『デ、デハ、ケンサマ。オツカレサマ』


『じゃあ、ケン様、俺っちはこれで……』


 あれぇ?

 挨拶すると、逃げるように去って行く。

 ジャンはともかく、あのケルベロスまで、珍しく慌てて……女は怖いって感じ?


 ぶひひん!


 最後にただひとり、ベイヤールだけが泰然自若という感じで厩へ戻って行った。

 従士達が居なくなるのを待っていたように、リゼットひとりが「ずいっ」と前に出る。


「旦那様、お疲れ様でした! さあ、帰りましょ。お父さんへは彼女の事、もう伝えてあるから。この後は家族会議ですね?」


 リゼットはにっこり笑い、手を差し出した。

 そうか、リゼット父の村長ジョエルさんには既にテレーズの事を報告してるって事か。

 まあ……助かるけど。


「あ、ああ……りょ、了解」


 俺は、何となく頷く。

 テレーズの手を引きながら。

 

 何か、嫁ズには懸念でもあるのだろうか?


 ぼんやりと、そう思いながら……

 俺は、自宅へ戻ったのであった。

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