第14話「確認します、愛」

「あ!」


 俺は、小さく叫んで目を覚ました。

 気持ちを込めて、管理神様へお礼を言った瞬間だった。

 遥かな異界である夢の世界から、この現実世界へ戻って来たのだ。


 見上げると、趣きのある木製の天井が見える。

 そう、俺は……王都の宿屋、白鳥亭のベッドに仰向けで寝ていた。

 慌てて確認すると、傍らにはグレースが「すうすう」と安らかな寝息を立てていた。

 そ~っと寝顔を見ると……とても穏やかな表情である。


「良かった……」


 ぽつりと、しかし実感を込めて俺は呟いた。

 

 安堵した。

 ちゃんと、グレースが居てくれた。

 真実が明らかになっても、愛するグレースを、手放さずに済んだ。

 

 再び、実感する。

 愛しいグレースは俺と居る。

 確かに居るのだと。


「ああ、グレース、良かったよ」

 

 どうやら俺の呟きが聞こえたようだ。

 グレースが僅かに動く。

 起こしてしまったようである。


「……何が……良かったのですか?」


「あ、悪い、起こしたか?」


「うふふ」


「いや、お前が俺の傍に居てくれて……無事に夫婦でいられる事に感謝したのさ」


「私も……同じ気持ちです」


 グレースは俺をじいっと見つめた。

 そして、くっついて来る、俺の胸へすりすりして顔を埋める。

 昨夜から、ずっと甘えん坊のままだ。


「何か……私……子供みたい」


「ん?」


「貴方よりも、ずっと年上なのに甘えてばかりいて……」


 いや、嫁はいくつになっても可愛くて甘えん坊に限るだろう。

 特に夜は。

 だから、俺は返してやる。


「全然OKさ、甘えるお前はホント可愛いよ」


「うふ……」


 俺の言葉を聞いて、グレースはホッとしたようである。

 

 ああ、いつものグレースだ。

 優しい笑顔に満ちているもの。

 だったら今度は俺の番。


「じゃあ、俺も甘えるか!」


「うふっ、いっぱい甘えてっ」


 愛する嫁のお言葉に甘えて、だったらゴー。

 俺はグレースのおっぱいに優しくキスをした。

 何度も、何度もいっぱい。

 更にエスカレート。

 ふんわりおっぱいに、顔もうずめさせて貰う。


 ああ、癒される。


 あまり言っていなかったけれど、グレースのおっぱいは大きい。

 形も抜群。


 ミシェル、クッカ、クーガーのおっぱいと良い勝負。

 でもおっぱいの大小は関係ない。

 男って永遠の子供。

 本能的におっぱいそのものが好きなんだ。

 だってレベッカの小ぶりなおっぱいだって、俺は大好き。

 いっつもたっぷり甘えてしまうから。 


 さあ、いい雰囲気になったところで言うぞ。

 告げるべき事の為の前振りだ。


「俺、さっきまで夢を……見ていたよ」


「私もです」


 ああ、ふたりとも夢を見ていたんだ。

 俺の夢は……管理神様との会話だものな。

 ならば、グレースの夢は何だろう?


「どんな夢か、教えてくれないか?」


「私も旦那様の見ていた夢が何なのか、知りたいです」


「良いぜ! じゃあレディファーストだ。グレースが先に話してご覧」


 俺が促すとグレースは口籠りながら、話し始めた。


「は、はい、ちょっと恥ずかしいのですけど……まだ10歳くらいの頃の夢です」


「10歳の頃か、グレースのことだ、まるでお人形さんみたいだったんだろうな」


 俺は10歳のグレースを思い浮かべた。

 ツンとしてちょっと生意気そうだが、可憐。

 きっとフランス人形みたいに可愛かったのだろう。


 しかしグレースは謙遜する。


「そんな事ありません……10歳くらいの頃は私、お部屋でよく本を読んでいました」


「本か……」


「はい、小説や神話などが多かったです。とても空想好きな子だったんです」


「そうかぁ、グレースは、空想好きな子だったんだ」


 空想好き……それって俺と同じ。

 だって俺も中二病だから。

 あれ?

 ちょっと、違うかな?


 俺が頷くと、グレースはちょっと遠い目をしてる。

 子供の頃を思い出したようだ。


「はい! あの、勇者とお姫様とか、英雄と妖精の悲恋とか良く読み耽って……そして私の一番の夢は……優しくて素敵なお婿さんに巡り会いたいって……今、見ていた夢もそうなんです……昔のお部屋で子供の私が本を読んで溜息ついた夢でした……だけど……」


「だけど?」


「はいっ! 今、目が覚めたら、やった~って思いました。バッチリ叶っていましたから、夢が。……だって素晴らしい旦那様に巡り会えたんですもの」


 夢が叶った……

 グレースの子供の頃の夢が叶った。


 もしかして……すてきなお婿さんって俺?

 こんな俺なんかでホントに良いのだろうか?

 でも……

 ここは、素直に礼を言おう。


「そうか! ありがとう! お前だって素晴らしい嫁だよ」


「うふ、旦那様ぁ」


 おお! またまた甘える、甘えまくるグレース。

 ホント、可愛いな。


「今度は旦那様の番……ですよ、教えて下さい」


「ああ、俺は夢の中で管理神様と話していたよ」


 さらっと言った俺。

 甘えていたグレースの身体がぴたっと止まった。


 吃驚してる。


「か、神様に!? それって……」


「ああ、そうさ」


 今や嫁ズ全員が俺が異世界からの転生者だと知っている。

 そしてこの世界の管理神様からレベル99の加護を受けた事も。

 だから、俺が神様と話したというと無条件で信じて貰える。


 当然、家族だけの秘密だが……


 グレースも、他の嫁ズ同様勘の良い女性だ。

 だからピンと来たようで、恐る恐る聞いて来る。


「じゃ、じゃあ、神様から……私が啓示を受けた事は教えて頂きましたよね。ご、御免なさい……旦那様にずっと黙っていて」


「大丈夫、管理神様に一切聞いたから、全部知っている」


 俺はグレースを安心させてやった。

 それにグレースは俺を信じて全てを話すと、管理神様から言われたから。


「…………」


「ありがとう、グレース。俺を……信じてくれて!」


 無言になったグレースへ俺はまた御礼を言う。

 何か、「ありがとう」の大安売りだが、ここは告げるべきだろう。


「…………」


 しかしグレースは返事をせず、無言で肩を震わせている。

 いきなり、どうしたんだろう?


「どうした?」


「怖かったんです……」


「怖かった?」


「は、はい……わ、私は貴方を愛しています。貴方も私を愛してくれていると信じています。でも……不安はありました。……貴方が……こんな私では嫌いになってしまうかもって」


「な、わけないぞ」


「で、でも! ……この宿に着いてからは、ず~っとドキドキしていました。夜には運命が決まるって……信じれば、旦那様の事を信じていれば大丈夫って、何とか自分を奮い立たせましたけど」


「何、言ってる。もう離さないって言っただろう」


「ううう……ありがとう、ありがとう、旦那様ぁ」


 グレースは俺にすがって……泣いていた。

 でも悲しい涙じゃない。

 

 昨夜と一緒だ。


 夫である俺にしっかり愛されていると確信しての、心の底からの嬉し涙なのであった。

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